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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


揺れるように不気味に蠢く肢体には何も纏っておらず、所々揺らいで崩れたりするものの、一応は人のかたちを保持している。  

2体の女とほぼ同時に現れたのは、小さな少年と鎖で繋がれた男だった。  

黒い鞣革を全身に巻きつけている男は頑健な巨躯をしているが、犬のように四つ這いになっていた。
口からは息をするたびに涎が垂れていて、瞳も革で塞がれている。

その巨体を鎖で繋ぎ従えているのは、まだほんの小学生程度の男の子だ。
おかっぱに切り揃えた黒髪、口が大きく肌は浅黒い。    

紅い瞳。  
その4体はどれも、濡れたような紅い瞳をしている。

『おまえが器』  

声とも思念ともつかない音が2人の頭に響いた。  
4体のどれが喋ったのかは解らない。4体とも慇懃にレインとブラッドを注視しているだけで口は動いていない。

雑音交じりのノイズは、2人の脳内に水のように流れ込んでくる。

『器だ。うつわ。身体』
『きれいな身体。美味しそうな魂…。いいなぁ』
『うつわだウツワうつわ』  

耳を塞ぎたくなるほどの姦しさで何かが嗤った。  
柳眉を逆立てて不快を顕にしたレインが、両手に焔を召喚した。
爽快な発火音と共に彩られた紅が滑らかな白肌の上で躍る。

「ブラッド。どっちがいい」  
鷹揚と笑んだブラッドが肩を竦めてみせた。
「女に手を上げるのは避けたいな」

「おまえはガキと飼い狗、俺は女2体…どっちが先に片付けるか」
「ノった。なにを賭ける?」
「明日の中央会議の出席」
「それはちょっと…」
「じゃあ頑張るんだな」  

通例の他愛ない掛け合いが終わると同時に、ブラッドが頷くのを待たないまま、レインの紅焔が闇を切り裂いた。  

ぬかるんだ赤土が足を引っ張る。思っていた以上に重い。  
減速分を計算しながら女との距離をつめる。
この地での戦闘感覚をつかむまで時間をかけてもいられない。  

ここは瘴気が濃すぎる。  
いくら俺でも…ブラッドでも、長くはもたない。  
力が半減した状態でもとりあえず動けるのは、せいぜい5分…もっと少ないかもしれない。
完全に動けなくなったらアウトだ。  

そうなる前に――――終わらせる。

『うつわだ、器。からだ、身体』  
女の奇声が響いた。
音を残したまま2つの影が消える。  

瞬時に背後へ右手を回したレインが焔を放った。
確かな衝撃と共に絹を裂くような悲鳴が鳴る。

「あつい…!」  
肉声だった。

背後を振り返ったレインの腕を、赤く爛れた女の手が猛烈な怪力で掴む。

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