page07

SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


もし彼らに九死の事態があった場合、レインが平常心を保てるとは思えない。
ブラッドにしてもそれは同じだが、だからと言って立ち止まり、哀悼を捧げ涙することはできない。

レインはSNIPERという組織を統御する立場にあり、ブラッドもまた多くの命を背負う身だからだ。

レインに決定的に足りない気骨さは、大切なものを失うか否かの場面で判然と露呈する。
もしも違う場所に立ち、違う生活を過ごすことができたなら…

思考を中断し、ブラッドは小さく嘆息を落とした。

現実はひとつしかない。
今立っている場所も環境も立場も――――仲間も。

ここに在る全てが護るべき対象だというなら、レインに己の脆さを発露させるわけにはいかない。

「レイン」

夜間用の照明のみが点灯する廊下は薄暗く、彼ら以外に行き交う人影も無い。

額を曇らせるレインの肩を抱いたブラッドが、静かに正面に立った。
小夜の静寂にブラッドの柔和なバリトンが流れる。

「おまえはSNIPERの総帥(ヘッド)だ。ナイプは電子機器メーカーでも航空宇宙会社でもない――――軍事組織だ。何があろうと命を裏切る真似だけはするな…どういう意味だか解るな?」

「……」

「俺たちは命を懸けて仕事をしてる。どんな時もだ。死ぬ覚悟はいつでもある。一般の兵士でも幹部でも、重さは同じだ」

「……」

俯いたレインは黙したままで、ブラッドと瞳を合わせようとしない。

「組織には、何があっても護らなきゃいけないものがある。…俺たちは最後までおまえの盾になる。おまえを信じるから戦える。トップが意志を失わず核である限り、勝機は必ずやってくる。おまえは孤独にも喪失にも揺らいじゃいけない。貫徹こそが忠義を尽くした命に対しての最低限の礼儀だ」

「解ってる」

言下に顔を上げたレインが黒髪を乱し上げ、肩を竦めた。

「今更。どうしてそんなことを…」



「もし明日俺がいなくなっても、止まるなよ」



「…。え…?」



瞳が合う。

片時見つめ合って、ブラッドが口角を上げた。

「なんて顔してんだ。もしもだって言っただろ?」
「……」
「大丈夫だ。俺もあいつらも、簡単にヤられるようなタマじゃねぇよ」

歩き出したブラッドの背中が闇に溶けていくのが恐くなって、レインはすぐに後を追っていた。



――――喪失。



覚悟していたはずの言葉がこんなにも重かったことを改めて実感して、きつく拳を握り締める。

このままの状況が永遠に続くはずなどないと首肯しながらも、子供のように駄々をこね、皆といたいと泣く自分にも出会う。

BACK     NEXT

Copyright LadyBacker All Rights Reserved./Designed by Rosenmonat