page03

SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


距離をとっていても、少年はまだ一哉の見せる所作の悉くを注視している。
彼の徹底した姿勢に内心で苦笑しつつ、一哉が肩の傷に触れた。

出血は殆ど無い。
新人類の持つ驚異的な回復力もあるが、少年が貫いた場所が致命傷となり得る血管を避けていたことが大きい。

だが、腕の神経からほんの数ミリの場所でもあった。
一哉の返答次第で、彼は迷い無くそれを切断していただろう。

破れたジャケットの裾を掴んだ一哉が溜息をついた。
落日を背に立つ少年からは、無関係な相手に傷を負わせたという聊かの反省も見られない。

「あ〜あ。…制服、これ一枚しかないんだぜ。明日どうしろっつーんだよ。せっかくのオフだってのに…」 

聞こえよがしに悪態をつく一哉を眇め見た少年が、脱いだジャケットを一哉に放った。
「もう興味はない」とでも言うように背中を向けて出口に向かう。

「それ使えば。そのへんにいた生徒のだけど、俺もう要らないから」

「…待てよ」  

立ち止まった少年のシャツが強風に靡く。
一哉はただ真っ直ぐ、企図無く問いかけていた。

「映像ってなんだ。なにが映ってた」

顔を向けることもせず、少年が返す。

「関係ないんだろ?」
「俺の名前で送られてきたんだろ。だったら関係なくない」
風で乱れた髪を鬱陶しそうにかき上げた一哉が、声のボリュームを上げる。

「こっちはおまえの名前も知らないんだ。そんな勝手な話…」


「神代直樹(かみしろ・なおき)」


風が止み、直樹の両手に握られていた二刀が手品のように消えた。
乱れた柔らかい髪をそのままにして背中越しに一哉を一瞥する。

「SNIPER幹部・階級は大将(ジェネラル)。今でなくても何時(いず)れ、あんたとはぶつかる」

「……」

「心当たりは?俺の名前を知ってて、あんたの名前を使うオトモダチに、さ」

「……。そんなにはいねぇな」

「だろうね」

歩き出した直樹が一哉を振り返ることはなかった。










カリフォルニア州ロサンゼルス郊外にあるヴァン・ナイズ空港は、西海岸最大のロサンゼルス空港とは対照的に質素で、ごく小規模な様相をしている。
報道用のヘリやプライベートジェットが離着陸する為の2本の滑走路しかなく、空港周辺も寂れた印象がある。

とはいえ立地的にはハリウッドに隣接しており、高級住宅街で知られるビバリーヒルズも近い。
ハリウッド・スターの姿も多く見られるヴァン・ナイズにSNIPERのヘリが着陸したのは、午後2時を過ぎた頃だった。

BACK     NEXT

Copyright LadyBacker All Rights Reserved./Designed by Rosenmonat