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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /





揺れが収まったと同時に、シオウはイヴァの姿を見失っていた。

強制的な分断がどうやって起きたのかを彼は理解している。
徐々に濃くなる瘴気の中に立つシオウの表情は変わらない。

俄かに漆黒の刀を抜き放ったシオウが正面を見据えた。
俊敏な彼の反応は、前方に立つ男を満足させるのに充分なものだった。


「さすがだな。俺を嗅ぎ分けたか」


普通の能力者ならば彼の気配に気づかなかっただろう。
人間が毒素に満ちた空気から別の毒を感じ取るのはほとんど不可能だ。

魔族との交戦経験に長け、能力者としても稀有な才能を持つシオウらしい洗練された身のこなしを、我が意を得た思いで一見する。

シオウのような相手と戦えることこそが彼にとっての生であり、唯一己を解放できるのは戦闘の中だけだ。


「こんな濃い瘴気の中だ。立ってんのがやっとだろ」


男が口角を吊り上げた。
ローアンバーの髪にシトラスの瞳、白い頬には星型のタトゥーがある。


「残念だぜ…お前とはハンデ無しでヤりたかった」


自分の身の丈ほどある大鎌を片手で軽々と担いでいるJUDGEの第2席、Garp Tigris(ガープ・ティグリス)は武名轟くトップハンター(魔族狩り)だったが、現在は核を持たない完全不死の魔族Vritra(ヴリトラ)と契約を交わし、闇に身を窶している。

ガープを正視したシオウの瞳孔が細くなり、SNIPERの徽章が入った漆黒の軍用コートが靡いた。


「時間がない」


吐き捨てるように短く、シオウが言った。

強いフォースを纏った彼は周囲の瘴気に圧された気配もなく、閃光と共にその右腕で荒々しく開戦の口火を切った。


獰猛とも言える一打にガープが眉根を寄せる。


繰り出される兇刃を受けずに躱しながら、確かに感じる違和感の正体をシオウの中から見出そうと注視する。

シオウとは幾度も交戦しているが、今目の前にいる男はそれとは違う。

「幻惑(ダズル)」を操るシオウはオフェンサーだが遠隔的な戦い方を好み、無駄な動きを嫌う傾向がある。

相手や周囲の状況を闇と同化しながらじっくりと窺い、好機を待って致命打となる一撃を放つような誘発的なタイプだったはずだ。

ガープを狙い定めたシオウの黒刀、刹羅(せつら)が地面を滑りコンクリートを削った。
火花と共にガープの両腕に衝撃が落ちる。

鎌刃に食い込んだ漆黒の牙は退く気配を見せない。
そのままガープを押し潰そうとせんばかりの凄まじい刀圧に足元が軋む。

解せない何かがあるせいか、折角の興が冷めてしまった。
舌打ちがてら刀を打ち返して頭を切り替える。



戦闘を愉しもうと心組んでいたがもういい――――殺す。



「殺式・壱(ホラーン・バンティード)」



ガープの声に応じた大鎌が飴細工のようにうねり変形し、瘴気を纏ったそれが赤く変色した。



耳を聾するような音が周囲に放たれると、シオウの視覚が忽焉と闇に落ち、何も映さなくなった。



ガープの武器「テオス」は、彼の能力「夜(ニュクス)」に呼応する。

ニュクスは5段階の変形により相手の五感をひとつずつ奪っていく破壊能力で、その名の通り、相手に闇と静寂をもたらす。

有効範囲はあるがニュクスの波動から逃れるには相当な距離を保つ必要があるため、対戦中の回避は不可能に近い。

「戦う」でなく「殺す」と決めた対象には即死の戦法をとるガープは、素早く相手を封じ、抜かりなく止めを刺す円滑な殺り方を好む。

愉しむのは大いに結構だが、手こずるのは彼の美学に反する。

原因は解らないが、今のシオウはガープの望む彼ではなかった。
好みでない相手と長時間交えるのは耐えられない。

鋭いガープの一撃をシオウが刀身で受けた。
その反応に眉を顰めつつ第2の言葉を発する。

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