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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
鼻で感じるものではなく本能が感じる拒絶は生物としての反応で、言葉で説明できるものではない。
これは毒に近い。濃すぎれば死に至るほどの「匂い」は人間の存在を否定し、破壊する。
「気になっているのは「これ」か」
「あぁ」
軽く首を回したブラッドがレインの隣に並んで、タイミングのよさに内心快哉しつつも至極謹厳な視線を投げる。
「帰るのはちょっと早い気がするぜ?」
声はどんどん距離を詰めてきている。
笑い声にも聞こえるそれを正面に見据えたまま、レインが短く息を吐いた。
「本当に不調はないんだな」
悠揚迫らずなブラッドの表情はいたって真率である。
「大丈夫だ」
「魔族相手だ。少しでも不調があるなら…」
「ないよ」
「……」
レインの頭に乗ってくる大きな手。
長い指が梳くように黒髪を撫でた。
「俺の身体は瞬間的に抗体を造れる。知ってるだろ?」
「……」
「能力者」と大雑把に括っても、回復力や抵抗力にはかなり個人差がある。
特に秀逸な防御力を備えているブラッドを感染、まして死に至らしめるまでの生物兵器を他機関がつくれるとは、レインにも思えない。
それなのに溜息がでてしまうのは…。
自身に言い聞かせるかのように、レインが軽く首を振った。
「わかった」
「解ったって顔じゃねぇけど」
「……」
濃い瘴気。
噎せ返るようなそれが、レインとブラッドを囲うように広がる。
眩暈と共に耳の奥が鳴った。
身体ごと急速なスピードで後ろに下がったような感覚。
なにかが弾けるように大きな音がして、視界が闇に落ちた。
空気が、気圧が変わる。
とたんに身体が重くなってレインがよろめいた。
隣のブラッドも同じように体勢を崩す。
大気が重くのしかかってくる。
急激な環境変化が2人の周囲で起きていた。
地球規模の時空を超えた転化が、僅か一刻で発生するなんて有り得ない。
事態を飲み込めないまま隠忍する他ない2人に出来ることは、強烈な大気の威力に耐えることだけだ。
耳の奥で唸るような音は次第に大きくなって、対応できなくなった5感が締めつけられる。
極めて短い時間、ほんの数秒程度のうちに起きた出来事だったが、身体に感じた違和感と苦痛が俯仰の間をいやに長く感じさせた。
ようやく引き込まれるような感覚がおさまり薄呆けた視覚で周囲を望み見ると、闇から這い出した悪夢さながらの、光射す地上とはおよそかけ離れた不気味な異観が広がっていた。
枝のない黒々とした木が赤土から叢生している。
上空にはブラックホールのような渦状の昏い虚無が広がっていて、息をするだけで喉が灼けてしまうほど気温が高い。
豊かさの微塵も無い荒涼とした赤い岩肌がどこまでも続き、瘴気に満ちた蒸気が時折地面から爆発音と共に噴出している。
鼻で感じるものではなく本能が感じる拒絶は生物としての反応で、言葉で説明できるものではない。
これは毒に近い。濃すぎれば死に至るほどの「匂い」は人間の存在を否定し、破壊する。
「気になっているのは「これ」か」
「あぁ」
軽く首を回したブラッドがレインの隣に並んで、タイミングのよさに内心快哉しつつも至極謹厳な視線を投げる。
「帰るのはちょっと早い気がするぜ?」
声はどんどん距離を詰めてきている。
笑い声にも聞こえるそれを正面に見据えたまま、レインが短く息を吐いた。
「本当に不調はないんだな」
悠揚迫らずなブラッドの表情はいたって真率である。
「大丈夫だ」
「魔族相手だ。少しでも不調があるなら…」
「ないよ」
「……」
レインの頭に乗ってくる大きな手。
長い指が梳くように黒髪を撫でた。
「俺の身体は瞬間的に抗体を造れる。知ってるだろ?」
「……」
「能力者」と大雑把に括っても、回復力や抵抗力にはかなり個人差がある。
特に秀逸な防御力を備えているブラッドを感染、まして死に至らしめるまでの生物兵器を他機関がつくれるとは、レインにも思えない。
それなのに溜息がでてしまうのは…。
自身に言い聞かせるかのように、レインが軽く首を振った。
「わかった」
「解ったって顔じゃねぇけど」
「……」
濃い瘴気。
噎せ返るようなそれが、レインとブラッドを囲うように広がる。
眩暈と共に耳の奥が鳴った。
身体ごと急速なスピードで後ろに下がったような感覚。
なにかが弾けるように大きな音がして、視界が闇に落ちた。
空気が、気圧が変わる。
とたんに身体が重くなってレインがよろめいた。
隣のブラッドも同じように体勢を崩す。
大気が重くのしかかってくる。
急激な環境変化が2人の周囲で起きていた。
地球規模の時空を超えた転化が、僅か一刻で発生するなんて有り得ない。
事態を飲み込めないまま隠忍する他ない2人に出来ることは、強烈な大気の威力に耐えることだけだ。
耳の奥で唸るような音は次第に大きくなって、対応できなくなった5感が締めつけられる。
極めて短い時間、ほんの数秒程度のうちに起きた出来事だったが、身体に感じた違和感と苦痛が俯仰の間をいやに長く感じさせた。
ようやく引き込まれるような感覚がおさまり薄呆けた視覚で周囲を望み見ると、闇から這い出した悪夢さながらの、光射す地上とはおよそかけ離れた不気味な異観が広がっていた。
枝のない黒々とした木が赤土から叢生している。
上空にはブラックホールのような渦状の昏い虚無が広がっていて、息をするだけで喉が灼けてしまうほど気温が高い。
豊かさの微塵も無い荒涼とした赤い岩肌がどこまでも続き、瘴気に満ちた蒸気が時折地面から爆発音と共に噴出している。
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