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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
「海が近いな」
聞き取れるか否かの声でクーファが囁いた。
あからさまに「は?」という表情をイヴァが返した次の瞬間、クーファの姿が霧に溶けた。
気配はない。が。
すぐ耳元で声がした。
「この場所は――――嫌いだ」
「っ……!」
鋭く身を躱したイヴァが後方に飛ぶ。
着地してすぐに防御の姿勢をとったイヴァの腕を刺先が掠めた。
頭の後ろで大身槍を回転させたクーファがもう片手をイヴァの鼻先にかざすと、焦げ臭い匂いと共に掌に文字が刻まれ、そこから巨大な荊を生やした蔓のようなものが蠕動しながら飛び出してきた。
蔓の頭が肥大し、裂けた。
開いた部分が口のかたちを成し、密生した牙を剥き出しにする。
「げ、ッ…」
絡み付こうと襲い掛かる蔓もどきに気を削がれたイヴァの両足を槍が掠めた。
寸分のところで躱すことができたのは彼の驚異的な柔軟性ゆえだ。
上半身をしならせて後方に逃れたイヴァが蔓もどきに右足で打撃を加えたと同時に、ブーツを飾っていた大きなクロス・シルバーが咆哮を上げた。
十字架から放たれた数発の弾丸が蔓に食い込む。
目映い光と共に大爆発を起こした蔓は、紫色の液体を飛び散らしながら地面をのたうちまわると四散し、縮れて茶色く変色していった。
「……。すげぇ」
徐に片足を持ち上げたイヴァがブーツを指先で弾いた。
新兵器を予想以上に巧く扱えたことに会心の笑みが零れる。
サイドにベルトで固定された巨大な十字型のアクセントは一見派手なシルバーアクセサリーだが、片方で一度に3発、両足で6発の弾丸を撃つことができる、イヴァ仕様の特殊な武器だ。
命中には発射の際の反動に耐えうる頑強さの他に、略奪の能力を効率的に用いる必要がある。
弾道を、着弾までの一秒に満たない間に操作するのだ。
動体視力に長け、耐久力があり、「略奪(プランダー)」の能力を持つイヴァにしか扱えない極めて難度の高い武具。
「コイツは精神感応金属(オリハルコン)にナノマシンを組み込んだ特別製だ。てめぇら仕様にレインが用意してくれた―――着弾した瞬間から対象を破壊するウィルス・プログラムを数秒でつくってくれンだってよ。ヒトでも魔族でもだ。…すげぇだろ?」
9mmの弾丸を同時に6発放つ衝撃に耐えうるイヴァの筋力と体力があってこその装備だが、射程距離が広く防御としても使用できるため、対魔族戦ではかなり有効だと言える。
十字架の軸部分に装弾された弾数は30ずつの計60。一戦には充分な備えだ。
「被弾すりゃてめぇでも致命傷だ。ゲイボルグも厄介だがよ…悪ぃが勝たせてもらうぜ」
「……」
肩を落としたクーファが力なく首を振った。
ストレートの猫毛を潰し上げる表情は陰になって見えない。
凝視していたイヴァの肌を戦慄が走った。
――――来る。
「おまえは…いつもそうだ」
クーファの全身を黒い瘴気が覆い、魔槍が猛々しい唸り声を上げた。
耳を劈くような悪声が周囲一帯を振動させ、槍を回転させたクーファが面を上げる。
「どうしてそんなに――――恵まれてるんだ…」
「海が近いな」
聞き取れるか否かの声でクーファが囁いた。
あからさまに「は?」という表情をイヴァが返した次の瞬間、クーファの姿が霧に溶けた。
気配はない。が。
すぐ耳元で声がした。
「この場所は――――嫌いだ」
「っ……!」
鋭く身を躱したイヴァが後方に飛ぶ。
着地してすぐに防御の姿勢をとったイヴァの腕を刺先が掠めた。
頭の後ろで大身槍を回転させたクーファがもう片手をイヴァの鼻先にかざすと、焦げ臭い匂いと共に掌に文字が刻まれ、そこから巨大な荊を生やした蔓のようなものが蠕動しながら飛び出してきた。
蔓の頭が肥大し、裂けた。
開いた部分が口のかたちを成し、密生した牙を剥き出しにする。
「げ、ッ…」
絡み付こうと襲い掛かる蔓もどきに気を削がれたイヴァの両足を槍が掠めた。
寸分のところで躱すことができたのは彼の驚異的な柔軟性ゆえだ。
上半身をしならせて後方に逃れたイヴァが蔓もどきに右足で打撃を加えたと同時に、ブーツを飾っていた大きなクロス・シルバーが咆哮を上げた。
十字架から放たれた数発の弾丸が蔓に食い込む。
目映い光と共に大爆発を起こした蔓は、紫色の液体を飛び散らしながら地面をのたうちまわると四散し、縮れて茶色く変色していった。
「……。すげぇ」
徐に片足を持ち上げたイヴァがブーツを指先で弾いた。
新兵器を予想以上に巧く扱えたことに会心の笑みが零れる。
サイドにベルトで固定された巨大な十字型のアクセントは一見派手なシルバーアクセサリーだが、片方で一度に3発、両足で6発の弾丸を撃つことができる、イヴァ仕様の特殊な武器だ。
命中には発射の際の反動に耐えうる頑強さの他に、略奪の能力を効率的に用いる必要がある。
弾道を、着弾までの一秒に満たない間に操作するのだ。
動体視力に長け、耐久力があり、「略奪(プランダー)」の能力を持つイヴァにしか扱えない極めて難度の高い武具。
「コイツは精神感応金属(オリハルコン)にナノマシンを組み込んだ特別製だ。てめぇら仕様にレインが用意してくれた―――着弾した瞬間から対象を破壊するウィルス・プログラムを数秒でつくってくれンだってよ。ヒトでも魔族でもだ。…すげぇだろ?」
9mmの弾丸を同時に6発放つ衝撃に耐えうるイヴァの筋力と体力があってこその装備だが、射程距離が広く防御としても使用できるため、対魔族戦ではかなり有効だと言える。
十字架の軸部分に装弾された弾数は30ずつの計60。一戦には充分な備えだ。
「被弾すりゃてめぇでも致命傷だ。ゲイボルグも厄介だがよ…悪ぃが勝たせてもらうぜ」
「……」
肩を落としたクーファが力なく首を振った。
ストレートの猫毛を潰し上げる表情は陰になって見えない。
凝視していたイヴァの肌を戦慄が走った。
――――来る。
「おまえは…いつもそうだ」
クーファの全身を黒い瘴気が覆い、魔槍が猛々しい唸り声を上げた。
耳を劈くような悪声が周囲一帯を振動させ、槍を回転させたクーファが面を上げる。
「どうしてそんなに――――恵まれてるんだ…」
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