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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
「レインは私の生贄(ベルウェザー)。彼は私に願った――――彼の望みはね、ヘンリー。「組織からの離脱と自由」…私はそれを叶えると約束した。契約としてね…。そしてそれは、ようやく為される」
血で満たされたグラスを持ち上げてメンバーを一望する。
衆目を一身に集めた聯は優雅に笑むと、グラスをすこしだけ前に突き出した。
「Happy Departure.…Cheers. (新世界に)」
黄昏迫る校舎は完全な静寂に覆われていた。
部活動に励む生徒や雑務に追われる教師の姿もない。
薄暗い廊下に響く足音はひとつだけだった。
闇の帳に包まれた景色の中を、一哉は黙々と歩いている。
携帯が振動したのは先刻のことだ。
着信の相手Gwendal Claude(グウェンダル・クロード)はGUARDIANのエージェントで、たまに任務を共にすることもある。
『Hiya!Waz up?(よっ、元気〜?)』
軽快な彼の声は生バンドの演奏と喧騒に埋もれていた。
クラブにでも遊びに来ているらしい。
『すぐにそこから離れた方がいいぜ、藤間。SNIPERの幹部が来てんだろ?そいつを殺るためのトラップが、じきに発動する』
「……」
無言の中に不穏な殺気を感じ取ったグウェンダルが直ちに言葉を付け足した。
『待ってくれ、違うぜ…。全ッ然違う。マジで。見当違いもいいとこだ。そうだろ?俺は「視てた」だけ!首謀者は別だ。わかるか?関わってねぇよ、俺は。おまえをエサに使っといて「逃げろ」とか忠告するほど大物じゃねっての。な?』
「……」
風向きの悪さに苛立ち始めたグウェンダルは、地団駄を踏みながらも言い募る。
『勘弁してくれよ。仏心ってヤツなんだぜ、俺だってよ。おまえに死んでほしくないだけだ。怒りを向ける相手を間違えんなって…とにかく出ろよ。な?おまえにはレイン捕獲っつー重大なミッションがあるんだ。つまんねぇトコで死ぬなよ、エース』
電源を落とした携帯を鞄に投げ入れた一哉は、晴れない鬱憤に髪を乱し上げていた。
肩の創痍はまだ疼痛を残している。
新人類としてのあらゆる特化を備えている一哉だが、回復はそんなに早い方ではない。
レインとの対戦で火傷にも傷痍にも慣れているとはいえ、謂れの無い負傷というのは実に腹立たしい。
身内の策略だとしても今度のやり方だけは認められない。
たとえ聯の指示だったとしても、現段階で何も聞かされていないだけに加担する義務は発生しない。
一哉を餌に直樹を誘き出し、交戦の間に罠を張る。
そこまでの姦計は予定通りだろうが、これ以上は赦さない――――完遂はさせない。
ダシに使われたこともそうだが、なにより腹に据えかねることがある。
首謀者は「一哉では直樹を斃せない」という前提で悪計を企て、彼を噛ませイヌ程度に扱った。
たしかに直樹は凄腕だったがそんな事象などどうでもいい。
殺意を向けるべき相手は直樹ではない。
首謀者は直樹が絶対に目溢しできないネタをわざわざ送りつけ、この場所に呼び寄せた。
足止め、もしくは殺害目的だとしたら…。
「やっぱりな」
校舎の東端にあたる講堂に足を踏み入れた一哉は、扉に背を凭れた格好で眼前に広がる魔法陣に目を注いでいた。
青白く発行した文字からは黒焔が燻っている。
人魔空間の転換が成功したのは最近のことだ。
何十年という時を費やし、何億パターンもある文字と条件を掛け合わせて完成された円陣は、未だ実験段階にある。
失敗には大きなリスクと犠牲を伴い、気の遠くなるような年月と共に何百万という命が費やされた。
ルシファー降臨までに完遂しなくてはならない絶対条件として、組織は転換装置の完成に妄執していた。
「レインは私の生贄(ベルウェザー)。彼は私に願った――――彼の望みはね、ヘンリー。「組織からの離脱と自由」…私はそれを叶えると約束した。契約としてね…。そしてそれは、ようやく為される」
血で満たされたグラスを持ち上げてメンバーを一望する。
衆目を一身に集めた聯は優雅に笑むと、グラスをすこしだけ前に突き出した。
「Happy Departure.…Cheers. (新世界に)」
黄昏迫る校舎は完全な静寂に覆われていた。
部活動に励む生徒や雑務に追われる教師の姿もない。
薄暗い廊下に響く足音はひとつだけだった。
闇の帳に包まれた景色の中を、一哉は黙々と歩いている。
携帯が振動したのは先刻のことだ。
着信の相手Gwendal Claude(グウェンダル・クロード)はGUARDIANのエージェントで、たまに任務を共にすることもある。
『Hiya!Waz up?(よっ、元気〜?)』
軽快な彼の声は生バンドの演奏と喧騒に埋もれていた。
クラブにでも遊びに来ているらしい。
『すぐにそこから離れた方がいいぜ、藤間。SNIPERの幹部が来てんだろ?そいつを殺るためのトラップが、じきに発動する』
「……」
無言の中に不穏な殺気を感じ取ったグウェンダルが直ちに言葉を付け足した。
『待ってくれ、違うぜ…。全ッ然違う。マジで。見当違いもいいとこだ。そうだろ?俺は「視てた」だけ!首謀者は別だ。わかるか?関わってねぇよ、俺は。おまえをエサに使っといて「逃げろ」とか忠告するほど大物じゃねっての。な?』
「……」
風向きの悪さに苛立ち始めたグウェンダルは、地団駄を踏みながらも言い募る。
『勘弁してくれよ。仏心ってヤツなんだぜ、俺だってよ。おまえに死んでほしくないだけだ。怒りを向ける相手を間違えんなって…とにかく出ろよ。な?おまえにはレイン捕獲っつー重大なミッションがあるんだ。つまんねぇトコで死ぬなよ、エース』
電源を落とした携帯を鞄に投げ入れた一哉は、晴れない鬱憤に髪を乱し上げていた。
肩の創痍はまだ疼痛を残している。
新人類としてのあらゆる特化を備えている一哉だが、回復はそんなに早い方ではない。
レインとの対戦で火傷にも傷痍にも慣れているとはいえ、謂れの無い負傷というのは実に腹立たしい。
身内の策略だとしても今度のやり方だけは認められない。
たとえ聯の指示だったとしても、現段階で何も聞かされていないだけに加担する義務は発生しない。
一哉を餌に直樹を誘き出し、交戦の間に罠を張る。
そこまでの姦計は予定通りだろうが、これ以上は赦さない――――完遂はさせない。
ダシに使われたこともそうだが、なにより腹に据えかねることがある。
首謀者は「一哉では直樹を斃せない」という前提で悪計を企て、彼を噛ませイヌ程度に扱った。
たしかに直樹は凄腕だったがそんな事象などどうでもいい。
殺意を向けるべき相手は直樹ではない。
首謀者は直樹が絶対に目溢しできないネタをわざわざ送りつけ、この場所に呼び寄せた。
足止め、もしくは殺害目的だとしたら…。
「やっぱりな」
校舎の東端にあたる講堂に足を踏み入れた一哉は、扉に背を凭れた格好で眼前に広がる魔法陣に目を注いでいた。
青白く発行した文字からは黒焔が燻っている。
人魔空間の転換が成功したのは最近のことだ。
何十年という時を費やし、何億パターンもある文字と条件を掛け合わせて完成された円陣は、未だ実験段階にある。
失敗には大きなリスクと犠牲を伴い、気の遠くなるような年月と共に何百万という命が費やされた。
ルシファー降臨までに完遂しなくてはならない絶対条件として、組織は転換装置の完成に妄執していた。
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