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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


壁一面に広がったスクリーンは幅14.0m、高さ5.8mあり、最新のエンドレス・グラスと呼ばれるフィルム状の素材で形成されている。

ふだんは壁と一体化しているため場所をとらず、立体映像にも対応している。
液晶やプラズマよりもリアルで鮮明な映写が可能なエンドレス・グラスには、硝煙と血が舞う戦場のシーンが生々しく映し出され、独自の音響システムを導入したスピーカーからは悲鳴と銃声、爆発音が明瞭に響いていた。

まるで戦場の最中にあるような臨場感が、室内の静寂と不気味に混じり合う。

照明を落とした暗い室内に点々と置かれたアンティーク調の丸テーブルは花梨材と大理石を使用した漆塗り仕上げで、脚と天板には蝶や獅子の文様があしらわれている。
1つのテーブルに6脚ずつ置かれた椅子は真珠貝を螺鈿(らでん)細工で組み込んだ、1脚の完成までに1年を要する最高級品だ。

世界政府(ワールド・ガヴァメント)を担う数十名のパワー・エリートたちは、豪奢な椅子にゆったりと腰掛け、シャンパンを愉しんでいた。

上質なブランドスーツに身を包んだ彼らは、肝脳塗地の光景を映画のワンシーンより気軽に鑑賞している。

その映像は、ひと月ほど前に中東で起きた私設軍による不法侵略の様子だった。

現地資源の運用ルートを確保するため無抵抗な市街地に理由も無く攻め込んだ敵部隊と対峙している黒い軍服には、「血の龍(ブラッディ・ドラゴン)」と呼称されるSNIPERの徽章が縫い込まれている。

カメラは一人の男を追っていた。

返り血を浴びるのも構わず、喜色さえ滲ませながら颯爽と戦場を駆ける肉食獣の如きその男は、バトル・フィールドを完全に掌握していた。

彼の登場から一変した戦況、その気迫に背中を押された兵士たちの爆発するような士気は、座視するメンバーたちに充分すぎる興奮を与えている。

「彼は明らかに、他の能力者を凌駕している。傑出した才能の持ち主だ」
誰かがそう言った。

「素晴らしい。彼が後天的な能力者だとは…信じ難い」
「白人でないのは気に入らないが、それ以外は」
「レイン・エルとは対照的だな。だが野生の美というのも悪くない」

耳触りのいい寸評が飛び交う中、1人の男が大音声を上げた。

「なぜレイン・エルではなかったんだ。納得できん」

50代半ばほどの偉丈夫が浮ついた空気を断つように立ち上がった。
後方で宴を傍観する中核人物(チェアマン)、李聯(リー・ルエン)に疎ましげな視線を投げる。

「妨害があったんじゃないのか。何者かの思惑によって、レイン・エルは選定されなかった。最有力だったのは彼だ。紅い瞳をもち焔を操る――――レイン・エル以上の器はなかったはずだ」

聯が鷹揚と煙草を燻らせる。
ビキュナを使用したイタリアンブランドKiton(キトン)のスーツにフライのシャツ、セッテ・ピエゲ(7つ折)のタイを上品に着こなした彼は、まるで唐人の寝言でも聞いているかのようだ。

気品漂う聯の表情は温恭で、男が向ける痛憤を気に留めた様子もない。

「…選ぶのは我々ではない」

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