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SCENE SECTION

01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 / 06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人


「可愛い弟。おまえの憎悪が、悲哀が――――快楽が、俺を満たしてくれる」
嘲るような、押し殺した嗤い声。

「おまえを見てた。…可哀想だったな。無実の罪で捕らえられ、人間以下に扱われて…最高だった。――――おまえの泣き顔は可愛い。…イヴァ」
「っ……てめぇ…!」
「…おまえに自由はない」
「…っ……!」

「挑発に乗るな」

動こうとしたイヴァの身体を抱き止めて、シオウが小さく首を振った。
背後を、ラヴロッカを振り返る。

「あいつは契約を結んでいる。あいつを誑かした魔族が――――全ての根源だ」
「魔、物…?」
「現状はあいつの言うとおりだ。おまえに自由はない」
「………」

イヴァが悔しそうに眉根を寄せて…俯く。

「っ……だったらどうしろってんだよ…っ、俺は……、っ…あいつの言うとおり、死ぬしかねぇってことか」
「違う」
「なにが違うんだよ!!ワケわかんねぇんだよっ!っ…俺はっ…」

言葉の途中。
自分の意志とは関係なくあふれたものが、頬を伝って――――止まらなくなる。

「っ……、……っ俺は」
「――――黙れ」

噛みつくように、唇を塞がれる。
舌を絡まされて…血の味がする。

「……っ、ん……」
「あいつがおまえを殺す前に――俺がおまえを斬ってやる」
「……っ、…シ…オ」

刹羅を握ったシオウが、背後に視線を向けて立ち上がる。
黒いコートが、刀を握る手が、イヴァの血で赤く染まっている。

「俺はヴァンクールを殺す。どんな手を使っても」
「……」
「おまえを解放する手段が…あるはずだ」

視線だけイヴァに落とす。

「方法を…探してやる」
「……」
「不満か」
「……」

イヴァが、小さく息を吐いた。
軽く2、3度、首を振る。

「……手がなきゃ――俺を殺るか。……ハ。上等だぜ」
「……」
「動けるまで、あと2分って…とこだ。120秒、なんとかできるか…シオウ」
「……防壁は張れるか」
「あたりめぇだろ。俺様を…誰だと、思ってんだ」

貫かれたほうのイヴァの腕が、かすかに動く。
身体の動きを確かめるようにしているイヴァの傷は、少しずつだが出血を止めようとしている。
「略奪」の能力者であるイヴァは、ナイプの中でもトップクラスの自己回復能力を併せ持っている。
とはいえ。イヴァが眉根を寄せた。

――――あいつが…兄貴が「眩惑(ダズル)」を使ってくるかぎりは、防壁も効かねぇ。

「茶番だな」
ラヴロッカの周囲で黒い粒子が、次々とガンブレードに姿を変える。

シオウの得意とする技、「斬雨(ヘルズ・スプレイ)」。
フォースの消耗がハンパではない斬雨を使いこなせるのは、ほんとうに限られた能力者だけだ。

イヴァが舌打ちする。
シオウの大技。あんな高度な能力まで、完璧にコピーしてやがる。

兄貴の能力――――「捕食(プレイ)」。
一度見た相手の能力を、文字通り食らう。

あいつの厄介なところは、その食らった能力を並外れたセンス、能力(フォース)で、進化させることだ。

兄貴はときに、オリジナルの能力者以上に、それを使いこなしてみせる。
戦いの天才。
あいつは昔からそうだった。
強くて揺るがない、完璧な兄貴。
イタリアでもトップクラスのマフィア・ファミリーのボスだった兄貴の魅力は、周囲にいる人間を狂わせるくらい強烈だった。
――――俺を含めて。

兄貴に憧れていなかったなんて言ったら、嘘になる。
憧れてた。
大好きだった。
俺の全てだった…唇を噛む。
 
愛してた。

もしも違う形で、兄貴のために命を捨てなきゃならなかったとしたら、俺は迷わずにそうした。今だって…。

なぜ、こんな関係に破綻してしまったのか。
未だにそれが、イヴァには解らない。

俺だけだったとは思えない。
ここまでされても、まだ…。

俺だけが…愛してたなんて思えないんだ。

本当はいつだって、忘れられない。
あいつに囚われてる。
関係だけじゃない、精神(こころ)もだ。自覚してる。

どんなに酷くされても。
――――俺は。





「っ…、っ……ん」
下肢の部分を舐めねぶられて、レインが歯を食いしばる。

厭だ。
こんな…。

「ん……っ、……く」
「いやらしい身体だ。大勢に見られて…嬉しいんですか」
「――――っ、……、……ぁ」

吸い付くようにしっとりとした、きめ細やかなレインの肌。
きわどい部分に指を滑らせて、下肢を舌で刺激する。

「や…めろ…っ、……厭、だ」

平時の彼からは考えられないような、覇気のない、か細い声。
乱れた黒髪が、弱々しい紅い瞳にかかる。

「……、っ……厭だ」

抵抗しようと伸びた手を、背後から掴み上げられる。
レインとキマイラを囲むように男たちが集まってきていて、地面に寝かされた格好で、足を開かされる。

「っ……!」

抗議の声を上げるよりも前に、慣らされてもいないまま、中に指を入れ込まれる。

「――――っ……!……っ」
痛みと異物感に瞳を綴じたレインの耳元で、キマイラが哂う。

「興奮しているんですか――――もうこんなに濡らして…」
「貴、様……っ、あ」

前立腺を擦り上げるように指を動かされて、レインが首を振った。
逃れたくて身を捩ろうにも、何人もの腕に身体を固定されていて、動けない。

発動、しない。
――――焔が。

身体に刻まれた記憶。
抗えない何かがレインを、力(フォース)を、押さえつけてくる。


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