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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
――冗談じゃねぇ。
――レインだってFIXERと同じ、バベルの…組織(レッドシープ)の玩具だ。
――たかが実験体に、俺が劣るなんて…
――絶(ぜ)ッてぇ、思わねぇ…!
煙霧の中で、何かが動いた。
メイン・コンピュータの傍らで動く人影は…
――三つ。
レインの焔を弾いたのは、天高くへと吹き上がった凄まじい烈風だった。
風に巻き上げられたコンピュータの破片は上空へと吹き飛ばされ、室内に立ち込めていた煙が一掃される。
視界が開け、一哉は三人の姿をはっきりと見定めることが出来た。
時は少し、遡る。
先刻――焔がブラッドに届く直前。
――ブラッドは右腕を獣化させ、胸倉を掴んでいたレインの腕を、鋭く伸びた鉤爪で薙いだ。
――咄嗟に腕を引いたレインは焔のコントロールを一瞬だが鈍らせ、その隙をついた沙羅が疾風を放ち、焔を別の角度に放出させた。
間一髪で死から逃れたブラッドの下膊(かはく)は黒い刻印に覆われ、獣の黒斑(まだら)状に変化していた。
手の甲からは、先端を鋭利に光らせた鉤爪が突き出している。
危殆に瀕したにも関わらず、ブラッドは沈着だった。
直(す)ぐに攻撃に転じ、右腕を振り翳す。
鉤爪は焔の壁を突き破り、レインの頬を掠めた。
熱で溶け落ちた鉤爪は、しかし瞬時に再生し、ブラッドの意思を受け、更に伸びた 。
「っ…」
鼻先を掠めるか否かの、ギリギリのところでそれを躱し、レインは後方へ跳び退(の)く。
レインを包む焔が、苛立ったようにチリチリと音を立てて弾けた。
対峙するブラッドは、予想通りの彼の反応に、会心の笑みを浮かべていた。
――これで確信できた。
――こいつ はやっぱり…レインじゃない。
――レインなら、俺の能力を知り尽くしているはずだ。
勝機が見え、血が沸き立つ。
――こいつは何も知らない。
――その上、レインの特性 を生かし切れてもいない。
――スピリッツを使い過ぎだ。
――レインの能力だけ を行使し、無駄に焔を纏う。
――だが、俺はよく知っている。
――レインの事なら誰よりも。
――こいつでは、もたない 。
「お前は…そんなに単純じゃないよな」
左腕も獣化させ、鋭い鉤爪を振り下ろしながら、ブラッドがポツリと言った。
「そんなに簡単じゃない。…そうだろ? レイン」
ブラッドは少なからず、彼と相対する事に狼狽し、動転していた。
――だから気付かなかった。
――人智を超えたレインの能力は、確かに驚異的で、人間の本能を突き動かし、恐怖を呼び起こす。
――だが。
「誰かに支配されるような男(タマ)じゃないんだ、お前は…」
レイン・エルを天才たらしめるもの。
――それは。
ブラッドが前方へ疾駆した。
レインを覆った焔が、今までと全く同じパターンでブラッドに向かってくる。
ブラッドがメイン・コンピュータの影へ身を隠すと、焔は柱へ衝突し四散した。
次の瞬間。
光焔に視界を奪われたレインの目の前に、ブラッドの姿はあった。
ブラッドは剽げた仕草で両腕を交差させてから、一気に連撃を仕掛ける。
しかし、ブラッドをも上回るスピードを誇るレインは、やはり瞬時に身を躱した――マニュアル通りに 。
レインの行動を予測していたブラッドは、攻撃の度、彼の回避パターンに合わせて僅かに照準をずらし、先回りするようにして、レインの逃げ場を奪っていく。
ベースとなる能力は全てブラッドを上回るレインだが、ブラッドの猛攻に圧され、ついには壁に背を当てるに至っていた。
――冗談じゃねぇ。
――レインだってFIXERと同じ、バベルの…組織(レッドシープ)の玩具だ。
――たかが実験体に、俺が劣るなんて…
――絶(ぜ)ッてぇ、思わねぇ…!
煙霧の中で、何かが動いた。
メイン・コンピュータの傍らで動く人影は…
――三つ。
レインの焔を弾いたのは、天高くへと吹き上がった凄まじい烈風だった。
風に巻き上げられたコンピュータの破片は上空へと吹き飛ばされ、室内に立ち込めていた煙が一掃される。
視界が開け、一哉は三人の姿をはっきりと見定めることが出来た。
時は少し、遡る。
先刻――焔がブラッドに届く直前。
――ブラッドは右腕を獣化させ、胸倉を掴んでいたレインの腕を、鋭く伸びた鉤爪で薙いだ。
――咄嗟に腕を引いたレインは焔のコントロールを一瞬だが鈍らせ、その隙をついた沙羅が疾風を放ち、焔を別の角度に放出させた。
間一髪で死から逃れたブラッドの下膊(かはく)は黒い刻印に覆われ、獣の黒斑(まだら)状に変化していた。
手の甲からは、先端を鋭利に光らせた鉤爪が突き出している。
危殆に瀕したにも関わらず、ブラッドは沈着だった。
直(す)ぐに攻撃に転じ、右腕を振り翳す。
鉤爪は焔の壁を突き破り、レインの頬を掠めた。
熱で溶け落ちた鉤爪は、しかし瞬時に再生し、ブラッドの意思を受け、更に
「っ…」
鼻先を掠めるか否かの、ギリギリのところでそれを躱し、レインは後方へ跳び退(の)く。
レインを包む焔が、苛立ったようにチリチリと音を立てて弾けた。
対峙するブラッドは、予想通りの彼の反応に、会心の笑みを浮かべていた。
――これで確信できた。
――
――レインなら、俺の能力を知り尽くしているはずだ。
勝機が見え、血が沸き立つ。
――こいつは何も知らない。
――その上、レインの
――スピリッツを使い過ぎだ。
――レインの
――だが、俺はよく知っている。
――レインの事なら誰よりも。
――こいつでは、
「お前は…そんなに単純じゃないよな」
左腕も獣化させ、鋭い鉤爪を振り下ろしながら、ブラッドがポツリと言った。
「そんなに簡単じゃない。…そうだろ? レイン」
ブラッドは少なからず、彼と相対する事に狼狽し、動転していた。
――だから気付かなかった。
――人智を超えたレインの能力は、確かに驚異的で、人間の本能を突き動かし、恐怖を呼び起こす。
――だが。
「誰かに支配されるような男(タマ)じゃないんだ、お前は…」
レイン・エルを天才たらしめるもの。
――それは。
ブラッドが前方へ疾駆した。
レインを覆った焔が、今までと全く同じパターンでブラッドに向かってくる。
ブラッドがメイン・コンピュータの影へ身を隠すと、焔は柱へ衝突し四散した。
次の瞬間。
光焔に視界を奪われたレインの目の前に、ブラッドの姿はあった。
ブラッドは剽げた仕草で両腕を交差させてから、一気に連撃を仕掛ける。
しかし、ブラッドをも上回るスピードを誇るレインは、やはり瞬時に身を躱した――
レインの行動を予測していたブラッドは、攻撃の度、彼の回避パターンに合わせて僅かに照準をずらし、先回りするようにして、レインの逃げ場を奪っていく。
ベースとなる能力は全てブラッドを上回るレインだが、ブラッドの猛攻に圧され、ついには壁に背を当てるに至っていた。
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