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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


「元帥…。その…、総帥は」
「エル総帥はどうされたんですか」  

優秀な能力者を各部隊から選抜して急編成されたこのチームには、幹部たち同様、レインに生きる場所を与えられ、仲間と希望を得た経緯を持つ者も少なくない。

任務中、上官に対する感情的な発言は違反だと理解してはいても、心痛に耐えかねたらしい。
散ったはずの数人もその場で立ち止まっている。
注視を浴びたブラッドがすこし困ったように破顔した。

「俺がちょっとヘマして、レインに無理させただけなんだ。心配させて悪い」  
髪を乱し上げたブラッドの口調は明るい。
「とは言え、こういう姿は本人にとっちゃ不本意だろうからな…他言無用で頼む」
「元帥、そんな。我々は命じられたことを守ります」
「命令なんかしねぇよ」  

未だ血の滴る自身の首筋を撫でながら、ブラッドがレインを担ぎ直した。

「約束。――な?頼んだぜ」
「s…sir!」
「早めに状況報告したいんだ。先に戻ってくれ」
「Yes sir!」  

戦闘員たちが一斉に走り去っていく。  
全員の姿が白い霧の中へ溶けて見えなくなるのを待ってから、崩れるようにブラッドが膝をついた。
肩に担ぎ上げたレインが地面に触れない程度に屈んで歯を食いしばる。

「っ、…」  

首筋を強く押さえた指の間から赤黒い血が噴出した。深く抉られるような疼痛が頭に響いて冷たい汗が頬を伝う。  

咬傷だけが癒えない。

もっと深く穿たれたはずの腕の刺傷はこちらの世界に戻ってから急速に回復し、痕は残しているものの出血はない。
一部分だけ治癒が遅れるなんてありえない…何かがおかしい。
身体に、いや…もっと深い場所に違和感がある。

「やばいかも、な」  

急激な眠気と眩暈が意識を侵す。
発揚を込めた息を切るように吐いたブラッドが立ち上がった。
儘ならない身体を押して緩慢に歩き始める。  

時折耳元にかかるレインの寝息を感じ入りながら、ブラッドは静かに口角を上げていた。

「ま…とりあえずは――――おまえが無事で良かった」





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