page04
SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「中央情報管理局(CIA)、国防総省(ペンタゴン)、国土安全保障局(DHS)も、ようやく機能を取り戻した。今は各機関とも、スパイの摘発に動いている。テロ対策の主要機関である三機関の協力を得られれば、こちらも心強い」
「…ふん。よく言う」
本心とはまるで違うであろう言葉を平然と口にし、臆する素振りも無くぬけぬけと表を繕う聯の態度を見咎め、レインが失笑する。
「大概にしろ、李…口が腐るぞ」
背中をさすってくれていたブラッドの手を素気無く払い、辟易した様子で聯を横目に見る。
「テロ対策の主要機関とは言いながら、元から連携はバラバラ、足並みすら揃えられなかった三機関だ。初めから貴様も、あてになどしていないだろう」
相手が誰であろうと率直に己の意見を主張するレインは、こういったアサーティブな発言で、不用意に敵をつくる。
心痛の種は尽きず…。
ブラッドは溜息をつきながらも、ここを機とばかりに伝達事項を告げる。
「幹部の事だけどな。合流するのは、アリとラウレスだ。…さっき連絡があった。既に二人共、目的地に到着してる」
ブラッドが呼び寄せたラウレス・レヴァートン・フェナー大佐とアリ・ウィン少佐は、二人共SNIPERの幹部であり、秀逸な能力者だ。
しかし、二人の名を耳にしたレインは、汗で濡れた前髪を忌々しそうに掻き上げると、「要らん」と一言発し、ぞんざいに首を振る。
「勝手な事をするな。…護衛(ガード)は一人で充分だ」
「レイン…。頼む、今回だけは…俺達に任せてくれないか」
「何度も言わせるな!…必要ない」
これ以上の問答は不要とばかりに語勢を強めたものの、己の発した声に頭痛でも催したのか、眉間を片手で押さえ、俯いてしまう。
息も絶え絶えなグロッキー状態でありながら、頑固一徹、痩せ我慢。
そんなレインにほとほと困り果てたブラッドが、ふと視線を上げると、同じく気を揉んでいた沙羅と目が合った。
二人は同時に苦笑を浮かべ…そして一緒に大嘆息をつく。
「で?」
仕切り直すように声を発した一哉が、全員を見渡す。
「そうなると、次が最終工程になるよな」
「本拠地に突入、ってわけね」
一哉の言葉に反応してしまった沙羅の声は、無意識にも弾んでいる。
水戸黄門好きを公言して憚らない彼女は、「この印籠(いんろう)が目に入らぬか」的な、大詰めの瞬間が大好きなのだ。
「そういう事になりそうだ。レイン、君のお陰だよ」
依然俯いたままのレインは、聯の言葉に何の反応も返さない。
返事をする気力すら無いのだろうが、万全の状態であったとしても、彼は聯の賛辞を素直に受け止めはしなかっただろう。
だが、急転直下の逆転ホームランとも言える一撃を投じ、関係者全員の士気を高めたのは、間違いなくレインだった。
どの機関も正確な情報を得られず、事の真偽を確認することも出来ずに、次に起こる凶事への危機感と焦燥感とで大混乱に陥っていた――混沌とした上層部の様子を思い返せば、今の状況はまるで奇跡の後と言える。
NIGHTMARE(ナイトメア)の拠点は全て、トップの黒龍(ヘイロン)が直々に事態を収束させ、既に潔白が証明済みだった。
しかし、首謀者とされるツォン・バイの居場所は特定出来ず、捜索は困難を極めた。
数ヶ月も前から巧妙に練られたノーマンの計画は水面下で着々と実行され、一方で、軍、政府の主要機関に予め潜ませておいたスパイから様々な情報と機密を仕入れていたツォンは、その内通者を通じて、各機関に情報の撹乱(かくらん)を起こしていた。
そうした状況下で起きたダム爆破事件の後、一斉にパニックに陥った主要機関の中で生きていたのは、スナイパーとガーディアンだけだった。
組織に入り込んだ内通者に気づいたスナイパーの幹部は、それをわざと泳がせて動きを探っていたし、ガーディアンに入ろうとした内通者は、それを感知した聯の指示によって消されている。
各機関に起きていた深刻な情報撹乱、ハッキングによる回路の乗っ取りも、レインの直接的な介入によって、全て解消された。
現段階に辿り着いてようやく、ツォン・バイの影を掴む事が出来たのだ。
「この軍機が向かっているのは、連合王国(UK)の北アイルランド地域、ノース海峡沿いの港町ベルファストだ。ベルファストには、ノーマン博士の持つバイオ研究所がある。その地下に軍機を数十機も格納出来る、巨大秘密施設が存在するらしい。ツォンはそこに潜伏している」
聯の言葉を耳にした途端吐き気が増し、レインは反射的に手で口元を覆った。
忌まわしい記憶の断片が、レインの脳裏にフラッシュ・バックする。
「中央情報管理局(CIA)、国防総省(ペンタゴン)、国土安全保障局(DHS)も、ようやく機能を取り戻した。今は各機関とも、スパイの摘発に動いている。テロ対策の主要機関である三機関の協力を得られれば、こちらも心強い」
「…ふん。よく言う」
本心とはまるで違うであろう言葉を平然と口にし、臆する素振りも無くぬけぬけと表を繕う聯の態度を見咎め、レインが失笑する。
「大概にしろ、李…口が腐るぞ」
背中をさすってくれていたブラッドの手を素気無く払い、辟易した様子で聯を横目に見る。
「テロ対策の主要機関とは言いながら、元から連携はバラバラ、足並みすら揃えられなかった三機関だ。初めから貴様も、あてになどしていないだろう」
相手が誰であろうと率直に己の意見を主張するレインは、こういったアサーティブな発言で、不用意に敵をつくる。
心痛の種は尽きず…。
ブラッドは溜息をつきながらも、ここを機とばかりに伝達事項を告げる。
「幹部の事だけどな。合流するのは、アリとラウレスだ。…さっき連絡があった。既に二人共、目的地に到着してる」
ブラッドが呼び寄せたラウレス・レヴァートン・フェナー大佐とアリ・ウィン少佐は、二人共SNIPERの幹部であり、秀逸な能力者だ。
しかし、二人の名を耳にしたレインは、汗で濡れた前髪を忌々しそうに掻き上げると、「要らん」と一言発し、ぞんざいに首を振る。
「勝手な事をするな。…護衛(ガード)は一人で充分だ」
「レイン…。頼む、今回だけは…俺達に任せてくれないか」
「何度も言わせるな!…必要ない」
これ以上の問答は不要とばかりに語勢を強めたものの、己の発した声に頭痛でも催したのか、眉間を片手で押さえ、俯いてしまう。
息も絶え絶えなグロッキー状態でありながら、頑固一徹、痩せ我慢。
そんなレインにほとほと困り果てたブラッドが、ふと視線を上げると、同じく気を揉んでいた沙羅と目が合った。
二人は同時に苦笑を浮かべ…そして一緒に大嘆息をつく。
「で?」
仕切り直すように声を発した一哉が、全員を見渡す。
「そうなると、次が最終工程になるよな」
「本拠地に突入、ってわけね」
一哉の言葉に反応してしまった沙羅の声は、無意識にも弾んでいる。
水戸黄門好きを公言して憚らない彼女は、「この印籠(いんろう)が目に入らぬか」的な、大詰めの瞬間が大好きなのだ。
「そういう事になりそうだ。レイン、君のお陰だよ」
依然俯いたままのレインは、聯の言葉に何の反応も返さない。
返事をする気力すら無いのだろうが、万全の状態であったとしても、彼は聯の賛辞を素直に受け止めはしなかっただろう。
だが、急転直下の逆転ホームランとも言える一撃を投じ、関係者全員の士気を高めたのは、間違いなくレインだった。
どの機関も正確な情報を得られず、事の真偽を確認することも出来ずに、次に起こる凶事への危機感と焦燥感とで大混乱に陥っていた――混沌とした上層部の様子を思い返せば、今の状況はまるで奇跡の後と言える。
NIGHTMARE(ナイトメア)の拠点は全て、トップの黒龍(ヘイロン)が直々に事態を収束させ、既に潔白が証明済みだった。
しかし、首謀者とされるツォン・バイの居場所は特定出来ず、捜索は困難を極めた。
数ヶ月も前から巧妙に練られたノーマンの計画は水面下で着々と実行され、一方で、軍、政府の主要機関に予め潜ませておいたスパイから様々な情報と機密を仕入れていたツォンは、その内通者を通じて、各機関に情報の撹乱(かくらん)を起こしていた。
そうした状況下で起きたダム爆破事件の後、一斉にパニックに陥った主要機関の中で生きていたのは、スナイパーとガーディアンだけだった。
組織に入り込んだ内通者に気づいたスナイパーの幹部は、それをわざと泳がせて動きを探っていたし、ガーディアンに入ろうとした内通者は、それを感知した聯の指示によって消されている。
各機関に起きていた深刻な情報撹乱、ハッキングによる回路の乗っ取りも、レインの直接的な介入によって、全て解消された。
現段階に辿り着いてようやく、ツォン・バイの影を掴む事が出来たのだ。
「この軍機が向かっているのは、連合王国(UK)の北アイルランド地域、ノース海峡沿いの港町ベルファストだ。ベルファストには、ノーマン博士の持つバイオ研究所がある。その地下に軍機を数十機も格納出来る、巨大秘密施設が存在するらしい。ツォンはそこに潜伏している」
聯の言葉を耳にした途端吐き気が増し、レインは反射的に手で口元を覆った。
忌まわしい記憶の断片が、レインの脳裏にフラッシュ・バックする。
BACK NEXT
Copyright LadyBacker All Rights Reserved./Designed by Rosenmonat