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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


――レインの焔は、相手が防壁(シールド)を発動させるよりも格段速く発動する。

その驚異的なスピードは、あいつが最強たる所以(ゆえん)の一つで、レインの放つ焔の破壊力は、核の比じゃない。

レインは間違いなく、最強の能力者だ。

ポテンシャルもスピリッツのキャパシティも、何もかもが。他の能力者を圧倒的に凌駕してる。


それでも。
ここで、こいつに殺られるわけには…


――いかない。


「ブラッド!!」

防壁の中で沙羅が叫んだのと、レインの焔が唸りを上げたのは同時だった。

焔を放った瞬間、レインが微かに眉を寄せた事に、沙羅は気づいていた。
彼の内なる声を聞き咎めた気がして、考えるよりも先に、沙羅は防壁から足を踏み出していた。

護るものを失った防壁が、オレンジの光を四散させる。
キラキラと、沙羅の周囲にスピリッツの粒子が舞った。

「沙羅!?」

フィクサーの片方を地面に叩きつけ、一哉は背中越しに沙羅を見遣る。

「莫迦! お前ッ…」

すぐに身体を捻らせて襲い掛かってきたフィクサーの攻撃を受け止め切れずに、一哉はそのまま数メートル押され、轟音と共に壁に激突した。

ダメ押しとばかりに、そこへもう一体が飛び掛かってくる。

「…ってぇなッ!」

衝撃で崩れたコンクリートの瓦礫に、一哉が触れる。
瓦礫は震動し、奔流のような揺れは波と化して、壁全体へ広がっていく。

まるで手品のような光景だが、レインの放つ焔と同様、実際に生起した現象だ。

地の能力者(アース・マスター)。
藤間一哉は、地属性の全てを支配する。

フィクサーが一哉に及ぶまでの俯仰(ふぎょう)の間、勃然と変貌したコンクリートは、何千という巨大な槍へと形を変え、四方八方からフィクサーの身体を貫いた。

あらゆる部位を貫かれ、白い体液を撒き散らしたフィクサーは磔(はりつけ)になり、地面に縛(いまし)められる。

一哉が両手をつくと、主の呼び掛けに呼応した地面が微弱に振動し、唸った。

「沈め!」

重く鈍い鳴動が、一哉の足下から地中深くへと、稲妻のように突き抜けた。

二体のフィクサーを呑み込まんと広がった闇の口は、突き刺さったコンクリートの巨槍ごとその身体を丸飲みにし、地底へと沈めていく。

フィクサーは逃れようともがき、紅の一体はキィキィと甲高い奇声を発していたが、灰色の槍は、動くほどにその身体に喰い込んでいく。

「高熱高圧の地核(じごく)まで引っ張り込めば、いくら回復能力があったところで…いずれ消滅するだろ」

二つの身体を沈降させると、虚(うろ)は何事も無かったかのように閉じ、地面は忽ち復元した。

地表が閉じた今、彼らに逃れる術はない。

世界中の科学者をして神をその身に宿すとまで言わしめた驚異的な能力を持つ「新人類(ニュー・ヒューマン)」は、たった三人しか存在しないとされるが、現在この場には、その三人が顔を揃えている。

風の能力者(ウィンド・マスター)。

樹沙羅は、12歳で覚醒した、遅咲きの能力者である。

沙羅がいた場所に一哉は目を向けたが、彼女は既にそこにはいなかった。

業を煮やす思いで周囲を一望するも、レインの焔によって巻き上がった硝煙と熱気で視界は遮られ、まるで雲の中に立っているかのようだ。

一哉の背中を嫌な汗が伝った。
募(つの)る不安を抑え、五感を研ぎ澄ませる。

砂埃の中、血臭が漂ってくる。

――ブラッドのヤツ、まさか…殺られたのか?

戦いの雑音で満ちていた室内は暫時、不気味な静寂に包まれていたが、それはすぐに打ち破られた。

焔の発火音と共に、ゴウンと地面が震動する。

「沙羅!」

駆け出そうとしたところで胸に鈍い痛みが走り、一哉は前のめりに転倒しそうになった。

体勢を立て直し、身体を支えようと力を込めるが、背中から頭へ突き抜ける激痛に声も上げられず、歯を食いしばり、俯く。

汗が吹き出し、呼吸が乱れる。

――くそ。
――アバラと腰…やられてんな。

ブラッドとフィクサーの交戦を見ないまま、勝利の糸口なしに戦っていたら、間違いなく殺られていただろうと、失笑混じりに考える。

「ヘバッてん場合じゃ、ねぇっつーの…」

一哉の脳裏に、嘲笑混じりのレインの表情と、彼の言葉が去来した。

『お前達では歯が立たん』

――ノーマンの玩具(オモチャ)が、まさかこんなに強いなんて。

忸怩(じくじ)たる思いで、ギリッと奥歯を噛み締める。
胸を焼くような屈辱感が、一哉の気を昂ぶらせた。


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