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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
僅かに取り込んだ大気に痺れを感じ、ここが地上ではない別の空間であることを理解した彼は、瞬時に呼吸を止めていた。
幼少期から峻厳に鍛えられてきた直樹の身体は、能力者さえも凌駕する力を備えている。
代々神代の当主は外法を用いた特殊な訓練により、万能耐性を身につけ己の身体を武装化してきた。
直樹もそれに倣い、同様の鍛錬を積んでいる。
外気を肺に取り込まず、仮死状態を保つのもその1つだ。
旧代では水中や地中に潜伏する際に使われたものらしいが、現代兵器に対しても充分な効力を発揮する。
地獄を連想させるような赤い岩だらけの荒野には、曲がりくねった黒い木が生えていた。
濃霧に視界が遮られ、急激な圧が更に重くのしかかり、前にのめった身体を刀で支える。
――――重い。
強烈な重力に気が乱れ、術のコントロールを失いそうになるが、こんな濃度の瘴気を取り込んだら数秒で肺がイかれる。
熱を帯びた空気は猛毒に等しく、肉体の回復や耐久力では常人と変わらない直樹にとって致命傷になる。
「……」
微かに眉根を寄せ、片手で刀を回転させてみる。
身体は動くものの感覚が鈍く、思い通りにはいかない。
『人間だ』
『にんげん』
『ニ、ニ…ニンゲン』
足元から地鳴りのような胴間声が響き、黒い木が揺れた。
地面からずるりと何かが這い出してくる。
ひとつ、ふたつ…無数の瘤が赤い地表から沸騰し、出現した。
歪な楕円を成したそれらは棘状の突起で表面を覆うと顫動しながら飛び上がり、一斉に直樹の頭上へ降り注ぐ。
「!」
耳障りな悪声が周囲一帯に飛び散った。
『チ。血』
『ベル食べるベるべ食べ』
ドドドドッ!
楕円の物体は直樹に届く直前で流れるように二手になり、次々に両脇へ落ちていった。
土煙を上げながら積もったそれは2つに裂かれ、転がり呻いている。
『痛い、イタイ異体射たい』
『イタイイ』
「シュールすぎて笑えないんだけど…」
緑色の液体に塗れた物打を見咎めた直樹は、思いっきり肩を落としていた。
代々当主を護り抜いてきた黒漆太刀は金筋や稲妻も盛んに入る大時代物だが、彼にとっては両腕にも等しい。
意志を持つ双刀は主を選ぶ。
認められた者以外には触れられず、鞘を抜くことも出来ない。
刀が彼を選んでくれたように、直樹も「彼」を物として扱わず、入念な手入れを欠かしたことがない。
気色悪いイキモノに触れ、不気味な液体をカラダに引っ掛けられた相棒が哀感を漂わせているような気がして、直樹は刀にそっと言葉を落としていた。
「ごめんね、襲(かさね)…」
数回振っても、粘りを帯びた液体は落ちない。
僅かに取り込んだ大気に痺れを感じ、ここが地上ではない別の空間であることを理解した彼は、瞬時に呼吸を止めていた。
幼少期から峻厳に鍛えられてきた直樹の身体は、能力者さえも凌駕する力を備えている。
代々神代の当主は外法を用いた特殊な訓練により、万能耐性を身につけ己の身体を武装化してきた。
直樹もそれに倣い、同様の鍛錬を積んでいる。
外気を肺に取り込まず、仮死状態を保つのもその1つだ。
旧代では水中や地中に潜伏する際に使われたものらしいが、現代兵器に対しても充分な効力を発揮する。
地獄を連想させるような赤い岩だらけの荒野には、曲がりくねった黒い木が生えていた。
濃霧に視界が遮られ、急激な圧が更に重くのしかかり、前にのめった身体を刀で支える。
――――重い。
強烈な重力に気が乱れ、術のコントロールを失いそうになるが、こんな濃度の瘴気を取り込んだら数秒で肺がイかれる。
熱を帯びた空気は猛毒に等しく、肉体の回復や耐久力では常人と変わらない直樹にとって致命傷になる。
「……」
微かに眉根を寄せ、片手で刀を回転させてみる。
身体は動くものの感覚が鈍く、思い通りにはいかない。
『人間だ』
『にんげん』
『ニ、ニ…ニンゲン』
足元から地鳴りのような胴間声が響き、黒い木が揺れた。
地面からずるりと何かが這い出してくる。
ひとつ、ふたつ…無数の瘤が赤い地表から沸騰し、出現した。
歪な楕円を成したそれらは棘状の突起で表面を覆うと顫動しながら飛び上がり、一斉に直樹の頭上へ降り注ぐ。
「!」
耳障りな悪声が周囲一帯に飛び散った。
『チ。血』
『ベル食べるベるべ食べ』
ドドドドッ!
楕円の物体は直樹に届く直前で流れるように二手になり、次々に両脇へ落ちていった。
土煙を上げながら積もったそれは2つに裂かれ、転がり呻いている。
『痛い、イタイ異体射たい』
『イタイイ』
「シュールすぎて笑えないんだけど…」
緑色の液体に塗れた物打を見咎めた直樹は、思いっきり肩を落としていた。
代々当主を護り抜いてきた黒漆太刀は金筋や稲妻も盛んに入る大時代物だが、彼にとっては両腕にも等しい。
意志を持つ双刀は主を選ぶ。
認められた者以外には触れられず、鞘を抜くことも出来ない。
刀が彼を選んでくれたように、直樹も「彼」を物として扱わず、入念な手入れを欠かしたことがない。
気色悪いイキモノに触れ、不気味な液体をカラダに引っ掛けられた相棒が哀感を漂わせているような気がして、直樹は刀にそっと言葉を落としていた。
「ごめんね、襲(かさね)…」
数回振っても、粘りを帯びた液体は落ちない。
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