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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


正面を見据えた一哉は気に染まなげな長嘆息を落とすと、直樹だけに届くくらいの声で囁く。

「何回俺の制服赤くすれば気が済むんだよ…」

「と、藤間くん…っ?」
「きゃあ―――っ、藤間くんが可愛い男の子をっ」
「なに!?なんなの〜っ。素敵すぎる…っ」
「頑張って〜!藤間くんっ」

なぜだか黄色い声を上げる女子高生たちは事態を都合よく曲解し始めたらしく、最早なんの声援なのか解らない「頑張って」を連呼している。

直樹を抱いたまま野次馬の間を割って進んでいると、動かない直樹の身体が急に重くなった。

腕の中に目を落とした一哉が小さく舌打ちする。

「気絶しやがった…」

瘴気のない人世界に戻れば、放置しておいても能力者は自己回復する。
そのへんに捨てて行ってやろうかと考えもしたが、彼からはやはりフォースを感じられない。

魔界に閉じ込められて生還した直樹が能力者でなく生身の人間だとはおよそ考えにくいが、ぐったりと瞳を閉じた彼の顔色は悪く、汗に濡れた身体は未だ猛毒に蝕まれている。

こいつがここで死んで、どっかのバカが立てたムカつく作戦が大成功。
それだけは絶対に、死んでも厭だ…。

だが、神代直樹というカードを生かしておくのは危険で、ここで殺すという選択肢も魅力的ではある。

苦しそうな表情で魘されている直樹を見下ろし、しばし静観していた一哉の背中を再び黄色い声援が襲うと、一哉は逃げるようにその場から立ち去ってしまった。








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