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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
「待て。…待ってくれ――待て。…頼むから」
両手を前に突き出し時間を稼ぐ他に打つ手が見つからず、一哉が深く息を吐いた。
沈痛な面持ちの彼が心の底から沙羅を想う気持ちは真情であり、彼の愛に虚偽はない。
沙羅もまた家族として彼を愛している。
それでも道を違えてしまった。
レインの過去を知り解放を誓った沙羅はもう、以前の自分に戻ることは出来なかった。
数ヶ月ずっと思い悩み、自分の進むべき道を確かめるべく昼夜の別なく行動し、様々な人と会いその心理と真相を確かめ、各国に広がる戦禍の中で嘆く声と、それを聞きながらも放置を続け弱者を虐げる軍事界の真因を知ってしまった。
GUARDIANに属し組織の命令に従っていればある程度の成果を出すことも出来るし、新人類として狙われやすい沙羅の身も組織が護ってくれる。
だがそれでは、根本的な解決にはならない。
GUARDIANはREDSHEEPの「善」を補うもう1つの顔に過ぎないという実態すら、彼女はもう弁えている。
「沙羅ひとりでどうにかなるわけないだろ。…いいか。国を凌駕するくらいの私的軍事機関ってのはSNIPERやNIGHTMAREだけじゃないんだ。沙羅が知らないような、もっと危なくて面倒な連中だって…」
「一哉はそれでいいの?」
子供が親に尋ねるような純粋さで小首を傾いだ沙羅が、静かに意を伝えはじめる。
「あたしたちの力はきっと、護るためにあるんだよ。あたしも、一哉も…レインも。大切な人と一緒にいる為にあるの」
「……。護る?」
「うん。それを証明したいの…」
立ち上がった沙羅を制するように一哉が言葉を放った。
「今ならまだ間に合う。俺と戻れ、沙羅」
強まった語気は、「力ずくでも行かせない」という一哉の意中を覗かせている。
沙羅が見せた寂しそうな微笑。
早くも心が折れそうになるのを堪えて、一哉が食い下がる。
「学校辞めてGUARDIANからも出て…どこ行く気だ。それでいいのか?本当に…俺から…俺と離れてやっていけんのかよ?俺は厭だ!沙羅は俺が…」
「あたしだって一哉と一緒にいたいよ」
沙羅の唇から零れた小さな声に、一哉が眉根を寄せる。
縦スリットの窓に雨粒が当たり、ブラインドの向こうで水が跳ねた。
今夜は夕方ごろから急に冷え込むと天気予報が言っていたのを想起したが、そんな情報はすぐに脳の表面を流れ消えていった。
室内は温度調節がされていて暖かいが、外はきっと寒いだろう。
そう思い至って、一哉はとりあえずこの場を凌ごうと顔を上げた。
「沙羅、とにかく今日はもうやめないか。こんな時間だし、すこし落ち着いてからゆっくり話そう。今日はこのまま…泊まって…」
直樹の存在を思い出した一哉の語尾が弱まったところに、沙羅が言葉を被せる。
「聯とだって、本当は戦いたくなんてない。だからこそ離れるの…あたしは――――」
甘い香り。
抱きついてきた沙羅のふんわりとした馥郁が、一哉の鼻先に漂う。
「いつか2人が気がついて、解ってくれるのを…信じてる」
「――――。…沙羅」
「きっとあるはずだよ。みんなが笑っていられる場所が…きっとある」
身体を離した沙羅が向けた最高の笑顔は、一哉に顕然な決別を告げていた。
「待て。…待ってくれ――待て。…頼むから」
両手を前に突き出し時間を稼ぐ他に打つ手が見つからず、一哉が深く息を吐いた。
沈痛な面持ちの彼が心の底から沙羅を想う気持ちは真情であり、彼の愛に虚偽はない。
沙羅もまた家族として彼を愛している。
それでも道を違えてしまった。
レインの過去を知り解放を誓った沙羅はもう、以前の自分に戻ることは出来なかった。
数ヶ月ずっと思い悩み、自分の進むべき道を確かめるべく昼夜の別なく行動し、様々な人と会いその心理と真相を確かめ、各国に広がる戦禍の中で嘆く声と、それを聞きながらも放置を続け弱者を虐げる軍事界の真因を知ってしまった。
GUARDIANに属し組織の命令に従っていればある程度の成果を出すことも出来るし、新人類として狙われやすい沙羅の身も組織が護ってくれる。
だがそれでは、根本的な解決にはならない。
GUARDIANはREDSHEEPの「善」を補うもう1つの顔に過ぎないという実態すら、彼女はもう弁えている。
「沙羅ひとりでどうにかなるわけないだろ。…いいか。国を凌駕するくらいの私的軍事機関ってのはSNIPERやNIGHTMAREだけじゃないんだ。沙羅が知らないような、もっと危なくて面倒な連中だって…」
「一哉はそれでいいの?」
子供が親に尋ねるような純粋さで小首を傾いだ沙羅が、静かに意を伝えはじめる。
「あたしたちの力はきっと、護るためにあるんだよ。あたしも、一哉も…レインも。大切な人と一緒にいる為にあるの」
「……。護る?」
「うん。それを証明したいの…」
立ち上がった沙羅を制するように一哉が言葉を放った。
「今ならまだ間に合う。俺と戻れ、沙羅」
強まった語気は、「力ずくでも行かせない」という一哉の意中を覗かせている。
沙羅が見せた寂しそうな微笑。
早くも心が折れそうになるのを堪えて、一哉が食い下がる。
「学校辞めてGUARDIANからも出て…どこ行く気だ。それでいいのか?本当に…俺から…俺と離れてやっていけんのかよ?俺は厭だ!沙羅は俺が…」
「あたしだって一哉と一緒にいたいよ」
沙羅の唇から零れた小さな声に、一哉が眉根を寄せる。
縦スリットの窓に雨粒が当たり、ブラインドの向こうで水が跳ねた。
今夜は夕方ごろから急に冷え込むと天気予報が言っていたのを想起したが、そんな情報はすぐに脳の表面を流れ消えていった。
室内は温度調節がされていて暖かいが、外はきっと寒いだろう。
そう思い至って、一哉はとりあえずこの場を凌ごうと顔を上げた。
「沙羅、とにかく今日はもうやめないか。こんな時間だし、すこし落ち着いてからゆっくり話そう。今日はこのまま…泊まって…」
直樹の存在を思い出した一哉の語尾が弱まったところに、沙羅が言葉を被せる。
「聯とだって、本当は戦いたくなんてない。だからこそ離れるの…あたしは――――」
甘い香り。
抱きついてきた沙羅のふんわりとした馥郁が、一哉の鼻先に漂う。
「いつか2人が気がついて、解ってくれるのを…信じてる」
「――――。…沙羅」
「きっとあるはずだよ。みんなが笑っていられる場所が…きっとある」
身体を離した沙羅が向けた最高の笑顔は、一哉に顕然な決別を告げていた。
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