page06

SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


「…どうなってんだ?」  

息苦しいほど身体が重い。  
厭な予感を喚起しつつも辺りを見渡すブラッドの隣で、軽く眉間を押さえたレインが低く呟いた。

「異空間…時空転換だと…?」  

体感したことのない異常な暑さに汗の玉が浮かび、忌々しそうに濡れた前髪をかき上げる。

「こんなに完璧に時空を切り替えるなんて、強力な磁波装置が準備されていたとしても有り得ない。現在の存在する4次元多様体から俺たちだけを別の連続体に飛ばした…?電磁波に呪術的要素を加えれば可能だろうが…強引だな。不確定(乱暴)すぎる」

「実験兼ねて、ってトコか。中央は随分焦ってるみたいだな…。つか、俺たちで実験すんのホントやめてほしいよな」  

取り出した煙草が潰れているのを目にして、レインが小さく肩を落とした。
スーツにMarlboroを戻しつつ会話に応じる。

「加減を間違えれば電子レンジか?中に猫を、ってヤツだな」
「…。例えが悪すぎるぞ…」  
ブラッドが眉根を寄せて窘めると、小首を傾いだレインが悪戯っぽく瞳を瞬かせた。

「中央は人界と魔界を反転させる方法を探していた。人間界に召喚された魔族は、人界の摂理に対応できずその力を半減させられる。逆も然りだな」  
能力者でなければ即死であろう瘴気の霧は、2人の身体をゆっくりと蝕んでいる。
「能力者も新人類も関係なく、魔界(こっち)じゃ力を削がれるってことか」  

右手に灯った焔を確認しながらレインが頷いた。

「ここが魔界なら、の話だが…実際、俺たちはこの世界に歓迎されていないらしい。フォースが大気に吸われている。長時間滞在できる場所ではなさそうだ」  

泰然自若としたレインの口調はいつもと変わらない。
しかし、彼にとってこの環境は非常に望ましくない…レインにとっては特に。通常の状態でさえ大量にフォースを消費する彼にとって、ここでの時間浪費は生死に関わる。  

能力者に不可欠なフォースの自己回復能力を後天的に破損してしまったレインは、自身でフォースの回復を図ることができないのだ。  

そんなことは失念したかのような強気な瞳がブラッドを眇め見た。

「シティの大量死が時空変換と直接関係しているとは思えない。あれは別の要因だろうが、違う時間軸に存在していた要因を人界へ運ぶ…は可能だな?」

「残念ながら、俺たちが証明してる」



「お出迎えだ、ブラッド」  



2人の前方。  
さっきまでの声が、実体となって姿を現し始める。    

人のかたちをした4体。
それは一見、ほんとうにただの人に見える。  

それらが魔に属するものであるというのは、人でないものの放つ瘴気、威圧感…対する人間側が生物として感じる危機感、焦燥感で解る。  
人にとって堅忍できない壮絶な恐怖を呼び起こすもの。
魔物の放つ死の匂いは肌を食い破り、じわじわと精神を蝕んでくる。  

体温を感じさせない能面のような顔をした黒い髪の女がふたつ、熱気のうねりの中から蜃気楼のように現れた。
ほっそりとした長い手足は白く、透けるように輝いている。

ふたつの顔は酷似していて見分けがつかない。

BACK     NEXT

Copyright LadyBacker All Rights Reserved./Designed by Rosenmonat