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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
思い当たった感情に思考が冷める―――。
2人の関係性をイヴァは理解している。
シオウがどんな思いで自分を見つめていたのか、なぜSNIPERに留まったのかという経緯を知っている。
シオウの本心も、どんな意中で今こうしているのかも知りたくなくて、強く瞼を閉じる。
なにが欲しいっていうんだ。
こいつと本気で心を通わせる必要なんか無い。
そんなことしてなんになる。
いつ刃を突き立てられてもおかしくないんだ。
今こうしている瞬間にだって――――
それなのに。
――――どうしてこいつの全てが欲しいなんて思うんだろう。
刺さるような心痛は甘い快楽の中に混じって溶け、すぐに見えなくなった。
出の悪いシャワーを浴び終えて濡れた髪を乱雑に拭っていたイヴァの背後から、シオウが腕を回してきた。
耳の後ろを舐められたイヴァが身じろぐ。
「やめろって…もぉいいだろ、3時間だぜ」
「……」
「さすがに本部戻んねぇとな。レインも帰ってきてるだろうし」
新しいタオルを取り出したイヴァが、水を滴らせているシオウの髪にかぶせた。
放っておくと濡れたまま何もしないシオウをつい拭いてしまうのは、最近できたイヴァの癖のひとつだ。
空港近傍のダウンタウンにあるモーテル「HIDEOUT」の内装は、お世辞にも清潔とは言えない。
壁も所々剥がれているし床も軋む。ベッドもそうだった。
とは言え、金さえ払えば記名の必要がなく、仕事後の血臭にも血痕にも文句を言われない。
軍服にも銃器にも無関心なこの店は、彼らにとって高級ホテルよりずっと貴重な「HIDEOUT(隠れ家)」だった。
鍵の壊れた窓の下に広がる寂れた街道には、客引き用の青いランプが点きはじめている。
街を行き交うのはハリウッド・スターを夢見てやってきた金の無い若者や、フリーの魔族狩り(ハンター)、戦地から流れてきた傭兵たちだ。
商売女の誘いに足を止める者もいれば、傭兵相手に武具の闇売買を始める男もいる。
ベッドの上でシオウの髪を拭いてやりながら漫然と外を眺めていたイヴァが、何気なく口を開いた。
「そういや、神代…午後から日本に行くって言ってたよな。里帰りか?」
「……。それはない」
後ろに手を伸ばし身体を反転させたシオウが、そのまま体重を乗せ、イヴァをベッドに押し倒した。
首を傾げたイヴァがピンクの瞳を瞬かせる。
「じゃあナンで」
「……」
「……ん」
キス。
そのまま下肢へ伸びそうだったシオウの手が、携帯の振動音で止まった。
シオウを押し退けて床に下り、脱ぎ捨てられた軍服を掴んだイヴァがポケットから携帯を取り出した。
「HEADQUARTERS」の表示を見咎めたシオウが嘆息と共に髪を乱し上げる。
「タイム・リミットがあるってのも悪くねぇだろ?」
そう嘯いてベッドに戻ったイヴァが、シオウの首筋に唇を寄せてから頬に口付けた。
軽く唇を合わせ、彼らしい不敵な笑みで脂(やに)下がる。
「タノシイのは永遠じゃねぇからイイんだ。次がまたあるってのが重要なンだよ――――
Ci vediamo presto ! (近いうちにまたな!)」
思い当たった感情に思考が冷める―――。
2人の関係性をイヴァは理解している。
シオウがどんな思いで自分を見つめていたのか、なぜSNIPERに留まったのかという経緯を知っている。
シオウの本心も、どんな意中で今こうしているのかも知りたくなくて、強く瞼を閉じる。
なにが欲しいっていうんだ。
こいつと本気で心を通わせる必要なんか無い。
そんなことしてなんになる。
いつ刃を突き立てられてもおかしくないんだ。
今こうしている瞬間にだって――――
それなのに。
――――どうしてこいつの全てが欲しいなんて思うんだろう。
刺さるような心痛は甘い快楽の中に混じって溶け、すぐに見えなくなった。
出の悪いシャワーを浴び終えて濡れた髪を乱雑に拭っていたイヴァの背後から、シオウが腕を回してきた。
耳の後ろを舐められたイヴァが身じろぐ。
「やめろって…もぉいいだろ、3時間だぜ」
「……」
「さすがに本部戻んねぇとな。レインも帰ってきてるだろうし」
新しいタオルを取り出したイヴァが、水を滴らせているシオウの髪にかぶせた。
放っておくと濡れたまま何もしないシオウをつい拭いてしまうのは、最近できたイヴァの癖のひとつだ。
空港近傍のダウンタウンにあるモーテル「HIDEOUT」の内装は、お世辞にも清潔とは言えない。
壁も所々剥がれているし床も軋む。ベッドもそうだった。
とは言え、金さえ払えば記名の必要がなく、仕事後の血臭にも血痕にも文句を言われない。
軍服にも銃器にも無関心なこの店は、彼らにとって高級ホテルよりずっと貴重な「HIDEOUT(隠れ家)」だった。
鍵の壊れた窓の下に広がる寂れた街道には、客引き用の青いランプが点きはじめている。
街を行き交うのはハリウッド・スターを夢見てやってきた金の無い若者や、フリーの魔族狩り(ハンター)、戦地から流れてきた傭兵たちだ。
商売女の誘いに足を止める者もいれば、傭兵相手に武具の闇売買を始める男もいる。
ベッドの上でシオウの髪を拭いてやりながら漫然と外を眺めていたイヴァが、何気なく口を開いた。
「そういや、神代…午後から日本に行くって言ってたよな。里帰りか?」
「……。それはない」
後ろに手を伸ばし身体を反転させたシオウが、そのまま体重を乗せ、イヴァをベッドに押し倒した。
首を傾げたイヴァがピンクの瞳を瞬かせる。
「じゃあナンで」
「……」
「……ん」
キス。
そのまま下肢へ伸びそうだったシオウの手が、携帯の振動音で止まった。
シオウを押し退けて床に下り、脱ぎ捨てられた軍服を掴んだイヴァがポケットから携帯を取り出した。
「HEADQUARTERS」の表示を見咎めたシオウが嘆息と共に髪を乱し上げる。
「タイム・リミットがあるってのも悪くねぇだろ?」
そう嘯いてベッドに戻ったイヴァが、シオウの首筋に唇を寄せてから頬に口付けた。
軽く唇を合わせ、彼らしい不敵な笑みで脂(やに)下がる。
「タノシイのは永遠じゃねぇからイイんだ。次がまたあるってのが重要なンだよ――――
Ci vediamo presto ! (近いうちにまたな!)」
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