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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


「やっぱりそうか。おまえ…能力者じゃないんだな」

「っ……、……ッ、…」

シーツを握り締めた直樹が、前のめりに頭を落とした。
空気が肺を抜ける音を聞き咎めた一哉が強引に肩を抱くと、小さく身じろぎはしたものの抵抗まではできず、再び仰向けに押し倒される。

「肺が溶けてる。他の臓器もだ…死ぬほど痛ぇだろ。…いいぜ、気を失ってたほうが楽なはずだ。目ぇ閉じてろ」

「……っ、……」

「あっちは人間の住める場所じゃないからな。能力者じゃないなんて…ノーガードで宇宙遊泳するようなモンだ。よく生きてやがったな」

「……な」
「ん?」
「っ…触、るな」


「……。俺のベッドが血だらけになっちまう」


上に覆いかぶさるような体勢で、一哉が直樹の手首を捻った。


「っ……」


手から抜け落ちた刀がベッドの下に落ちる。
直樹が小さく喘ぐと、一哉はすぐに手を解放してやった。


「へろへろだな、大将」
「……ッ、……」
「寝る気がねぇんなら――――イイ方法でシてやる」


顔にかかった髪を撫でるようにかき上げてやって、火照ったピンク色の頬に手を当てる。
血のついた口元を親指で拭ってやりながら、一哉が柔和な口調で諭した。

「普通の人間じゃ抗体はつくれない。能力者でさえ長時間あの毒に晒されたらオシマイなんだ」
「……」

苦悶の表情を浮かべた直樹が強く瞳を閉じた。
身体の内側を引き裂かれるような激痛に生理的な涙が零れて、冷たい汗が伝い落ちる。

それでも声ひとつ上げない彼の強情さに、一哉が悦に入った笑みを浮かべた。


「ボス(レイン)よりよっぽど根性座ってんじゃねぇか」
「――――……、……っ」
「肺が腐っちまう…言うとおりにしろ」


直樹に覆いかぶさり片手に体重をかけ、もう片手で頬に触れて、痛みに喘ぐ彼の柔らかな唇を指先でなぞる。


「万能薬が手近にあってよかったな」
「……、――万…、薬……?」
「そうだ」


ベッドが軋んだ。
唇に触れる寸前まで寄せられた一哉の舌が、直樹の唇のかたちに沿う。


「っ……」
「噛んで」
「……?」

「俺の唇。血ぃ出せっつってんの」

「……、っ……?」

「いいから噛めって…」


啄むように軽く触れてから、ゆっくりと唇を重ねる。

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