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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
仕方なく手で落とそうとしたところで、緑の液体が気泡を立て始めた。
「!」
液体が楕円の魔物の容を成す。
ギャギャギャギャギャッ!
笑い声のような音と共に、電光石火の勢いで直樹の手に喰らいついてくる。
「っ……」
もう片手に発現した大手裏剣でそれを薙ぎ払うと、裂けて地面に落ちた魔物は手裏剣を身体に喰いこませたまま溶け、赤い地中へ沈み消えていった。
液体が刀から消えたことを確認して鞘に収める。
刀を腰に帯びた直樹の両手、指の間には、15センチほどの大苦無(くない)が握られていた。
彼は精神感応金属(オリハルコン)に術法を施した鋭利な暗器を常に大量に持ち歩いているのだが、外見からはどこに隠し持っているのか解らない。
探ろうと躍起になった幹部(イヴァ)もいたが、服を脱がしてみても解らずじまいだった。
按兵不動に徹し、直樹は化物の動きを探っていた。
気配は掴めないが仕留めた手応えを感じなかっただけに、まだ蠢(うご)く可能性は高い。
うまくヤらないとキリがなさそうだ――――内心で舌打ちする。
無数に分化していたが元は1体だろう。
最も強い瘴気を放つ個体を見極め、撃ち抜けば勝機はある。
高位魔族と違って、下級魔族は弱点である核を移動できない。
狙いはただ1点でいいはずだ。
精神を研ぎ澄ます直樹の背後で赤土が波打った。
濃厚な瘴気に満ちたこの場所で化物1体の瘴気を探るのは至難の業だ。
彼は背後の気配を感知できていない。
魔物の瘴気は外気よりも薄く、とても感じ取れるものではなかった。
灼熱に焼かれた肌から微かに蒸気が上がる。
体感したことのない暑さが眩暈と吐き気を併発させ、否応無しに水分を奪い取っていく。
直立不動のまま佇む直樹は、ただ勝算だけに思いを馳せていた。
少しでも「死」を感じた時点で敗北は決まる。
冷静さを欠いても駄目だ。
逆賭をつけ過ぎてもいけない。
――――俺が敗けるなんて有り得ない。
俄かに上半身を捻った直樹が背後に視線を投げた。
宙に飛び上がった魔物の数は数百、身体を向けながらその1つずつに照準を滑らせる。
ぎりぎりまで見極め引きつける。
直樹の瞳孔が収縮し、獣の相貌を呈した。
血が沸き胸が高鳴り、鼓動がリミットを越えると視界はスローモーションに変わった。
心拍数を限界以上に高めることで生じる遅態化現象は、肉体を最大限まで武装化させた者にだけ体感できるスペシャル・フラッシュだ。
先鋭はただ1点だけを細密に貫いた。
直樹の指から放たれた1本の苦無は無数の化物の間を疾り、奥に潜んでいた1つを突き破り貫通した。
低く身を屈め、反動のまま後方に跳ぶと、直樹がいた場所に次々と魔物が降り積もった。
『ギャアアアああッ!』
緑の液体が空中で爆発し、野太い悲鳴は急激に甲高くなり弾け、四散した。
砂状に崩れた魔物は姿を失くし、瘴気の中へと還っていく。
飛び散ってきた液体を緩慢に躱した直樹が、安堵と共に両手の苦無を引っ込めた。
仕方なく手で落とそうとしたところで、緑の液体が気泡を立て始めた。
「!」
液体が楕円の魔物の容を成す。
ギャギャギャギャギャッ!
笑い声のような音と共に、電光石火の勢いで直樹の手に喰らいついてくる。
「っ……」
もう片手に発現した大手裏剣でそれを薙ぎ払うと、裂けて地面に落ちた魔物は手裏剣を身体に喰いこませたまま溶け、赤い地中へ沈み消えていった。
液体が刀から消えたことを確認して鞘に収める。
刀を腰に帯びた直樹の両手、指の間には、15センチほどの大苦無(くない)が握られていた。
彼は精神感応金属(オリハルコン)に術法を施した鋭利な暗器を常に大量に持ち歩いているのだが、外見からはどこに隠し持っているのか解らない。
探ろうと躍起になった幹部(イヴァ)もいたが、服を脱がしてみても解らずじまいだった。
按兵不動に徹し、直樹は化物の動きを探っていた。
気配は掴めないが仕留めた手応えを感じなかっただけに、まだ蠢(うご)く可能性は高い。
うまくヤらないとキリがなさそうだ――――内心で舌打ちする。
無数に分化していたが元は1体だろう。
最も強い瘴気を放つ個体を見極め、撃ち抜けば勝機はある。
高位魔族と違って、下級魔族は弱点である核を移動できない。
狙いはただ1点でいいはずだ。
精神を研ぎ澄ます直樹の背後で赤土が波打った。
濃厚な瘴気に満ちたこの場所で化物1体の瘴気を探るのは至難の業だ。
彼は背後の気配を感知できていない。
魔物の瘴気は外気よりも薄く、とても感じ取れるものではなかった。
灼熱に焼かれた肌から微かに蒸気が上がる。
体感したことのない暑さが眩暈と吐き気を併発させ、否応無しに水分を奪い取っていく。
直立不動のまま佇む直樹は、ただ勝算だけに思いを馳せていた。
少しでも「死」を感じた時点で敗北は決まる。
冷静さを欠いても駄目だ。
逆賭をつけ過ぎてもいけない。
――――俺が敗けるなんて有り得ない。
俄かに上半身を捻った直樹が背後に視線を投げた。
宙に飛び上がった魔物の数は数百、身体を向けながらその1つずつに照準を滑らせる。
ぎりぎりまで見極め引きつける。
直樹の瞳孔が収縮し、獣の相貌を呈した。
血が沸き胸が高鳴り、鼓動がリミットを越えると視界はスローモーションに変わった。
心拍数を限界以上に高めることで生じる遅態化現象は、肉体を最大限まで武装化させた者にだけ体感できるスペシャル・フラッシュだ。
先鋭はただ1点だけを細密に貫いた。
直樹の指から放たれた1本の苦無は無数の化物の間を疾り、奥に潜んでいた1つを突き破り貫通した。
低く身を屈め、反動のまま後方に跳ぶと、直樹がいた場所に次々と魔物が降り積もった。
『ギャアアアああッ!』
緑の液体が空中で爆発し、野太い悲鳴は急激に甲高くなり弾け、四散した。
砂状に崩れた魔物は姿を失くし、瘴気の中へと還っていく。
飛び散ってきた液体を緩慢に躱した直樹が、安堵と共に両手の苦無を引っ込めた。
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