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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


透明なメディカルポッドで静かに呼吸を繰り返す彼の傷は完治しており、もぎ取られた腕も再生治療によって復元されている。脳に異常も見られない。

昏睡の原因は不明のまま、もう2ヶ月近く覚醒していない。

露な彼の肢体には、レインと同じものがある。


―――刻印。


驍氷の右肩にはレインと同じ赤い刻印があり、刻まれた位置もかたちも酷似している。
キマイラはレインの刻印を「魔族の所有物である証」だと言った。
驍氷は己の主を「李聯」と言った。

エレオス13血族の重鎮である聯が「人以上」である可能性は高い。
証憑はないが、レインは彼が魔族であると確信していた。

2つの証言と事象から導かれる答えは1つだ。


レインに印を刻んだのは―――。


フロア内に硬い足音が響いた。
ブラッドとレインを見つけて颯爽と歩み寄ってくる。

医療フロアの責任者である瑠璃は、元々高い身長に10センチのピンヒールをプラスし、主張過多に張り出した胸を白衣からはみ出させ、膝上のタイトスカートに白シャツという男の理想を絵にしたような格好で地下を牛耳っている。

「どういうつもりかしら、ジラ元帥?」

カルテを持った瑠璃がブラッドの肩に触れた。

「シティでウィルスに感染した場合、能力者でも5分以内に発症、その後数十秒で全身から血液が流出し死に至る…。その様子だと感染の心配はなさそうだけど、魔族と交戦したなら検査するべきよ。エル総帥に問題はなかったわ」

瑠璃からカルテを受け取ったレインが疑惑の視線を遣っても、指呼の間に腰掛けているブラッドは反応を返さない。
ベッドへついた片手に体重を乗せ、ゆっくりとブラッドに身体を向ける。

「俺が治療してる間、時間があったはずだ。…なぜ検査を受けなかった?」

嬌艶なハスキーヴォイスで、撫でるように問いかける。
気を逸していた間にブラッドがどんな傷を負い、如何な経緯で元の世界に戻ったのかをレインは把握していない。

責めるというより心配しているだろう彼の口調がひどく優しいのは、恐れているからだ。
「俺はお前に危害を加えなかったか?」と。

ソールズベリーで自我を失って以来、自己不信を強めていたレインだが、それ以前から日常生活の中でも時折、数時間程度の出来事を失念することがあった。
毎夜魘されては目を覚ます彼がどんな悪夢を見ていたのか、ブラッドには察しがついている。

物憂げな表情を見せるレインがいたたまれなくなって、白い頬に手を伸ばした。

「たいした怪我してないから断ったんだよ。不調もないし大丈夫だ」
「ブラッド…」
「俺が死にそうに見えるか?」
「……」

ブラッドの総身に目を注いだレインが小さく首を傾げだ。
破れた軍服を脱いだ彼はエポーレット付きのミリタリー・ブルゾンに白の比翼シャツ、センタープリーツの入ったトラウザーズというモードな服装をしている。

ユーズド感のあるラフなファッションを好む彼がタイトな着こなしをしているのが単純に目新しいだけなのかも知れないが、喉の奥に引っかかるような違和感が拭えない。

矯めつ眇めつ目を配っていたレインが、ぽつりと声を漏らした。

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