page10
SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
「獅子吼・來!」
回転して落ちてきた2刀が、主の呼号を受けて円舞する。
斬風が獣の咆哮に似た音を発し、両側から魔物を噛み食らった。
左右に入れ違った刀はまた両側から交わり、上から下まで触手を細切れに刻んでいく。
音もなく地面に降り立ち、両掌に落下してきた刀の柄を握った直樹の背後に、肉の破片が降り積もった。
砂化したそれが瘴気の中へと溶けていくのを脇に見ながら上身(かみ)を鞘に収める。
「っ……、……」
一気に重力が足にきて、激痛に膝をついた。
骨が軋む音。
さっきよりも身体が重い。
重力が変動したように感じる。
幾筋もの汗が地面に伝い落ちた。
呼吸が乱れて――――不覚にも息を吸ってしまう。
「は、……っ……」
熱い大気が肺に侵入った。
呼吸を戻そうとしたところで咳き込んでしまい、口を押さえた掌に赤い液体が伝う。
「っ……」
肺が灼け、じわりと溶けていくのを実感する――――死の愛撫が内臓を破壊(こわ)していく。
強烈な吐き気に襲われて両手を地面についた。
激痛で視界が暗くなり、立て続けに咳き込んだ直樹の口から血の塊が吐き出される。
「ぐ…っ、……ッ」
立ち上がるどころか、のたうち回ってしまいそうな苦痛で意識が飛びそうになる。
蹲ったまま強く拳を握った直樹が唇を噛んだ。
畜生。
――――こんな、ところで…。
痛みに硬直した身体が不意に軽くなり、毒を含まない外気が一気に体内に入ってきた。
急激な大気の変動に対応できず噎せてしまう直樹の頭上で、誰かが悲鳴を上げた。
「きゃあ!だ、誰か倒れてる…っ」
「大変…!ど、どうしたんですか?」
「やだ!血が…っ」
女子生徒の声。
時空転換が解かれた校内には、いつも通りの光景が戻っていた。
ざわめく生徒たちをかき分け、直樹に歩み寄った一哉が膝を折り、直樹の上半身を抱き起こした。
唇から零れた血は鮮やかな赤だ。
気管支や肺からの喀血だろうが、瘴気によるダメージは肺で止まってはいないだろう。
常人ならとっくに気を逸している、或いはショック死している可能性すらある激痛にも、直樹は声1つ上げない。
つくづく可愛げのないヤツだと内心でこぼす反面、その根性には感服してしまう。
「暴れンなよ…めんどくせぇから」
聞き覚えのある低音に直樹は顔を向けたが、暗く濁った視界にはなにも映らない。
混乱する意識を鎮めようと瞳を閉じたところで、藤間一哉の声だと思い至った。
「っ…!」
一哉に抱き上げられ、隠すように顔を肩へ埋めさせられる。
悲鳴はなぜか歓声に切り替わり、玄関口へ集まってきた生徒たちが廊下にまで溢れていた。
「獅子吼・來!」
回転して落ちてきた2刀が、主の呼号を受けて円舞する。
斬風が獣の咆哮に似た音を発し、両側から魔物を噛み食らった。
左右に入れ違った刀はまた両側から交わり、上から下まで触手を細切れに刻んでいく。
音もなく地面に降り立ち、両掌に落下してきた刀の柄を握った直樹の背後に、肉の破片が降り積もった。
砂化したそれが瘴気の中へと溶けていくのを脇に見ながら上身(かみ)を鞘に収める。
「っ……、……」
一気に重力が足にきて、激痛に膝をついた。
骨が軋む音。
さっきよりも身体が重い。
重力が変動したように感じる。
幾筋もの汗が地面に伝い落ちた。
呼吸が乱れて――――不覚にも息を吸ってしまう。
「は、……っ……」
熱い大気が肺に侵入った。
呼吸を戻そうとしたところで咳き込んでしまい、口を押さえた掌に赤い液体が伝う。
「っ……」
肺が灼け、じわりと溶けていくのを実感する――――死の愛撫が内臓を破壊(こわ)していく。
強烈な吐き気に襲われて両手を地面についた。
激痛で視界が暗くなり、立て続けに咳き込んだ直樹の口から血の塊が吐き出される。
「ぐ…っ、……ッ」
立ち上がるどころか、のたうち回ってしまいそうな苦痛で意識が飛びそうになる。
蹲ったまま強く拳を握った直樹が唇を噛んだ。
畜生。
――――こんな、ところで…。
痛みに硬直した身体が不意に軽くなり、毒を含まない外気が一気に体内に入ってきた。
急激な大気の変動に対応できず噎せてしまう直樹の頭上で、誰かが悲鳴を上げた。
「きゃあ!だ、誰か倒れてる…っ」
「大変…!ど、どうしたんですか?」
「やだ!血が…っ」
女子生徒の声。
時空転換が解かれた校内には、いつも通りの光景が戻っていた。
ざわめく生徒たちをかき分け、直樹に歩み寄った一哉が膝を折り、直樹の上半身を抱き起こした。
唇から零れた血は鮮やかな赤だ。
気管支や肺からの喀血だろうが、瘴気によるダメージは肺で止まってはいないだろう。
常人ならとっくに気を逸している、或いはショック死している可能性すらある激痛にも、直樹は声1つ上げない。
つくづく可愛げのないヤツだと内心でこぼす反面、その根性には感服してしまう。
「暴れンなよ…めんどくせぇから」
聞き覚えのある低音に直樹は顔を向けたが、暗く濁った視界にはなにも映らない。
混乱する意識を鎮めようと瞳を閉じたところで、藤間一哉の声だと思い至った。
「っ…!」
一哉に抱き上げられ、隠すように顔を肩へ埋めさせられる。
悲鳴はなぜか歓声に切り替わり、玄関口へ集まってきた生徒たちが廊下にまで溢れていた。
BACK NEXT
Copyright LadyBacker All Rights Reserved./Designed by Rosenmonat