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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


情報は組織の生命線であり、同時に心臓でもあるからだ。

だからこそ、ツォン・バイ率いるテロリスト達は、ペンタゴンをはじめとした各機関に複数のスパイを送り込み、各所で一斉にパニックが起きるよう、長い時間をかけ、周到に準備する必要があったのだ。

だがレインは、そんな常識をものともせず、時空を超越するかのような神技を、あの短時間でやってのけたと明言したのだ。

――こいつにかかれば数分で、世界中の情報が丸裸にされるってことか。
一哉はゴクンと喉を鳴らす。

――化けモンだな、やっぱ。コイツ…。

そんな一哉の反応に目もくれず、レインはマイペースに話を進めていく。

「衛星の切り離しは曖昧だったし、向こうのデータに踏み入ったところでトラップにかかった。電脳スペースに流れる信号を、意識として俺が理解できた限りの情報なら、話す事もできるが…」

「いや。それには及ばない」

聯(ルエン)が片手を上げ、入口に控えていた戦闘員に合図を送る。

「電脳スペースにおける君の圧倒的な能力には、本当に驚かされる」

聯の意向を汲み取った戦闘員の一人が、カード型の記録メディアを彼に差し出した。
視線をくれずにそれを受け取りながら、聯が続ける。

「向こうの情報は殆ど全てこちらに届いた。所々に多少の漏れはあるものの、全容を知るには何ら支障のない程度だったよ。各国政府の応援の下、我々と同時に情報を受信したスナイパーと協力し、次のターゲットとして定められていた場所は、現在、ほぼ全て鎮圧に成功している。衛星回路の遮断は不発だったようだが、君の後を引き継いだスナイパーの幹部が数分後、切り離しに成功している。情報、攻撃回路のコントロールが回復した今、ツォン・バイに打つ手はない」

レインは僅かに表情を緩め、ビジネスライクに首肯する。

「俺の理解した限りでは、ターゲットの殆どは水源だった。水源を破壊され、その権利を掌握されれば、状況は更に深刻化する…攻撃設定時刻はあと数十分まで迫っていた。…間に合ったならそれでいい」

先行き不透明だった状況が好転していた事に、レインは安堵していた。

文明国、特に人口が密集している地域をパニックに陥れるのに最も効率的な戦術は、水を利用することだ。

レインは、フーバーダムが破壊された時点で、その他水源地への攻撃に対する懸念を抱いていた。

フーバーダムが塞き止めている人造湖、レイク・ミードには352億㎥もの水があり、この湖水はアリゾナ、ネバダ、カリフォルニアの3州、人口にして約1500万人の飲料水と工業用水として使用されている。

そこを破壊され、近距離に位置するラスベガスはもちろん、400キロ離れたロサンゼルスでさえ、都市機能が麻痺している。

特にアメリカは6フィート以上のダムがおよそ7万7400ヶ所もあり、貯水容量は6000億平方㎥、日本の28倍にも及ぶ。

人間が生存するのに必要不可欠な水を支配される事は、命を支配される事と等しい。

湾岸戦争で米主導の同盟軍が、第一撃目の攻撃目標として貯水池、ダム、水のパイプラインを狙った事は一般的にも知られているが、本来ならば、1949年のジュネーブ協定において、水源地破壊は非人道的とされ、禁止されている。

「素晴らしいよレイン。光より速く情報が錯綜しているだろう電脳スペースの中で、攻撃予定時刻までをも把握していたなんてね」

ノーマン博士が彼を究極の生命体(アルティメット・ライフ)と呼び、異常なほど固執していた姿を回想しながら、聯は微笑する。

レインがフンと顔を背けた。

だが、そうした態度を見せながらも、やはり体調は思わしくないらしく、額の汗を拭うと片膝を抱え、膝に頭をつけた格好で蹲ってしまう。

「レイン…無理するなよ、頼むから」

ブラッドは彼の肩にそっと手を置くと、汗ばんだ首筋に触れた。
その手を硬直させ、顔を顰める。

――熱い。
隠してはいるものの、呼吸も荒い。

強まっていくブラッドの不安をよそに、レインは顔を上げ、淡々と話を進めていく。

「対テロ用の主機関はどうなった。俺の部下を数人貸してあったはずだ」

テロリストによる攻撃が開始されたと同時に混乱に陥った政府や軍と同様に、対革命戦用に置かれた主機関もまた、その機能を喪失した。

その渦中で、もしも誤報や敵の策略によって陥れられた国や軍がアメリカに攻撃を加えたと仮定した場合、、攻撃を受けたとなったら即、反撃を開始するであろう米政府への抑止と、政府から軍の統御を一任されていた聯の行動を監視するという目的で、レインは、名目上は情報整理の補佐役として、幹部の一人、アリ・ウィン少佐をはじめとするエージェント数人を、聯の周囲に置いていたのだ。


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