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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


SNIPERの徽章が縫い付けられたビキューナのロングコートにDiorのサングラスという威圧的な風貌で降り立ったイヴァは、大きく伸びをしたついでに欠伸を漏らし、なんとも緊張感の無い所作で空を仰いでいた。

乾いた風が気持ちよくコートの裾を持ち上げていく。
雨が少なく晴天が多いことでも知られるハリウッドの空は今日も青い。爽快に降り注ぐ日差しが、炎のような彼の赤毛をより鮮明に輝かせている。

予定よりすこし遅れた到着とはいえ、今日の任務は終えている。あとはカリフォルニア支部に寄って所用を済ませてから本部に帰還するだけなのだが、今日はもう1つ、仕事とは関係のない用事が追加されていた。

周囲を一望してから携帯を握る。
誰の目もないことを確認したイヴァは上機嫌を忌憚なく表出していた。
ここで会う予定の相手が傍にいたなら羞恥もあるだろうが、人気のない滑走路には機影すらない。

会うのが嬉しいなんて死んでも言えない。否、言いたくない。
男のプライドというやつだった。
男が男に会って嬉しいなんて滑稽だと解っているのに、近頃はそんな理性を保つことにさえ限界を感じている。

『14時。ヴァン・ナイズ』

可愛げのないシオウの低音がイヴァの脳内で反芻したところで、背後からもっと厚みのある肉声が飛び込んできた。

「支部なら俺が寄ってきた」

! !  

硬直した手から滑り落ちそうになった携帯を慌てて掴み直し、振り向きざま、照れで勢いづいてしまった攻撃的な口調でシオウに食ってかかる。

「Cazzo!!Che palle!(クッソ、てめぇ!)…っ、やめろ!気配絶って近づくのっ…。
――――つか、どこから!?」

向き合った2人の髪を風が乱した。
周章狼狽なイヴァとは対照的に鉄壁のポーカーフェイスを崩さないシオウは、イヴァの逆立った髪を唐突に掴むと、そのままゆっくりと頬に指先を滑らせた。

くすぐったい感覚に耐えかねたイヴァが小さく身じろぐと、身を屈めたシオウが触れる程度に唇を合わせてくる。

「……。手間取ったか?」
唇が触れる距離でそう言って、ピアスだらけのイヴァの耳を弄る。

「Beh …Si.」
ぶっきらぼうに応じるイヴァの頬は微かに染まっている。

「思ってたより相手がしぶとくてよ。…遅くなった。…悪かったな」

継続的なローターの可動音が徐々に大きくなり、巻き起こった強い風がイヴァの背中を押した。
近間で着陸態勢に入ったヘリの機体にはCBCのロゴが貼られている。
キャンベル・ブロードキャスティング・カンパニーのニュース番組制作子会社であるCBCは、ハロー・アメリカやトピックラインといった人気番組をもつ全米屈指の報道局だ。

ヘリの登場で静寂がかき消されたことはイヴァにとって救いになったものの、「待ち合わせ」という慣れない状況には、やはり未だ廉恥心がある。
シオウを前にすると意固地になってしまい、浮き立つ気持ちを表現することができない。

シオウの軍服をぎこちなく握ったイヴァが、面映ゆそうに瞳を逸らした。

「支部に連絡しようとしてたわけじゃねぇよ」

「……」

「ちょっと遅れたから…。おまえ、もうここにいねぇと…、っ」

突然強く抱き寄せられて、シオウの肩に鼻をぶつける。

「痛(い)っ…で、ッ…、っ…ちょ、おま…ぐ、苦し…」

下肢に伸びてきたシオウの手を拒んだイヴァが、右足でシオウを押し返した。

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