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SCENE SECTION
01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 /
06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人
「レイン?来てないぜ」
眉根を寄せたイヴァが、携帯を片手に赤い髪をかき上げる。
「なんにも聞いてねぇけど…。つうか神代、おまえこそなにしてんだよ。護衛(ガード)はてめぇだろ。レインと一緒じゃねぇの?」
ロシア軍機に乗ってカリーニングラードに到着したイヴァとシオウは、バルト海に臨むスヴェトロゴルスクに到着していた。
「なんとかチカチカって電車みたいので、スヴェト…なんとかに」
「エレクトリーチカ、スヴェトロゴルスクだ」
「それそれ、なんとかチカチカ。…って、うるせぇなシオウ。口出しすんならてめぇが喋れよ」
「バカだな…」
「なんだとコラ…あ」
イヴァが、通話の切れた携帯を見下ろす。
「なんだあいつ。ワケわかんね」
ソ連軍戦没者に捧げる慰霊碑の前を通り過ぎて、バルト海の見えるオクチャーブリスカヤ通りを歩く。
バルト海に面したリゾート地であるだけあって、通りには琥珀を売る露店やカフェなどが立ち並んでいる。とは言っても、時間が時間なだけに、開いている店はない。
暗い田舎道。外灯がチカチカと瞬く。
広い車道にはときどき、港町らしく猫の姿が見える。
「イヴァ」
すこしまえを歩いていたシオウが、足を進めたまま言葉をつなぐ。
「展開がおかしい。たぶん罠だ」
シオウの言葉に、イヴァが首を傾げる。
「おいおい…レインの指示だぜ。レインなら、そんなの見抜いて…」
「わざと嵌ったんだ。たぶん、相当なレベルの相手がここにいる。…だから直樹をここに送り込んだ」
「――――え?」
塩臭い風が頬をかすめる。
乱れた髪を片手でかき上げて、イヴァが前方のシオウを見つめる。
「だが直樹も、レインがここに来ていないということに…なにかがあったことに気づいた」
「?どういうことだよ」
「レインは、ここに向かうからあとで来いと直樹に命じたんだ」
シオウが足を止めて、イヴァを振り返った。
いつもと変わらない無表情な瞳。
「だがレインは来てない。加勢予定だった直樹とレイン。2人とも恐らくここには来ない。そういうことだ」
「……」
何度も瞳を瞬かせて、イヴァが首を傾げた。
「どういうことだって?」
「……」
「っ…てめ、今思いっきしバカにしただろ…なんだその溜息」
「幸せだな…バカは」
「あぁ!?」
「おまえでもわかるように、簡単に言ってやる」
強い風。
灰色の空が少しずつ重くなりだした。
雨になりそうだ。
「この先にはトップランクのジャッジがいる。レインはここには来ない…敵の誘いに乗ったんだろう。自分の代わりに直樹をここに送り込むつもりが、レインの思惑から外れて、直樹はレインの行動に気づいてしまった。たぶんあいつは、レインの行方を探す」
「敵の誘い?」
「今度の件は、はじめから仕組まれたものだったということだ」
「中央政府――――レッドシープか」
シオウが頷いた。灰紫の髪を風が乱す。
「俺かお前、どちらかもターゲットにされてるようだな」
「なんだよそれ。本気でウチを、ナイプを潰しにかかってるってことか」
「――――そうだ」
「なんで」
「俺が知るか」
溜息をついて。
シオウがイヴァを見つめた。「…補足する」
「ターゲットはおまえだ、イヴァ」
「――――え?」
風。
生ぬるい風が湿気を帯びてきて…ぽつりと、イヴァの頬に雨粒が当たる。
「なんで、そんなこと…」
「ジャッジには、おまえの知らない人間が1人いる」
「?」
ジャッジのメンバーは幾つかの場面で、ナイプの幹部たちと出くわす、或いは交戦に及ぶことがあった。
つまり、だいたいはお互いの顔が割れている関係にある。
当然イヴァも、ジャッジのメンバーはほとんど知っているはずで…煙に巻くようなシオウの言葉に、苛立ったイヴァが食ってかかる。
「意味わかんねぇ。なにが言いてぇんだよ」
「クラッド・ラヴロッカ」
シオウの言葉。
イヴァが瞳を見開く。
「なんで――――兄貴の、名前」
「ラヴロッカはジャッジのファースト。第一席(エース)だ」
「え…?」
「おまえは戻れ」
シオウが静かに言葉をつなぐ。
「足手まといがいたら迷惑だ」
「――――なんで」
雨。
降り出した雨が、地面を――――2人を濡らす。
「なんだ…どういうことだよ。…兄貴のこと、知ってて黙ってたのか」
「……」
「っ……兄貴が相手じゃ、俺が手出しできねぇからかよ。それとも……っ」
俺の。
――――俺の過去を…。
哀れんで、か。
「……」
「っ…なんとか言えよ!!」
「……」
「ふざけんな!!おまえ…ッ、おまえら、俺を…」
「そうだ」
灰紫の瞳。
それが射るように…冷たくイヴァを見つめる。
「可哀想だな。つくづくお前は運が悪い」
「…シ、オウ」
「おまえが必死になる必要はない。あとは俺と直樹…レインが片付ける。3人で充分だ」
「……ハ」
鼓動が…胸が、痛い。
――――こいつって。
ほんと…。
「レイン?来てないぜ」
眉根を寄せたイヴァが、携帯を片手に赤い髪をかき上げる。
「なんにも聞いてねぇけど…。つうか神代、おまえこそなにしてんだよ。護衛(ガード)はてめぇだろ。レインと一緒じゃねぇの?」
ロシア軍機に乗ってカリーニングラードに到着したイヴァとシオウは、バルト海に臨むスヴェトロゴルスクに到着していた。
「なんとかチカチカって電車みたいので、スヴェト…なんとかに」
「エレクトリーチカ、スヴェトロゴルスクだ」
「それそれ、なんとかチカチカ。…って、うるせぇなシオウ。口出しすんならてめぇが喋れよ」
「バカだな…」
「なんだとコラ…あ」
イヴァが、通話の切れた携帯を見下ろす。
「なんだあいつ。ワケわかんね」
ソ連軍戦没者に捧げる慰霊碑の前を通り過ぎて、バルト海の見えるオクチャーブリスカヤ通りを歩く。
バルト海に面したリゾート地であるだけあって、通りには琥珀を売る露店やカフェなどが立ち並んでいる。とは言っても、時間が時間なだけに、開いている店はない。
暗い田舎道。外灯がチカチカと瞬く。
広い車道にはときどき、港町らしく猫の姿が見える。
「イヴァ」
すこしまえを歩いていたシオウが、足を進めたまま言葉をつなぐ。
「展開がおかしい。たぶん罠だ」
シオウの言葉に、イヴァが首を傾げる。
「おいおい…レインの指示だぜ。レインなら、そんなの見抜いて…」
「わざと嵌ったんだ。たぶん、相当なレベルの相手がここにいる。…だから直樹をここに送り込んだ」
「――――え?」
塩臭い風が頬をかすめる。
乱れた髪を片手でかき上げて、イヴァが前方のシオウを見つめる。
「だが直樹も、レインがここに来ていないということに…なにかがあったことに気づいた」
「?どういうことだよ」
「レインは、ここに向かうからあとで来いと直樹に命じたんだ」
シオウが足を止めて、イヴァを振り返った。
いつもと変わらない無表情な瞳。
「だがレインは来てない。加勢予定だった直樹とレイン。2人とも恐らくここには来ない。そういうことだ」
「……」
何度も瞳を瞬かせて、イヴァが首を傾げた。
「どういうことだって?」
「……」
「っ…てめ、今思いっきしバカにしただろ…なんだその溜息」
「幸せだな…バカは」
「あぁ!?」
「おまえでもわかるように、簡単に言ってやる」
強い風。
灰色の空が少しずつ重くなりだした。
雨になりそうだ。
「この先にはトップランクのジャッジがいる。レインはここには来ない…敵の誘いに乗ったんだろう。自分の代わりに直樹をここに送り込むつもりが、レインの思惑から外れて、直樹はレインの行動に気づいてしまった。たぶんあいつは、レインの行方を探す」
「敵の誘い?」
「今度の件は、はじめから仕組まれたものだったということだ」
「中央政府――――レッドシープか」
シオウが頷いた。灰紫の髪を風が乱す。
「俺かお前、どちらかもターゲットにされてるようだな」
「なんだよそれ。本気でウチを、ナイプを潰しにかかってるってことか」
「――――そうだ」
「なんで」
「俺が知るか」
溜息をついて。
シオウがイヴァを見つめた。「…補足する」
「ターゲットはおまえだ、イヴァ」
「――――え?」
風。
生ぬるい風が湿気を帯びてきて…ぽつりと、イヴァの頬に雨粒が当たる。
「なんで、そんなこと…」
「ジャッジには、おまえの知らない人間が1人いる」
「?」
ジャッジのメンバーは幾つかの場面で、ナイプの幹部たちと出くわす、或いは交戦に及ぶことがあった。
つまり、だいたいはお互いの顔が割れている関係にある。
当然イヴァも、ジャッジのメンバーはほとんど知っているはずで…煙に巻くようなシオウの言葉に、苛立ったイヴァが食ってかかる。
「意味わかんねぇ。なにが言いてぇんだよ」
「クラッド・ラヴロッカ」
シオウの言葉。
イヴァが瞳を見開く。
「なんで――――兄貴の、名前」
「ラヴロッカはジャッジのファースト。第一席(エース)だ」
「え…?」
「おまえは戻れ」
シオウが静かに言葉をつなぐ。
「足手まといがいたら迷惑だ」
「――――なんで」
雨。
降り出した雨が、地面を――――2人を濡らす。
「なんだ…どういうことだよ。…兄貴のこと、知ってて黙ってたのか」
「……」
「っ……兄貴が相手じゃ、俺が手出しできねぇからかよ。それとも……っ」
俺の。
――――俺の過去を…。
哀れんで、か。
「……」
「っ…なんとか言えよ!!」
「……」
「ふざけんな!!おまえ…ッ、おまえら、俺を…」
「そうだ」
灰紫の瞳。
それが射るように…冷たくイヴァを見つめる。
「可哀想だな。つくづくお前は運が悪い」
「…シ、オウ」
「おまえが必死になる必要はない。あとは俺と直樹…レインが片付ける。3人で充分だ」
「……ハ」
鼓動が…胸が、痛い。
――――こいつって。
ほんと…。
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