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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


「強くなれよ、レイン」

広い背中がそう言って、レインが眉根を寄せた。
拭えない不安の正体を探るようにブラッドを見据える。

「おまえは「特別」なのかもしれない。たぶん、色んな意味で…だから普通の人より少しだけ多く、面倒なこともある」

「……。ブラッド?」

司令室の前で立ち止まったブラッドが笑んだ。
寂しそうに見えたその表情が厭で、歩み寄ったレインは彼の下膊を掴んでいた。

「なんなんだ。…やめろ。どうしてそんなこと…」
「……。レイン」

ブラッドが突然、レインを強く抱きしめた。

髪を愛撫する手が首までゆっくりと下りて、耳元に寄せられた唇が温かい音を漏らす。



「俺が一番弱るのは…レインのそういう顔なんだ」



「……。ブラッド」



「いつでも傍にいてやりたい。本当ならすげぇ甘やかしてやりたい。…でもそれじゃ駄目だ。おまえ自身が強くならなきゃ、おまえはずっと苦しいままなんだ」



レインに言うというより独白に近いブラッドの言葉は、感情のままにレインの中に流れ込んでくる。

悲傷にも似た情愛は、彼が常にレインに見せる純愛とは違った。
それは痛みすら伴い、やるせなく心に染み入ってくる。

初めて彼が見せた表情に戸惑う。
考えてみれば…今まで一度だって、ブラッドは心の内をこんな風にレインに伝えたことはなかった。そんなことに初めて気がつく。

ブラッドは磐石であると思い込んでいた。
いつだって笑顔で傍にいてくれた天空海闊な彼は、不安や弱さを露呈したりしない。
レインに対してだけでなく、誰に対してもそうだった。

なぜ彼が今、こうして自分を抱きしめて暗涙にむせぶのかを必死に考える。

厭な予感が胸を焼くのが苦しくても、目を逸らしてしまったら大切な何かを失ってしまう気がした。

「ヴェンディッタや中央の連中におまえを悪く言わせたくねぇし、殴ってやりたいのが本音だ。あいつらにおまえのなにが解る。幹部もみんなそう思ってる。おまえが――――俺たちにとってどれだけ大事で、救いになってるか…」

「……」

「誰が何て言っても、おまえはおまえらしくいてくれ。光が見えないときでも…おまえは1人じゃない。どんなになったって、俺はレインの傍にいる――――忘れるなよ」

「……。解ってる」

逞しい背中に両腕を回したレインが小さく頷いた。

「そんなこと解ってる。…ブラッド。なにを隠してる?どうして今そんな…」

「覚悟を決めろってことだ」

不安げに見上げるレインの鼻先にキスを落として、そのままゆっくりと唇に触れる。
溶けるような熱さに瞳を閉じたレインの髪を梳いた指先が、頬に触れて首筋に流れた。

「強くなってほしいだけなんだ…ごめんな。一方的にぶつけちまって」

「……」


「泣くなよレイン。絶対に――――なにがあっても」


ブラッドの指が離れる。
背中を向けた彼をもう一度抱きしめたい衝動に駆られても、言い知れぬ胸騒ぎに縛られたレインはその手を伸ばすことができなかった。





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