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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「近くの鎮圧に当たっていた幹部の二人が、こちらに合流するそうだ。…総帥(かれ)が心配なんだろう」
楕円のテーブルを囲む一同は、中央上座にレイン、彼から見て右手にブラッド、左手に聯、その隣に一哉、沙羅という形で座っている。
レインは、これ以上ない程の仏頂面で左隣のブラッドを眇(すが)め見たが、何知らぬ風な彼の横顔は従容(しゅうよう)としている。
アームレストに片肘をつき、手で額を支えるようにしながら、レインは鬱念と首を振った。
「余計な事を…」
レインの口から、苛立ちを含んだ溜息が漏れる。
幹部に連絡を取ったのはブラッドだろうと、彼は直ぐに思い至っていた。
喋るのも億劫な時に、よりにもよって身内に足を掬(すく)われたような気分になり、そこに、芝居を打ったような聯の発言が加わり――今にも爆発しそうな憤怒を何とか静めようと深呼吸をしたところで、余計な事に――聯が更に、彼に火をつけた。
「私もブラッドの考えに賛成だよ、レイン。君は休んでいた方がいい」
「!」
レインはとうとう柳眉(りゅうび)を逆立てると、鋭い剣幕で聯を睥睨(へいげい)する。
「貴様に指図される謂れはない」
そう断じるレインのスピリッツが、彼の怒気に呼応して紅々(こうこう)と滲み出す。
一顧傾城(いっこけいせい)たる美貌の彼だが、それだけに、その眼光の峻烈(しゅんれつ)さは周囲を閉口させる。
有無を言わさぬド迫力は健在、微塵の弱さも感じさせないが、如何せん、その白い頬は熱で上気し、薄桜色に染まっている。
どう繕おうとも、彼のコンディションが最悪であることは明白だった。
「私は君が心配なだけだよ、レイン」
まるで子供をあやすようにそう言い、聯は微笑する。
彼の言動に棘があった訳ではない。
だが、傍目にも何やら険のあるやりとりだったように思え、大きな椅子に埋もれるように座っていた沙羅が、訝しげに聯を見つめる。
レインと聯、両者の間に片時の沈黙が流れ、そして…。
「君は誰より優秀なのに、時に…ひどく愚かだ。総帥がそれでは、部下は苦労するだろうね」
聯は事も無げにそう言い、飲杯(インベイ)に淹れられた福州白龍珠王(ジャスミン茶)を口に含んだ。
聯の露骨な切言に晒されたレインは、ただ言葉を失うばかりだ。
平時なら鼻であしらえる程度の挑発でも、失態を晒し、立つ瀬がない現状では返す言葉もない。
そんな彼の反応を愉しむかのように聯は悦を浮かべ、悠揚と足を組みかえながら、わざと歯に衣着せぬ明解な物言いで、彼を辱めるべく頂門(ちょうもん)の一針(いっしん)を刺す。
「誰より才能に恵まれたとはいえ、それでは意味がない。今の君はまるで…手のかかる稚児のようだ。ブラッドに甘えるのは構わないが…。もっと上手く、君をコントロールしてくれる人間を探すことだね」
「ル、聯…!?」
聯らしからぬ慇懃無礼な発言に沙羅は一驚し、その隣に座る一哉は、興味津々といった様子で身を乗り出している。
まんまと鼻を折られ、歯噛んだレインが立ち上がった。
ブラッドが伸ばした抑止の手を払い除け、聯の首元を乱暴に掴み上げる。
「それが自分だとでも言いたいのか。…下らん。さっさと状況説明でもしろ。これ以上、一秒でも…貴様と顔を合わせていたくない…!」
突き放すようにして聯から手を離したレインの額から、汗が滴り落ちた。
立ち眩みを起こしながらも、レインはあくまで意地を張り通し、平静を装いながら椅子に座る。
乱れた呼吸を強制的に整え、いつも通りの口調で話し始める。
「各国政府のデータバンク、軍事機関の持つあらゆる兵器の作動システム…対象は核と大量破壊兵器(NBCA)に絞った。それに他機関へのアクセス。主要回路の奪還、及び修復は成功したはずだ。同時に、敵サイドへ逆侵入して、その情報をSNIPER(ナイプ)とGUARDIAN(ギャド)、両機関に流しておいた。…だが途中で意識を遮断され、確認までは至らなかった。どうなっている」
レインの発言に、一哉が目を見張る。
――あの短時間で、各国主要機関のコンピュータ・システム全てにアクセスし、バベルのセキュリティーを破って侵入した?
各機関のネットワークに繋がる個々の端末からそれぞれにアクセスしたならまだしも、スナイパーの管理しているたった一つのメイン・コンピーュータから全世界のシステムを操作する事など、一般的な概念からすれば到底不可能な話だ。
例えば、スナイパーとペンタゴンは協力関係にあるが、当然ながらそれぞれに別のコンピュータ・システムを持っており、それを互いに共有する事はない。
「近くの鎮圧に当たっていた幹部の二人が、こちらに合流するそうだ。…総帥(かれ)が心配なんだろう」
楕円のテーブルを囲む一同は、中央上座にレイン、彼から見て右手にブラッド、左手に聯、その隣に一哉、沙羅という形で座っている。
レインは、これ以上ない程の仏頂面で左隣のブラッドを眇(すが)め見たが、何知らぬ風な彼の横顔は従容(しゅうよう)としている。
アームレストに片肘をつき、手で額を支えるようにしながら、レインは鬱念と首を振った。
「余計な事を…」
レインの口から、苛立ちを含んだ溜息が漏れる。
幹部に連絡を取ったのはブラッドだろうと、彼は直ぐに思い至っていた。
喋るのも億劫な時に、よりにもよって身内に足を掬(すく)われたような気分になり、そこに、芝居を打ったような聯の発言が加わり――今にも爆発しそうな憤怒を何とか静めようと深呼吸をしたところで、余計な事に――聯が更に、彼に火をつけた。
「私もブラッドの考えに賛成だよ、レイン。君は休んでいた方がいい」
「!」
レインはとうとう柳眉(りゅうび)を逆立てると、鋭い剣幕で聯を睥睨(へいげい)する。
「貴様に指図される謂れはない」
そう断じるレインのスピリッツが、彼の怒気に呼応して紅々(こうこう)と滲み出す。
一顧傾城(いっこけいせい)たる美貌の彼だが、それだけに、その眼光の峻烈(しゅんれつ)さは周囲を閉口させる。
有無を言わさぬド迫力は健在、微塵の弱さも感じさせないが、如何せん、その白い頬は熱で上気し、薄桜色に染まっている。
どう繕おうとも、彼のコンディションが最悪であることは明白だった。
「私は君が心配なだけだよ、レイン」
まるで子供をあやすようにそう言い、聯は微笑する。
彼の言動に棘があった訳ではない。
だが、傍目にも何やら険のあるやりとりだったように思え、大きな椅子に埋もれるように座っていた沙羅が、訝しげに聯を見つめる。
レインと聯、両者の間に片時の沈黙が流れ、そして…。
「君は誰より優秀なのに、時に…ひどく愚かだ。総帥がそれでは、部下は苦労するだろうね」
聯は事も無げにそう言い、飲杯(インベイ)に淹れられた福州白龍珠王(ジャスミン茶)を口に含んだ。
聯の露骨な切言に晒されたレインは、ただ言葉を失うばかりだ。
平時なら鼻であしらえる程度の挑発でも、失態を晒し、立つ瀬がない現状では返す言葉もない。
そんな彼の反応を愉しむかのように聯は悦を浮かべ、悠揚と足を組みかえながら、わざと歯に衣着せぬ明解な物言いで、彼を辱めるべく頂門(ちょうもん)の一針(いっしん)を刺す。
「誰より才能に恵まれたとはいえ、それでは意味がない。今の君はまるで…手のかかる稚児のようだ。ブラッドに甘えるのは構わないが…。もっと上手く、君をコントロールしてくれる人間を探すことだね」
「ル、聯…!?」
聯らしからぬ慇懃無礼な発言に沙羅は一驚し、その隣に座る一哉は、興味津々といった様子で身を乗り出している。
まんまと鼻を折られ、歯噛んだレインが立ち上がった。
ブラッドが伸ばした抑止の手を払い除け、聯の首元を乱暴に掴み上げる。
「それが自分だとでも言いたいのか。…下らん。さっさと状況説明でもしろ。これ以上、一秒でも…貴様と顔を合わせていたくない…!」
突き放すようにして聯から手を離したレインの額から、汗が滴り落ちた。
立ち眩みを起こしながらも、レインはあくまで意地を張り通し、平静を装いながら椅子に座る。
乱れた呼吸を強制的に整え、いつも通りの口調で話し始める。
「各国政府のデータバンク、軍事機関の持つあらゆる兵器の作動システム…対象は核と大量破壊兵器(NBCA)に絞った。それに他機関へのアクセス。主要回路の奪還、及び修復は成功したはずだ。同時に、敵サイドへ逆侵入して、その情報をSNIPER(ナイプ)とGUARDIAN(ギャド)、両機関に流しておいた。…だが途中で意識を遮断され、確認までは至らなかった。どうなっている」
レインの発言に、一哉が目を見張る。
――あの短時間で、各国主要機関のコンピュータ・システム全てにアクセスし、バベルのセキュリティーを破って侵入した?
各機関のネットワークに繋がる個々の端末からそれぞれにアクセスしたならまだしも、スナイパーの管理しているたった一つのメイン・コンピーュータから全世界のシステムを操作する事など、一般的な概念からすれば到底不可能な話だ。
例えば、スナイパーとペンタゴンは協力関係にあるが、当然ながらそれぞれに別のコンピュータ・システムを持っており、それを互いに共有する事はない。
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