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SCENE SECTION

01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 / 06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人


「一哉…っ!」

一哉の元に走り寄ろうとした沙羅を、レインの焔が襲った。
驚愕と恐怖と――――身動きがとれずに、両腕でただ身体を庇っただけの沙羅が、焔に押し返された。

焦げた匂い。
両腕の感覚を感じられないまま、地面に倒れる。

「っ…沙羅!!」

「――――焦るな…藤間」

沙羅に気をとられた一哉の襟首を掴んで、地面に叩きつける。
背中からの衝撃が内臓にまで及んで息が止まる。開いた唇から血が吐き出された。

っ、くそ…。
強、い…なんてもんじゃねぇ。

唇を噛む。
冷静に頭を働かせようと、意識を落ち着かせる。

――――勝機があるとしたら。
あの、データ――――

レインの「欠陥」。
――――「時間(タイム・リミット)」だ。

「殺してはいない。少し黙っててもらうだけだ」
「…ふ」

苦痛に眉根を寄せながらも、一哉が口角を上げる。

「焦ってんのはてめぇの方だろ、レイン」
「……」
「限界が近いか?なぁ」
「…クソ餓鬼」

一打。
無造作に放ったレインの一打が、一哉の足を折った。

「っ…!」
「吐け」

上に跨ったような格好で、レインが一哉の胸倉をつかむ。

「おまえの知っていること全てだ。…なにを企んでる」
「……」
「状況が解らないか…」

レインが笑んだ。
片手に焔が躍る――――

「レイン!ダメ…!」

叫ぶような沙羅の声。
痛みに顔を歪めたまま、沙羅がなんとか立ち上がった。
両腕が赤く爛れている。

「……」

レインが小さく眉根を寄せた。
戸惑った。自分が沙羅にした行為への自責なのか――――隙を見せた。
その一瞬を、一哉は見逃さなかった。
素早く身を捩じらせて、レインの胸倉を掴む。

「……!」
「甘いぜ、レイン」

そのまま形勢を逆転させようとしたものの、すぐに体勢を立て直したレインに、また押し返される。

っ…くそ。
なんつー、バカぢから…っ。
 
フォースで補強されたレインの力は、人間という肉体では、どんなにトレーニングを積んでも敵うものじゃない。

――――そう。
フォースさえ満たされていれば…無敵なんだ、こいつは。

能力者はみんな、フォースをもってる。
そしてそれを自己回復する、特殊な遺伝子を。
そうでなきゃ、フォースを使い果たしてしまうからだ。
放つぶんだけ自己回復できる。能力者なら当然のセオリーで、それが欠けてるなんてことはあり得ない。
フォースがなくなったら能力者は生きられない。能力者の「欠陥」を補い、人のかたちを保つ大切な要素。
水や空気と同じで、生きるために不可欠なもの。

――――だから盲点だった。
たぶん聯だって…知らないはずだ。

こいつには欠陥がある。

ブラッド・ジラは優秀な能力者だ。フォースのキャパシティも半端じゃない…だから誰にも気づかれなかった。

あいつが。
ブラッドがこいつに――――「与えてた」ってことに。

「手間をかけさせるな」
「息が上がってるぜ…レイン」

一見優位な体勢にいるレインだが、彼らしくない戦い方をしているのが、レインと幾度も交戦してきた一哉には解っている。

焔を極力使いたくないんだろう。
――――出力するだけのフォースが残っていないから。

「ヤりたくてたまんないんだろ?能力者に「挿れて」もらわなくちゃ…補給できねぇんだもんな」
「!……っ」
「犯してやろうか?俺のフォースを――――喰いたいだろ」
「貴様…」
「知ってんだよ、全部な。安心しろよ…」
一哉が笑んだ。
「聯には言ってねぇ。知ってんのは…俺だけだ」
「………」

表情こそ変わらないものの、レインがひどく動揺しているのが伝わる。
それと――――
 限界(タイム・リミット)が近いことも。

フォースの自己回復。
レイン・エルは、能力者としてもっとも重要であるうちの、一部の塩基配列を破損してる。

後天的な破損。
フォースは能力者にとって欠かせない生命源。
それを失うと、自我なんか手放してしまうくらいに、狂ったように――――フォースを渇望する。
レインは戦場でも日常でも、大量にフォースを使う。消費量もキャパシティも半端じゃない。
その自己回復ができないにも関わらず、その欠陥を誰にも気づかれず、普通に振舞っていられるのは…それを「補ってる」相手がいるからだ。

「ブラッドも大変だな。あんたに毎晩、エサやりに帰ってんだ」
「…黙れ」
「アイだとかなんだとか、てめぇは勝手に勘違いしてんだろ。――――あいつ軍人に向いてねぇんだよ。優しすぎるからな。あんたはただ、同情されてるだけだぜ。あいつに…飼われてるだけだ」
「――――違う」
「拾っちまった以上、しかたねぇもんな。あいつはそういう男だ。ブラッドが責任感の強い飼い主で良かったな」
「っ…やめろ」
「アイなんて与えられると思ってんのか。てめぇに」

一哉の声。
それが、胸に食い込むようで――――息が荒くなる。

違う。

本当は危惧していて、こわくてたまらなくて…

ずっと否定し続けてきた。

ブラッドがただ、自分に同情しているだけだったら。

あいつを毎晩、ただ、自分のためだけに縛り付けていることが。
――――行為のすべてが愛なんかではないのかもしれないという現実から、ずっと目を背けてきた。


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