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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
「ヴリトラ」
危険を察知したガープが相棒の名を呼ぶと、濃霧の中から1人の男が姿を現した。
ガープと契約を交わした魔族、Vritra(ヴリトラ)はセルリアンブルーの長髪にターコイズの瞳、褐色の肌という美しい容姿を模っている。
186cmの長身からすらりと長い手足が伸び、折れそうな細腰から描かれたヒップラインは蛇のような尻尾と流麗に繋がっていた。
「退く?」
一考するまでもなくガープが頷く。
プロフェッショナルである彼は引き際を心得ている。
「了解」
魔族は時空を渡り歩くことができ、どんな下級の魔物でも次元の間を自由に行き来できる。
ガープを抱いたヴリトラが、この世界から自分の周囲だけ空間を切り離そうとした瞬間、シオウの姿が忽然と消えた。
一迅。
瞬間的に防御の姿勢をとっていたガープの脇腹から鮮血が散った。
蹲ったその身体を庇うように重なったヴリトラが「掴まれた」空間を無理やり切り離すと、時間の嵐が巻き起こった。
時空の裂け目に生じる嵐に乗じて姿を暗ました2人の気配は、歪な渦の中に溶け、消えていく。
「――――…」
獲物を取り逃がしたシオウが刀を収めた。
乱れた黒髪を鬱陶しそうにかき上げると、彼はゆっくりと瘴気の中へ沈み、消えてしまった。
横浜市中区、石川町駅からすこし山手寄りに歩いた住宅街に、スポーツジムやプール、テニスコートにエステサロンまで建物内に完備した、20階建てのデザイナーズ・マンションがある。
最上階の角部屋206号室の扉を開け、高校生の一人暮らしには広すぎる3LDKの室内へ歩を運ぶ。
マンションを設計したデザイナーが揃えた家具一式が上品に置かれた広い空間は天井が高く、ダークカラーと白で統一されている。
クロムメッキの照明とフロアライトが一哉の動きを感知して点灯し、ほどよいコントラストを落とした。
寝室の扉を開け、抱いていた直樹をゆっくりとベッドに下ろす。
寝室に大きな照明はなく、バーチカルブラインドのスラットも閉じているため、ペンダントライトからの間接光が仄かにあるだけだ。
イタリアモダンブランドのベッドはインダストリアルな造形美で、支柱にはブラックのクロムメッキを使用している。
幅1940mmのキングサイズに男2人が乗っても狭くは感じなかったが、同性を乗せたのは初めてだった。
非常に残念なのは、今眠っている彼が今まで連れ込んだどの女よりも可愛いということだ。
SNIPER幹部の選考基準は「顔」なんだろうと本気で思ってしまう。
「ったく…重かったぜ」
不快極まりない策謀を潰してやるつもりではいたが、敵の大将を自室に連れ込んで介抱するまでは予定していなかった。
赤く染まった直樹のシャツを掴み、手馴れたように片手でボタンを外して、汗に濡れた肌に視線を這わせる。
目立った外傷がないのを確認したところで、冷たい指先が一哉の腕に触れた。
「っ……、う」
直樹が薄く瞳を開いた、刹那。
手品のように現れた朱刀の鋒(きっさき)が一哉の喉元に突き当てられていた。
「…っ、…藤間、一哉…」
視界が落ちている直樹の瞳に一哉の姿は映っていない。
それでも彼の位置を寸分違わず認識できるのは闇殺者としての第六感なのだろうが、柄を握る手は震えている。
苦しそうに息を吐きながら後退しようとした直樹が胸を押さえた。
咳き込むと同時に口から血が吐き出され、止まらない喀血に蹲る。
「ヴリトラ」
危険を察知したガープが相棒の名を呼ぶと、濃霧の中から1人の男が姿を現した。
ガープと契約を交わした魔族、Vritra(ヴリトラ)はセルリアンブルーの長髪にターコイズの瞳、褐色の肌という美しい容姿を模っている。
186cmの長身からすらりと長い手足が伸び、折れそうな細腰から描かれたヒップラインは蛇のような尻尾と流麗に繋がっていた。
「退く?」
一考するまでもなくガープが頷く。
プロフェッショナルである彼は引き際を心得ている。
「了解」
魔族は時空を渡り歩くことができ、どんな下級の魔物でも次元の間を自由に行き来できる。
ガープを抱いたヴリトラが、この世界から自分の周囲だけ空間を切り離そうとした瞬間、シオウの姿が忽然と消えた。
一迅。
瞬間的に防御の姿勢をとっていたガープの脇腹から鮮血が散った。
蹲ったその身体を庇うように重なったヴリトラが「掴まれた」空間を無理やり切り離すと、時間の嵐が巻き起こった。
時空の裂け目に生じる嵐に乗じて姿を暗ました2人の気配は、歪な渦の中に溶け、消えていく。
「――――…」
獲物を取り逃がしたシオウが刀を収めた。
乱れた黒髪を鬱陶しそうにかき上げると、彼はゆっくりと瘴気の中へ沈み、消えてしまった。
横浜市中区、石川町駅からすこし山手寄りに歩いた住宅街に、スポーツジムやプール、テニスコートにエステサロンまで建物内に完備した、20階建てのデザイナーズ・マンションがある。
最上階の角部屋206号室の扉を開け、高校生の一人暮らしには広すぎる3LDKの室内へ歩を運ぶ。
マンションを設計したデザイナーが揃えた家具一式が上品に置かれた広い空間は天井が高く、ダークカラーと白で統一されている。
クロムメッキの照明とフロアライトが一哉の動きを感知して点灯し、ほどよいコントラストを落とした。
寝室の扉を開け、抱いていた直樹をゆっくりとベッドに下ろす。
寝室に大きな照明はなく、バーチカルブラインドのスラットも閉じているため、ペンダントライトからの間接光が仄かにあるだけだ。
イタリアモダンブランドのベッドはインダストリアルな造形美で、支柱にはブラックのクロムメッキを使用している。
幅1940mmのキングサイズに男2人が乗っても狭くは感じなかったが、同性を乗せたのは初めてだった。
非常に残念なのは、今眠っている彼が今まで連れ込んだどの女よりも可愛いということだ。
SNIPER幹部の選考基準は「顔」なんだろうと本気で思ってしまう。
「ったく…重かったぜ」
不快極まりない策謀を潰してやるつもりではいたが、敵の大将を自室に連れ込んで介抱するまでは予定していなかった。
赤く染まった直樹のシャツを掴み、手馴れたように片手でボタンを外して、汗に濡れた肌に視線を這わせる。
目立った外傷がないのを確認したところで、冷たい指先が一哉の腕に触れた。
「っ……、う」
直樹が薄く瞳を開いた、刹那。
手品のように現れた朱刀の鋒(きっさき)が一哉の喉元に突き当てられていた。
「…っ、…藤間、一哉…」
視界が落ちている直樹の瞳に一哉の姿は映っていない。
それでも彼の位置を寸分違わず認識できるのは闇殺者としての第六感なのだろうが、柄を握る手は震えている。
苦しそうに息を吐きながら後退しようとした直樹が胸を押さえた。
咳き込むと同時に口から血が吐き出され、止まらない喀血に蹲る。
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