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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
静かに言葉を落とした聯の隣に腰掛けていたアスタ・ビノシュが鼻を鳴らし、開口する。
「レイン・エルを気に入っているのは「あの方」ではなく貴方でしょう、ヘンリー。こういう場であまりがっつくものじゃない。ご所望なら次の会議の時にでも用意して差し上げますよ…ベッドもつけてね」
アッシュトレイに優しく煙草を押し付けた聯がすこしだけ咎めるような視線をアスタに遣った。
アスタ・ビノシュ。
フランス人化学者の父とポーランド人舞台女優の母の間に生まれた彼は、手足の長い優男だ。
メラニンが欠乏する遺伝子疾患を持つ先天性アルビノで、透けるような白肌に透明感のある白髪、ライトブルーの瞳をしている。
バベル研究所の支配者として君臨するアスタはレインの研究を指揮していたノーマンの弟子だが、実際はノーマンよりも深く組織と関わり、レインを支配してきた経緯を持つ。
「アスタ。レインはもう「候補者(ドール)」じゃないんだ…組織のものではないよ」
魂を汚し堕としめるという事由を大義名分として、レインに堕落の「快楽」を与え続けた彼らのほとんどは、それが欲望の為の辻褄合わせであったことを自認している。
だが、レインが辱めと執拗な監視を受け続けたのは、こじつけでも理由があったからに他ならない。
彼が組織のものであったのは「器」の最有力候補だったからだ。
「レインは最早、誰の干渉も受ける謂れはない…。彼は自由だよ」
聯が慇懃な笑みを浮かべてメンバーたちを見渡した。
悲鳴と爆音。
阿鼻叫喚の映像だけが白光となり、聯を注視する一同の顔を照らしている。
「きみは間違っていないよ、ヘンリー。妨害はあったんだ…彼の中には「先約」があった」
温和な聯のバリトンが甘く響く。
数人が眉根を寄せざわついたが、大多数は静観を守っている。
魔王は復活した。
世界政府樹立への絶対条件が果たされた今、組織内に起こるのは権勢争いだ。
政財・軍・金融界を牛耳るパワー・エリートたちが「どの血族につくのか」。
聯の策動は既に根付いている。
ヘヴンズ・ハウス・ルール(沈黙の掟)
――――黙したメンバーたちは表情すら変えない。
沈黙は服従を意味し、彼らは既に主を選んでいる。
「わかるかな、この意味が…ヘンリー・ハヴィック」
異様な雰囲気に気づいたヘンリーが挙措を失う。
幾度も首を振って、この後に続く聯の言葉を遮ろうとする。
服従の誓約を交わさない者は知ることを赦されない。
知りすぎた者は制裁を受ける。
「ま、待ってくれ…!し、知らん。わしはなにも…っ」
立ち上がった聯がゆっくりと足を進める。
恐れ戦いたヘンリーが尻餅をつくと同時にスクリーンに血飛沫が散った。
それは鮮明な赤で、場面が切り替わっても色褪せない。
血腥い臭気が漂う室内には声1つ上がらないが、ヘンリーの身体が音を立てて崩れると、切断された首から血が噴出し、靴先を痙攣させた下半身が不気味に顫動した。
「そうだよ―――刻印の主は私だ」
リーデルのシャンパングラスに丸い血玉が落ち、黄金のクリュッグが真紅に染まる。
掴んだ首を丁寧にテーブルに載せた聯は、変わらない柔和な口調でヘンリーの頭部に語りかける。
静かに言葉を落とした聯の隣に腰掛けていたアスタ・ビノシュが鼻を鳴らし、開口する。
「レイン・エルを気に入っているのは「あの方」ではなく貴方でしょう、ヘンリー。こういう場であまりがっつくものじゃない。ご所望なら次の会議の時にでも用意して差し上げますよ…ベッドもつけてね」
アッシュトレイに優しく煙草を押し付けた聯がすこしだけ咎めるような視線をアスタに遣った。
アスタ・ビノシュ。
フランス人化学者の父とポーランド人舞台女優の母の間に生まれた彼は、手足の長い優男だ。
メラニンが欠乏する遺伝子疾患を持つ先天性アルビノで、透けるような白肌に透明感のある白髪、ライトブルーの瞳をしている。
バベル研究所の支配者として君臨するアスタはレインの研究を指揮していたノーマンの弟子だが、実際はノーマンよりも深く組織と関わり、レインを支配してきた経緯を持つ。
「アスタ。レインはもう「候補者(ドール)」じゃないんだ…組織のものではないよ」
魂を汚し堕としめるという事由を大義名分として、レインに堕落の「快楽」を与え続けた彼らのほとんどは、それが欲望の為の辻褄合わせであったことを自認している。
だが、レインが辱めと執拗な監視を受け続けたのは、こじつけでも理由があったからに他ならない。
彼が組織のものであったのは「器」の最有力候補だったからだ。
「レインは最早、誰の干渉も受ける謂れはない…。彼は自由だよ」
聯が慇懃な笑みを浮かべてメンバーたちを見渡した。
悲鳴と爆音。
阿鼻叫喚の映像だけが白光となり、聯を注視する一同の顔を照らしている。
「きみは間違っていないよ、ヘンリー。妨害はあったんだ…彼の中には「先約」があった」
温和な聯のバリトンが甘く響く。
数人が眉根を寄せざわついたが、大多数は静観を守っている。
魔王は復活した。
世界政府樹立への絶対条件が果たされた今、組織内に起こるのは権勢争いだ。
政財・軍・金融界を牛耳るパワー・エリートたちが「どの血族につくのか」。
聯の策動は既に根付いている。
ヘヴンズ・ハウス・ルール(沈黙の掟)
――――黙したメンバーたちは表情すら変えない。
沈黙は服従を意味し、彼らは既に主を選んでいる。
「わかるかな、この意味が…ヘンリー・ハヴィック」
異様な雰囲気に気づいたヘンリーが挙措を失う。
幾度も首を振って、この後に続く聯の言葉を遮ろうとする。
服従の誓約を交わさない者は知ることを赦されない。
知りすぎた者は制裁を受ける。
「ま、待ってくれ…!し、知らん。わしはなにも…っ」
立ち上がった聯がゆっくりと足を進める。
恐れ戦いたヘンリーが尻餅をつくと同時にスクリーンに血飛沫が散った。
それは鮮明な赤で、場面が切り替わっても色褪せない。
血腥い臭気が漂う室内には声1つ上がらないが、ヘンリーの身体が音を立てて崩れると、切断された首から血が噴出し、靴先を痙攣させた下半身が不気味に顫動した。
「そうだよ―――刻印の主は私だ」
リーデルのシャンパングラスに丸い血玉が落ち、黄金のクリュッグが真紅に染まる。
掴んだ首を丁寧にテーブルに載せた聯は、変わらない柔和な口調でヘンリーの頭部に語りかける。
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