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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


「……」

額から滴る汗が高熱の地面を何度濡らしても、それはすぐに干上がっていく。

熱い――――。

60度近く、もっとあるかもしれない。
じっと立っているだけで眩暈がしそうな熱と毒気を帯びた空気。
濡れた身体は急速に水分を失っていく。

遠くで女の声が聞こえた。
違う場所からも別の音が聞こえる。

足元が波打った。
なにかがまた…近づいてくる。

不快な焦燥が思考を乱す。
脱出しなくてはキリがない。

出口を探ろうと周囲を窺い見るが、荒涼とした岩肌と黒い木が地平線上にただ広がっているだけだ。

黒い空はどこまでも深くて、見上げると深淵の地底にいるような圧迫を受ける。

重力に堪えかねた両足は痺れ始めている。
負担を軽減するため動きを最小限にしていたつもりだが、やはり長くは誤魔化せそうにない。

「はぁ……くそ」

溜息交じりに首を振った直樹の片手に大手裏剣が現れる。

前方、赤土からゆっくりと突き出てきたのは触手のようなものだった。

直径2メートル、長さ20メートルはありそうな太いそれの先端部分が口のかたちに裂け、紫色の牙を剥き出しにする。

「せめてちゃんと歯を磨けよ…」

決起を込めて踏み切った直樹の身体が上空で鋭く反転し、美しい半円を描いた。

その軌道通りに触手が裂ける。

割れた部分が――――大きな口に変わった。

「!」

颶風の勢いで直樹を飲み込もうと突進してきたそれが、噛み砕かんばかりに頭上から牙を落としてくる。

即座に引き抜いた二刀で上下、なんとか牙を受け止めた直樹が、両腕をクロスさせた状態で牙を押し返す。

口を閉じようとする魔物の力は強烈で、腕が軋む音に苦悶の声が交じってしまう。

魔物の力に、立っているだけでも限界を感じるくらいの重力が加わる。
上顎を制している右腕の腱が切れ、左腕が震えた。

――――なんて力だ…ッ。

脚力、腕力共に自信がある直樹は、どんなパワーオフェンサーと対峙したときにも圧し負かされたことがない。
身体が小さいぶんスピードだけが長けているように見られがちだが、腕力だったらブラッドにも劣らないという自負がある。

こんな歯の磨き方も知らないようなキッタナイのに…俺がヤられる?

腹と両足に力を込める。
腕が使えないなら全身で押し返す。
刀と手はただの支えと認識して歯を食いしばる。

――――有り得ねぇ!

右腕、漆黒の刃が瞬間的に牙から離れ、魔物の牙が落ちてきた。

直樹に突き刺さる寸前で根元から牙を切断し、身体を反転させてもう片手、赤刃が牙を縦に裂く。

刃先が厭な音を立てて欠けた。
眉根を寄せながらも――――最後まで刀筋を貫く。

攻撃の勢いに乗ったまま上空に跳んで、刀をさらに上空に投げた。

開いた両手で素早く印を結び、獅子の型で構える。

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