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SCENE SECTION

01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 / 06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人


片手を持ち上げる。赤い光が壁を照らした。
壁に貼られた無数の紙。
不自然なその光景に気づいたレインが、動きを止めて…

「っ……!!」

尋常ではない枚数の、写真。
同じ――――1人の少年を写した…。


「Reign Levine(レイン・レヴァイン)


キマイラの声が建物の中を響き渡って、レインが大きく肩を揺らした。

「貴方が記憶していた姓は…頭文字のLだけだったんですね」

「――――。……嘘だ」

「言ったでしょう」

キマイラが笑んだ。
呆然としたままのレインの肩を――――刻印が焼かれた右肩を強く掴む。「全て知っていると」

「「この印」は、貴方が魔族の所有物であることを意味する。あれは貴方ですよ、レイン・レヴァイン」

右腕。
そこに、はっきりと刻まれた――――紅い刻印。
それがなんなのか、なにを示すのかを、ずっと知りたかった。
無数に貼られた写真の少年。
黒髪に紅い瞳……腕にある、あの刻印は。

――――俺、だ。
だけど、こんな…!

「っ…違う!俺は」
「仕方がありませんよね。…いいんですよ、言い訳をしなくても」

キマイラが掴んだ腕。握ってみるとほんとうに華奢な、レインの腕は震えている。
消えそうな焔に照らされたキマイラの瞳が、残忍に細まった。

「あんなに大勢の相手に仕込まれたんじゃ、貴方がどうしようもなく淫乱なのも当然です。こんな事実は、レッドシープに――――組織に属している人間なら誰だって知っている。貴方が覚えていないだけで…貴方を抱いたことのある男は…組織には多い」
「…やめろ」
「何食わぬ顔で貴方と接している、貴方が毛嫌いしている人間たちに…貴方はああやって喘がされて、悦(よ)がっていたんですよ」

「――――っ…」

焔が消えて、レインが壁に背を当てた。
両手で頭を、顔を覆うようにして――――首を振る。

「……っ、違う。――――俺は……認めない…!」
「事実ですよ、レイン・エル」
「っ……違う!!」

掠れたハスキーヴォイス。
キマイラを睨んだ紅い瞳が、憎しみの色を濃くする。

「デタラメだ!…なら聞く。おまえが本当になにもかも知っていると言うなら、答えられるはずだ」

レインをじっと見据えたまま、キマイラが両腕を胸の前に組んだ。

「この印を刻んだのは誰だ」
「………」
「答えろ…!」
「――――可哀想な人だ、貴方は…」

キマイラがレインの腕を乱暴につかんだ。
シャツの襟元を握って、引き剥がすように引き裂く。

「っ……!?」
「答えが欲しいなら、どうぞ。…貴方らしい方法で手に入れてみせて下さい」

混乱している今のレインには、冷静な対応ができない。
それを待っていたように、キマイラが素早く下肢に手を伸ばした。
案の定、能力を使うことすらできずに、キマイラを押し返そうとした細腕は、簡単に片手でひとつに纏め上げられてしまう。
レインが能力を発動させるよりも前に、舌を這わせた耳元で…そっと囁く。

「真実を知っているのは――――貴方にこうして、話してあげられるのは…わたしだけです。レイン」
「……っ、――――…」
「どうか短気を起こさないで下さい…大丈夫ですよ」

優しく囁いて、首元に顔を埋める。

「貴方がそうやって大人しくしているなら、わたしも情報を差し上げます」
「……」
「いまさら一人の男に、操を立てるわけでもないでしょう」

キマイラの嘲笑。レインが眉根を寄せた。
首筋に、鎖骨に…露になった胸元に、ぬるっとした舌の感触が這う。

「どうせ貴方のこの身体は汚れているんだ。…誰よりも」
「……っ」
「自分が誰かを純粋に愛せるとでも、本気で思っているんですか。――――自分の本性すら覚えていない、偽者の貴方が」
「……やめろ」

力が出ない。
弱く首を振ったものの、抵抗しようにも、腕にも、身体にも力が入らなくて――――ただ震えてしまう。


知ってる。
身体は、この感覚を。


誰かにこうやって、無理矢理組み敷かれる感覚を――――覚えてる。


それが…身体の記憶が胸を焼いて、吐き気がする。
戻らない記憶を刺激された頭は、急に痛みだしていて…眩暈がする。

――――苦しい。気分が…悪い。
胸が、頭が――――焼けるみたいだ。

「思い出させてあげますよ――――レイン」

シャツを剥がされて、白い肌が露になる。
男たちの歓声が教会に響いた。








「JUDGE」はメンバーとなるその日に、参入の儀式として、魔物との契約を唱えさせられる。
REDSHEEPというオカルト組織らしい掟であり、それはJUDGEの主であるシド・レヴェリッジに…13血流(エレオス)に倣った、血の契約。

クラッド・ラヴロッカとブラッキアリの結んだ契約。

柱となる者――――ラヴロッカの一番大切な人間。
それを、影とする。

影となる人間の、負の感情。
憎悪、悲哀、妬み、快楽といった感情こそが、柱である人間の力(フォース)に変わる。
影が柱に命を絶たれたその瞬間に、血の契約が発動し、柱は魔に転生する。
柱が魔に転生した、その瞬間から――――影は柱の、契約主である魔物と眷属の虜囚となる。
――――永遠に。





カナマ・イヴァと初めて会ったときに、そのめずらしい瞳の色と髪の色、雰囲気で…すぐにラヴロッカの弟だとわかった。

17歳。
俺より少し早くナイプに入ったばかりだった頃のあいつは、今よりずっと無口だった。

誰も寄せ付けず、誰とも瞳を合わせない。
レインに聞いたイヴァの過去は、たしかにそうなってしまうだけの…凄惨なものだった。

15歳で大量殺人を犯した罪で終身刑にされ、最も警備と監視の厳しいアヘン・テラ刑務所で1年間拘留された後、軍用実験のために「刑務所内死亡」とされ、研究所に送られる。
遺伝子改変の処置を受けたあと、3ヵ月間意識不明のまま生死をさまよい続けて、その後一命を取り留めてからは、中央政府の暗部として自由を奪われ、命令どおりに動かされていた。
アヘン・テラ刑務所のひどい処罰や無意味で卑劣な拷問は、一般人でも知っているくらい有名な話だ。その後の経験も含め、たった2年とはいえ、あいつの受けた精神的、肉体的なダメージは相当のものだっただろう。


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