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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
宣言通り直樹に勝利してみせたブラッドは彼に「理解してみろ」と言葉を投げた。
そうすればここに達せると高みから見下した――――直樹はそう感じていた。
彼の言葉を未だに理解していないし、戯言と唾棄すらしてしまう。
直樹はブラッドの矜持に満ちた態度も、人前では上手に牙を隠す狡猾さも大嫌いだった。
嘆息と共に顔を伏せる。
あんなヤツの言葉なんか…どうだっていい。
送りつけられたメディアチップに記録されていた最愛の人の映像が直樹の脳内に反芻される。
消し去ろうとしても拭えない痛みとなって、執拗に彼を苛む。
同情ではなかった。
本人にしか解らない痛みを己の主観に置き換えて「可哀想」などと憐れむことが、どれだけ相手を傷つけるのかは弁えている。
為すべきは憐憫ではない。
向けるべきは言葉ではない。
解決だけが彼を救える――――そう信じている。
昨日――――。
警戒しながらも中を確認しようとPCに差し込んだチップには映像が収録されており、錚々たる面々が一堂に会する中にレインの姿があった。
先日エデンで行われた中央会議の様子らしい。
画像は乱れがひどく音声も飛びがちだったが、何より異様だったのは視点だ。
上方から、横から、時には座している第三者の目線になり代わった画像の不気味さは、直樹に厭な予感を喚起させた。
一見ただの会議風景だがカメラは常にレインを捉え、誰もいない廊下を上空から映したこともあった。
監視カメラの画像ではない。
視点は大きく位置を変え細かく切り替わり、レインを正面から映す場合もある。
だが当のレインはそれに気づいた様子もなく、廊下に人影は無い。
煙草を吸い終え会議室へ戻るまで、レインは終始1人だった。
「彼を常に監視している」という脅迫めいたメッセージだと確信した直樹は立ち上がり、青白い光を放つモニターを落とそうと指を伸ばした。
だが映像には続きがあった。
突然真っ白になった画面の端に、小さな男の子が映っていた。
両膝を抱えるようにして白い部屋の隅に座り、壁に背を当てている。
眉を顰めてモニターを覗き見た直樹の前で、黒髪の子供が顔を上げた。
大きな紅い瞳をした男の子は5、6歳に見えるが、その年齢にはそぐわない妖艶さと色気を漂わせている。
「…レイン?」
幼いが面影はそのままのレインが、部屋に入ってきた男に泣きながら何かを訴えている。
ノイズ交じりの音声が気になった直樹がボリュームを上げた。
『…で。―――が―い。…殺さないで』
大粒の涙をぽろぽろ零して訴えるレインの手から、男が何かを奪った。
レインが大切に抱き抱えていたのは小さな鼠だった。
尻尾を摘み上げた男の手の下で、鼠は両手足を泳がせてもがいている。
『…い、bQ77…。――の――は…必ず奪わ…だよ』
濁った音声。男がなにか言った。
視点は一定で、斜め上方からレインの表情を捉えている。
監視カメラのものらしい。
必死に腕を伸ばすレインの目の前で数度の筒音が響き、鼠は撃ち殺された。
小さい身体に何発も弾丸が食い込むのを直視できずにレインが顔を背けると、背後に立った別の男が細い顎を掴む。
宣言通り直樹に勝利してみせたブラッドは彼に「理解してみろ」と言葉を投げた。
そうすればここに達せると高みから見下した――――直樹はそう感じていた。
彼の言葉を未だに理解していないし、戯言と唾棄すらしてしまう。
直樹はブラッドの矜持に満ちた態度も、人前では上手に牙を隠す狡猾さも大嫌いだった。
嘆息と共に顔を伏せる。
あんなヤツの言葉なんか…どうだっていい。
送りつけられたメディアチップに記録されていた最愛の人の映像が直樹の脳内に反芻される。
消し去ろうとしても拭えない痛みとなって、執拗に彼を苛む。
同情ではなかった。
本人にしか解らない痛みを己の主観に置き換えて「可哀想」などと憐れむことが、どれだけ相手を傷つけるのかは弁えている。
為すべきは憐憫ではない。
向けるべきは言葉ではない。
解決だけが彼を救える――――そう信じている。
昨日――――。
警戒しながらも中を確認しようとPCに差し込んだチップには映像が収録されており、錚々たる面々が一堂に会する中にレインの姿があった。
先日エデンで行われた中央会議の様子らしい。
画像は乱れがひどく音声も飛びがちだったが、何より異様だったのは視点だ。
上方から、横から、時には座している第三者の目線になり代わった画像の不気味さは、直樹に厭な予感を喚起させた。
一見ただの会議風景だがカメラは常にレインを捉え、誰もいない廊下を上空から映したこともあった。
監視カメラの画像ではない。
視点は大きく位置を変え細かく切り替わり、レインを正面から映す場合もある。
だが当のレインはそれに気づいた様子もなく、廊下に人影は無い。
煙草を吸い終え会議室へ戻るまで、レインは終始1人だった。
「彼を常に監視している」という脅迫めいたメッセージだと確信した直樹は立ち上がり、青白い光を放つモニターを落とそうと指を伸ばした。
だが映像には続きがあった。
突然真っ白になった画面の端に、小さな男の子が映っていた。
両膝を抱えるようにして白い部屋の隅に座り、壁に背を当てている。
眉を顰めてモニターを覗き見た直樹の前で、黒髪の子供が顔を上げた。
大きな紅い瞳をした男の子は5、6歳に見えるが、その年齢にはそぐわない妖艶さと色気を漂わせている。
「…レイン?」
幼いが面影はそのままのレインが、部屋に入ってきた男に泣きながら何かを訴えている。
ノイズ交じりの音声が気になった直樹がボリュームを上げた。
『…で。―――が―い。…殺さないで』
大粒の涙をぽろぽろ零して訴えるレインの手から、男が何かを奪った。
レインが大切に抱き抱えていたのは小さな鼠だった。
尻尾を摘み上げた男の手の下で、鼠は両手足を泳がせてもがいている。
『…い、bQ77…。――の――は…必ず奪わ…だよ』
濁った音声。男がなにか言った。
視点は一定で、斜め上方からレインの表情を捉えている。
監視カメラのものらしい。
必死に腕を伸ばすレインの目の前で数度の筒音が響き、鼠は撃ち殺された。
小さい身体に何発も弾丸が食い込むのを直視できずにレインが顔を背けると、背後に立った別の男が細い顎を掴む。
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