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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


すぐに原因を究明しなくてはならない局面なのだろうが、魔界での経緯を顧みると最悪のケースばかりが喚起され、どの場合でも有効な手立ては思い当たらなかった。


「ちからを…あげる」


子供が言った言葉を玩味するように口に出し反芻してみる。

魔界での一つ一つのシーンをつなぎ合わせゆっくりと脳内で再生し、ひっかかる部分だけを抜き出し冷静に考量する。


あの子供は牙を食い込ませたあと消えた。
噛まれている間、閉じた瞳の中に蠢いていた黒い影はどんなかたちをしていた?


黒焔の奥から這い出し、嗤っていたのは…。


「――――…」


レインの身体から弾き出された黒い焔はブラッドの総身に降り注いだ。
だが火傷はおろか熱も感じなかった。

黒焔は再び現れ、ジャックはそれを破壊神ルシファーのものだと言った。

彼の提示した情報は、胡乱な「魔王」という存在を皆に肯定させ、認知させるに足る正鵠を射たものだった。

少しずつ組み立ってきた過去は、ひとつの「if」を形づくる。



もしも――――

魔界で見た子供が、繋がれていた男が、似た顔をしたふたりの女が、元は1つの身体をもつ「破片」だったとしたら?

シティを皮切りに各地で起き始めた円陣の発現と大量死が、破片の復活に派生する現象だったとしたら。

1つのかたちを成すために、破片が少しずつ復活していっているとしたら…。



「身体が――――ない…?」



魔族4体は言っていた。



「器だ」 と。



ベッドルームに戻ったブラッドは柔らかい羽根布団を静かに持ち上げ、レインの肩に刻まれた赤い刻印を改めて正視していた。

魔族との契約には様々な種類があり、刻印がその全てに関わっているわけではない。
だが、瘴気を意味するそれは人の身体に自然と具現するものでもない。

レインの過去に魔族が関わっている確率は高く、彼が高位魔族となんらかの契約を交わしているか、もしくは内に宿らせている可能性は否定できない。

そしてそれは今や、ブラッドも同じだった。

嘆じる気にはなれず、万一の場合を想定し先を打つことだけに意識は集中していた。

まだ濡れている艶やかなレインの黒髪に触れる。
安心しきった寝顔が愛しくて、ただ強く護りたいと思う。

「俺はおまえに会う為に生まれてきたんだ。そう思ってる…マジでな」

独白を漏らし口元を緩めると、白い頬に触れて唇に指を滑らせる。

「おまえは強い。その力を行使すれば世界を手に入れるのだって容易い…だけどおまえは精神(ナカ)が脆くて純粋で、自分を誰より嫌ってる。俺は…おまえに知ってほしかった」

身を屈めて唇を塞ぎ、寝息を漏らすレインにもう一度キスを落とす。

「レインがどんな姿でも、どんなに変わろうとも…おまえが大切だ。どんなものより――――おまえは最高だ」

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