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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


あと数分ももたないことを予感させるが接戦は避けられず、長期戦の構えを取れないイヴァが圧倒的に不利だった。

「ッ…」

喀血し、鈍痛に顔を顰めたイヴァの頬をスパイクが撫でた。

切り返そうと体重をかけた左足が抜けた――――。

灼けた肺が響かせる胸痛で視界がブれ、防御が定まらない…刹那。

肌が破れ、射止められた感覚に息を呑む。


――――Minchia(畜生)…!


左腕を貫いた穂先が骨を抉り、イヴァが奥歯を噛み締めた。

己の身にゲイボルグが食い込んでいるうちに一矢報いようと放った弾丸がクーファの両足を薙ぎ、次の一発は胸に命中するはずだった。

だが、魔槍の効力が発動し、イヴァの思考を奪う方が僅かに早い。


ゲイボルグは、刃を食い込ませた相手の体内を――――引き裂く。


「が…ッ」


目の前に火花が散り、激痛が全身を寸断した。

コントロールを失った弾丸をやり過ごしイヴァに埋められた槍を引くと、クーファは力を失ったその身体を地面に押し倒した。

「…ッ、ぁ…」

いやいやをするみたいに首を振ったイヴァは、隠忍しようのない強烈な痛みにただ震えることしか出来ず、硬く瞳を閉じたまま悶えている。

二頭の魔物の骨からつくられた魔槍ゲイボルグは濃厚な瘴気を刃に含んでいる上、一突きでも体内に食い込めば30の棘を破裂させ、相手の身体を内部から引き裂く。

どんなに強健な大男でもゲイボルグに身体の内側を破壊されれば泣き叫び痛みに発狂するのが必定で、戦傷に慣れたイヴァでも内臓に直接創痍を受けては堪らない。

膝をついたクーファは、地面に背を預けたまま身動けないイヴァを寂寥とした様相で見下ろしていた。

憂いを含んだ瞳にイヴァを映したままゆっくりと刺先を突き立て素気なく両足を貫くと、魔槍の棘は傷ついたイヴァの身体を再び容赦なく斬断した。

「ッ…!!――――あ゛っ」

苦痛に生理的な涙が零れ、引き裂かれた身体が硬直する。

冷淡にイヴァを見下ろすクーファは、常人や並みの能力者なら即死の攻撃でも、彼なら瀕死で持ち堪えられることを知っていた。

ゲイボルグの攻撃を受けて数多の人間が地に伏するのを見てきたが、最も羨望すべきは「死ねない秀逸な能力者」であり、イヴァのような「恵まれた」相手を目視するたび「快楽」に喘がない彼らを不可解に…否、不愉快に思う。

人の死も恐怖もクーファにとっては景色と同一で、なんの感慨も起こらない。
喜悦も嫌悪もなく、人がなぜ死を恐れ痛みを忌諱するのかが彼には理解できなかった。
むしろ享受することでしか、生きている実感を得られない。

契約悪魔、ドルグワントが与えてくれる容赦のない苦痛と快楽がクーファには心地よく、魔槍に貫かれ苦痛に顔を歪める対戦相手に向けるのは罪悪感でなく嫉視だった。

極上の苦痛を与えられても、人は恒常痛みを賞味せず噛み締めない。

吐き出される血に喜びの声を上げない他者と通じることができず、「愛」を与えてくれる相手を求めて戦場に立ったが、自分を上回る力で捻じ伏せ、痛みを与えてくれる相手に出会うことは出来なかった。

自分の居場所はこの世界のどこにあるのか解らず、世界中の人間が自分を否定しているようで、クーファはいつも孤独だった。

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