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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


与えられても悦ばない。感謝の念もない。
そんな彼らを憐れに想う。

妬心さえ覚えるようなイイ思いをさせてやってるのに。

ゲイボルグの衝撃に堪え得る能力者は一縷ほど。
クーファはそれに該当せず、魔槍の甘露を味わうことはできない。

3度もその身に刃を受け、尚息をしているイヴァは彼にとって最高に妬ましい相手だった。

あまりの痛苦にイヴァが意識を逸しかけたところで、物静かな涼声が上から落ちてきた。

「…俺たちと来い」
「っ……?」

震える唇を噛んで何とか正面に目を据えるものの、赤い吐息に曇る視界の中に形づくられたクーファのシルエットをぼんやりと把握することしかできない。

「ラヴロッカの弟…。おまえ…影なんだろ?」

水の中にいるような漠然とした音声に眉根を寄せる。
視界が完全に暗くなって、イヴァが地面に頭を落とした。

「おまえの居場所は「こっち」だ…」

イヴァを抱き上げると、傷ついた彼の両腕が力無く垂れ下がった。

気を失ったイヴァの身体は温かく息があり、魔槍に突き崩された部分を修復しようとフォースを滾らせている。

クーファが小さく嘆息した。

ラヴロッカの想いに堪え得る頴脱した回復力を持ち、彼の虜囚となるイヴァは、なんて恵まれているんだろう。

ラヴロッカのような人間はいない。
彼に愛され、強い束縛ゆえに与えられる甘美な痛みを享受しながら永遠を生きる権利をイヴァは持っている。

ドルグワントに出会えた自分を幸福だと思うように、彼もきっと理解するはずだ。

「さぁ…行こう」

濃霧に包まれた死の町を見上げたクーファが、詠うように声を漏らした。

「ようこそ――――JUDGE(地獄)へ」







ヴァンとの話を終え地下から戻ったブラッドとレインは、ジャックからの連絡を受けてCP(司令室)へ向かっていた。

通路を歩きながらブラッドが携帯を鳴らすものの、将官3人との連絡はつかない。

ジャックの遠隔精神(コネクト)にも反応せず気配すら掴めないという事態に、2人は同じ危急を予期していた。


時空変換。


ブラッドとレインが体感したものと同様の空間で戦闘を強いられている可能性は濃厚で、JUDGEが動いたとされるサンタモニカでイヴァとシオウが応戦しているのは確実だった。

「シオウとイヴァは能力者だ。でもあの瘴気じゃ長くはもたない――――神代は…」

ブラッドの呟きを遮るように、前を歩くレインが声を被せる。

「直樹は特殊体質だ。数時間なら瘴気を取り込まずにいられる」
「じっとしてればな。あの空間でそれが可能とは思えない」
「……」

「あいつは生身だ。回復力も抵抗力も常人と変わらない。もし戻れたとしても…」

「ブラッド」

振り向いたレインが首を振って制止の意を示すと、ブラッドが言葉を飲み込んだ。

言葉にすれば予想は現実味を帯びる。
口に出すなというレインの気持ちは理解しているものの、最悪の事態を前もって彼に覚悟させなくてはならないという義務感が、ブラッドにはあった。

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