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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


「殺式・弐(アクーエイン・バンディード)」


視覚に続き聴覚を奪われたシオウにガープの猛攻が襲い掛かる。
青く変色した鎌の先鋭な刃先が白い頬を掠め、続けて両足に鮮血が散った。

戦闘に於いて視覚、聴覚を失うのは両手足を失うのに等しい。
攻撃から逃れるように後方に跳んだシオウが刀を翳した。


「舞え――――刹羅」


その手から刀が消えた刹那、落雷の如き轟音が鳴り響いた。
何万という数の刃が一斉にガープの頭上へ降り落ち、凄まじい衝撃に大地が揺れる。

幻惑(ダズル)により無数の刀を召喚し周囲一帯を串刺しにするシオウの大技「斬雨(ヘルズ・スプレイ)」は、通常の防壁では防御不能の万能型で、ガープにも回避できない。

鎌を回転させたガープが防御に徹している間に、シオウが素早く上空へ身を躍らせた。

無数の漆黒と混ざり合った殺気が天からガープを貫いた。
右腕から鮮血が散る。

ガープの眼前に降り立ったシオウが獅子奮迅の連撃を繰り出し、斬雨を躱しながらの防戦を強いられたガープが歯を食いしばった。


――――やはり思い做しではない。


スマートな戦闘スタイルを魅せるいつもの彼と、今現在受けている苛烈な猛撃はまったくの別物で、ガープの望んだ太刀筋とはおよそかけ離れた粗雑なものだったが、視覚、聴覚を失った状態にも関わらずシオウのスピード、パワーは増している。

濃度を増す瘴気に参った気配もなく、むしろ快哉を得ているようにすら思える。

魔と契約を交わしているガープは闇に属するため瘴気に喰われることはないが、糧とする段階ではない。


この強烈な毒素を取り込み力に換えられるのは 魔族 だけだ。


明白になった答えに失笑したガープが、刃を受けた衝撃を下に流し、そのままシオウの足元に身を滑らせた。


「ハ…。とんだ誤算だったぜ」


背後に回ったところで鎌を回転させると、上空から降下してきた漆黒の刀をつまらなそうに弾く。


「解除(パルシアシス)」


能力解除を命じたガープの鎌が原型に戻り、奪われたシオウの視覚、聴覚が復活した。

硝煙の中で対峙する2人の足元は、死の雨が残した斬撃の痕で無残に変形している。

刀を握り直したシオウの肩は大きく上下していた。
疲労や緊張によるものでないというのは、彼の喜悦に満ちた瞳が物語っている。


うっすらと笑んだ口元を赤い舌先で舐め濡らすその瞳が、次第にミッドナイト・ブルーに染まっていく。


「――――魔族だったとはな」


「黙れ」


黒に色を変えつつあるラベンダーグレイの髪を乱し上げたシオウが首を振った。
忌々しそうに眉根を寄せ、言葉を吐き捨てる。


「俺は魔族じゃない」


「瘴気を糧にできるのは魔族だけだ。それがおまえの本当の姿ってワケだろ」


「違う」


黒髪に青い瞳――――薄紫の刻印。


異界の者に姿を変えた彼は、汚染された外気など比べ物にならない獰猛な瘴気を纏っている。

刻印は特別な瘴気を持つ証であり、ヒトの形を成せる一握りの魔族しか持たない。

粉う無き高位魔族の風貌へと転化したシオウの声色が変わった。
艶のある低音が響く。


「こいつと俺は…ベツモノだ」


「!?」


同じかたちをした違う形相の貌が笑んだ。
妖気に満ちた残虐な表情は、最早シオウのものではない。

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