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SCENE SECTION
01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 /
06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人
あなた、あたしの骨が好きなんでしょう。
あたしの身体を焼いたら、透きとおった桜の花びらみたいな骨が取れると思ってるんでしょう。
わかるわよ。
いつだって、骨をしゃぶるみたいな抱き方だもの。
――――「ツィゴイネルワイゼン」
07.欠陥
燃え立つ黒い焔が紅焔に包まれて炎上するさまは、上空からでも息を呑む光景だった。
紅い焔。
それがまるで、コントロールを失ったように躍っている。
「これって…」
「…レインだな」
激しい雨にも全く衰えを見せないレインの焔が、地上に降り立った一哉と沙羅の肌を照らして、大きく揺らぐ。
「なにがあったんだか知らねぇけど…これじゃ全員、生きてねぇだろうな」
呆れたような溜息。
一哉が髪を乱すようにかき上げた。「…無駄足かよ」
「レインは…?」
沙羅が一哉を見つめた。「レインは、大丈夫なの」
「大丈夫もなにも、あいつの能力だぜ。まぁ、この感じじゃ…キレたっぽいけどな」
「キレた?」
「タガが外れたんだよ。ナイプの幹部が…護衛(ガード)がついてなかったのかもな」
「どういうこと?」
軍事の世界に参入してまだ日の浅い沙羅には、この業界の人間ならモグリでも知っているような常識が通じない。
一哉が苦笑した。
――――知らなくていいことばっかだからな…。沙羅には。
「レインの力はもうほとんど、「最悪の大量破壊兵器」に近い。暴走されたら世界の終わり。だから抑止力が…幹部が必ずくっついてんだよ。あいつを止める為に」
「護衛の人たちは、レインを護るためについてるんじゃないの?」
「タテマエ上はな。まぁ、日常の場面ならたしかに、護るためにくっついてると思うぜ。戦う場でなくても、あいつを狙ってる人間は多いからな。精神的に追い詰めようとするヤツとか。そーいう手合いには、護衛が壁になんだろ」
「……」
紅い炎。
じっとそれを見つめていた沙羅が一歩、足を踏み出した。
「沙羅?」
焔に向かって歩き出した彼女の腕を、一哉が握る。
焦げた空気。
激しい雨の中でも熱を感じる。
揺らぐ焔の勢いは衰えない。
「ここはもうダメだ、全員死んでる。詮索する必要なんか…」
「全員じゃないよ」
沙羅が一哉に瞳を向けた。
「レインがいる――――助けてあげなくちゃ」
「なに言ってんだ。だからあれは、レインの…」
「泣いてる」
沙羅がぽつりとそう言ってから、自分でも不思議そうに瞳を瞬かせる。「そんな気がするの…」
「沙羅?」
「見えるんだよ、一哉…なんだろうあれ。一哉は見える?」
「え?」
「黒い、影みたいなの。それがレインを動けなくしてる」
「……」
たぶん、今――――顔に出てしまっただろう驚きを、慌てて引っ込める。
黒い影。
レインを捕らえている闇神。闇に属するものの気配を、沙羅は感じ取っている。
「気のせいだろ。あいつは大丈夫だよ…幹部が来るだろ」
いずれ。
いずれ沙羅が――――真実を知る日は、もしかしたら近いのかもしれない。
そんな危惧が胸を締めたが、今はなによりも、ここから離れたい。
そのいずれが、今でないように。
今であってほしくない。
「できないよ一哉、放っておけない」
「沙…」
沙羅をなんとか宥めようと口を開いた一哉が、焔に瞳を向けた。
気配。
――――よく知ってる気配が、そうさせた。
紅い、龍が。
彼を覆うように、護るように――――身体を絡ませている。
幻でなくそう、視覚で認識できるほどに精細な造形。
あれが。
――――レイン・エルの聖神。
「破壊」のフレイラ。
乱れた黒髪。肌蹴たシャツ。
惚けたような紅い瞳が一哉を――――真っ直ぐに捕らえた。
焔をまとった彼の、残虐な妖艶さに。
人でないような匂い絶つ色香に…一哉は言葉を失う。
――――なんだ。
またトランスしてんのか?
「藤間…」
掠れたハスキーヴォイス。
レインがゆっくりと言葉をつなぐ。
「良かった。――――おまえなら知ってるな」
ソールズベリーのときのレインとは違う。
今の彼には意思がある…だが。
「なにテンパッてんだよ。ついに頭キレちまったのか、あんた」
「時間がない」
レインが片手を上げた。
背後で燃え盛っていた焔が、手品みたいに消えてなくなる。
「っ………」
無意識に一哉が身構えた。
あのコントロール。
レインは能力者としては超一流だ。……認めざるを得ない。
あんなに大量のフォースを使いこなし、かつ、身体に馴染ませている。
あいつが人間だなんて。
焔神フレイラの力をほとんど完璧に、身体に吸収してやがる。
「吐いてもらう、全て――――この場で…今」
「?なんだ、なに言って…」
「一哉!!」
沙羅が叫んだのと一哉の身体に衝撃が走ったのは、ほとんど同時だった。
骨が軋む音。
歯を食いしばった一哉が、視線を前に向けるよりも早く。
レインの右足が、鳩尾に深く食い込んでいた。
「っ…が……ッ」
あなた、あたしの骨が好きなんでしょう。
あたしの身体を焼いたら、透きとおった桜の花びらみたいな骨が取れると思ってるんでしょう。
わかるわよ。
いつだって、骨をしゃぶるみたいな抱き方だもの。
――――「ツィゴイネルワイゼン」
07.欠陥
燃え立つ黒い焔が紅焔に包まれて炎上するさまは、上空からでも息を呑む光景だった。
紅い焔。
それがまるで、コントロールを失ったように躍っている。
「これって…」
「…レインだな」
激しい雨にも全く衰えを見せないレインの焔が、地上に降り立った一哉と沙羅の肌を照らして、大きく揺らぐ。
「なにがあったんだか知らねぇけど…これじゃ全員、生きてねぇだろうな」
呆れたような溜息。
一哉が髪を乱すようにかき上げた。「…無駄足かよ」
「レインは…?」
沙羅が一哉を見つめた。「レインは、大丈夫なの」
「大丈夫もなにも、あいつの能力だぜ。まぁ、この感じじゃ…キレたっぽいけどな」
「キレた?」
「タガが外れたんだよ。ナイプの幹部が…護衛(ガード)がついてなかったのかもな」
「どういうこと?」
軍事の世界に参入してまだ日の浅い沙羅には、この業界の人間ならモグリでも知っているような常識が通じない。
一哉が苦笑した。
――――知らなくていいことばっかだからな…。沙羅には。
「レインの力はもうほとんど、「最悪の大量破壊兵器」に近い。暴走されたら世界の終わり。だから抑止力が…幹部が必ずくっついてんだよ。あいつを止める為に」
「護衛の人たちは、レインを護るためについてるんじゃないの?」
「タテマエ上はな。まぁ、日常の場面ならたしかに、護るためにくっついてると思うぜ。戦う場でなくても、あいつを狙ってる人間は多いからな。精神的に追い詰めようとするヤツとか。そーいう手合いには、護衛が壁になんだろ」
「……」
紅い炎。
じっとそれを見つめていた沙羅が一歩、足を踏み出した。
「沙羅?」
焔に向かって歩き出した彼女の腕を、一哉が握る。
焦げた空気。
激しい雨の中でも熱を感じる。
揺らぐ焔の勢いは衰えない。
「ここはもうダメだ、全員死んでる。詮索する必要なんか…」
「全員じゃないよ」
沙羅が一哉に瞳を向けた。
「レインがいる――――助けてあげなくちゃ」
「なに言ってんだ。だからあれは、レインの…」
「泣いてる」
沙羅がぽつりとそう言ってから、自分でも不思議そうに瞳を瞬かせる。「そんな気がするの…」
「沙羅?」
「見えるんだよ、一哉…なんだろうあれ。一哉は見える?」
「え?」
「黒い、影みたいなの。それがレインを動けなくしてる」
「……」
たぶん、今――――顔に出てしまっただろう驚きを、慌てて引っ込める。
黒い影。
レインを捕らえている闇神。闇に属するものの気配を、沙羅は感じ取っている。
「気のせいだろ。あいつは大丈夫だよ…幹部が来るだろ」
いずれ。
いずれ沙羅が――――真実を知る日は、もしかしたら近いのかもしれない。
そんな危惧が胸を締めたが、今はなによりも、ここから離れたい。
そのいずれが、今でないように。
今であってほしくない。
「できないよ一哉、放っておけない」
「沙…」
沙羅をなんとか宥めようと口を開いた一哉が、焔に瞳を向けた。
気配。
――――よく知ってる気配が、そうさせた。
紅い、龍が。
彼を覆うように、護るように――――身体を絡ませている。
幻でなくそう、視覚で認識できるほどに精細な造形。
あれが。
――――レイン・エルの聖神。
「破壊」のフレイラ。
乱れた黒髪。肌蹴たシャツ。
惚けたような紅い瞳が一哉を――――真っ直ぐに捕らえた。
焔をまとった彼の、残虐な妖艶さに。
人でないような匂い絶つ色香に…一哉は言葉を失う。
――――なんだ。
またトランスしてんのか?
「藤間…」
掠れたハスキーヴォイス。
レインがゆっくりと言葉をつなぐ。
「良かった。――――おまえなら知ってるな」
ソールズベリーのときのレインとは違う。
今の彼には意思がある…だが。
「なにテンパッてんだよ。ついに頭キレちまったのか、あんた」
「時間がない」
レインが片手を上げた。
背後で燃え盛っていた焔が、手品みたいに消えてなくなる。
「っ………」
無意識に一哉が身構えた。
あのコントロール。
レインは能力者としては超一流だ。……認めざるを得ない。
あんなに大量のフォースを使いこなし、かつ、身体に馴染ませている。
あいつが人間だなんて。
焔神フレイラの力をほとんど完璧に、身体に吸収してやがる。
「吐いてもらう、全て――――この場で…今」
「?なんだ、なに言って…」
「一哉!!」
沙羅が叫んだのと一哉の身体に衝撃が走ったのは、ほとんど同時だった。
骨が軋む音。
歯を食いしばった一哉が、視線を前に向けるよりも早く。
レインの右足が、鳩尾に深く食い込んでいた。
「っ…が……ッ」
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