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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


静かに瞼を落としたまま眠っているレインの傷は綺麗に塞がっていた。空間が戻ったことによって、平時の驚異的な回復力が戻ったのだろう。
赤黒い血痕が痛々しく白首を染めてはいるが、とりあえず外傷的な心配はなさそうだ。

「ったく…。おまえといると寿命が縮まりっぱなしだ…」  

地獄のような光景という意味ではどちらの世界も同様だろうが、あの異世界から帰還できたことには諸手を上げられる。
抱き寄せた華奢な身体は温かい。
愛しい寝息に耳を欹てていたブラッドの背後から、慌しい足音が近づいてきた。

「総帥…!」  

地下鉄バンク駅の階段を駆け上がってきた特殊部隊のメンバーたちが、ブラッドとレインに交互に視線を滑らせ、マスクごしに顔を見合わせる。
彼らの困惑に微苦笑したブラッドが口を開いた。

「モニュメント周辺はどうだった?」  

安穏な口調で首を傾いでみせるブラッドの腕中に抱かれたレインに気を取られながらも、戦闘員が答える。

「モニュメント周辺は…何事もなかったように晴天で…」
「閉鎖前の死傷者は」
「ありません」
「……」  

バンク駅からモニュメント駅までは地下で繋がっていて、その間およそ800メートル前後、歩いて10分程になる。  
多少離れているとはいえ、天候が急激に変わる距離ではない。

周到に大規模な仕掛けを準備し最新の技術を駆使したと仮定しても、そんなにピンポイントに気候変動を起こせるとは考え難い。  

ゾッとしねぇな。    

ブラッドとレインが対峙した4体の魔物は、まるで二人を待っていたかのようだった。  
摂理すら異なる生きた空も無い空間をヒトが作り出し、維持するのは不可能だ。  

あの地が「魔界」である可能性は濃厚で、レインとブラッドが人界から魔界へ送られるという信じがたい事象が実際に起きてしまった以上、逆も可能ということになる。  

体中の血液を吸い出された大量の死体、猛毒同然の瘴気を多分に含んだ濃霧、不安定な時空。不吉な条件は揃っている。  
加えて、レインがシティに到着する数分前、ブラッドは金融街の中央に不可思議な円陣の痕を発見していた。  

魔族の召喚に使用されたものかと推考したものの、過去に似たような円陣を目撃した場合も周囲に毒を撒き散らすといった怪異現象はなかったし、これほど大量の人柱を必要とした悪例も無かった。  

どこかに魔族が潜伏している可能性は鑑みたが、これが魔族召喚の為に生起した惨状だとは思い当たらなかった。  

Damn it!――――連中、一体何を喚び起こしやがったんだ。

「他機関に警報を出してくれ。能力者の侵入も原因の特定が済むまでは禁止。ナイプの監視下に置いて完全封鎖、周囲に第6部隊を配置、隔絶結界でシティ全域を遮断しろ」  

ブラッドの一声で隊員が散った。
が、数人は後ろ髪を引かれる様子で立ち止まり、意を決したように口を揃える。

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