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SCENE SECTION
01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 /
06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人
力量に欠ける人間の場合、運命(フォルトゥーナ)はよりつよく、その力を発揮する。
なぜなら、運命は変転する。
国家といえども、運命の気まぐれから自由であることはむずかしい。
つまり、頼れるのは自力のみということに目覚め
運命が自分勝手にふるまうのを牽制する必要があるのだ。
でなければ、われわれ人間は、
いつまでも運命の命ずるままに流されてしまうことになるだろう。
――――マキアヴェッリ
――――雨。
雨粒が頬にあたって、レインが顔を上げた。
見上げた空が灰色だったことにようやく気がつく。自分の余裕のなさに嘲笑(わらっ)てしまう。
片手に握った、雨に濡れた携帯。
――――喰いついてきた。
「キマイラ、か」
こいつが、アルフレッドの持つ情報の全てを握っている。
アルフレッドが逃亡し、それを追ってGANZと赤い盾が動いたという時点で、アルフレッドの生存確率はかなり低い。
だが、追えば必ず喰いついてくる。
餌――――「俺」に。
情報が欲しい。なんとしても手に入れたいんだ。どんな手を使っても。
レッドシープ。外界から遮断されたあの組織から、真実を引き出すには…。
「どうしても…欲しいんだ」
「白軍(イノセンス)」の大尉、ジェシカ・エインズワース…アムシェル・ビギンズが、ブラッドの旧友――――恋人だったことを知ったのは、ソールズベリーでのあの一件があったすこしあと、体調が整うまで幹部たちに任せていた、会合への出席をし始めた頃だった。
彼女が中央政府、レッドシープという組織から抜けたがっていること。
ブラッドのことを未だに想っていること。
ほんとうはアルフレッド・シフを――――組織を憎んでいるということ。
彼女は組織から抜け出すチャンスを待っていた。
彼女ならきっと、俺の提案に心を傾けるだろうという確信があった。
アルフレッド・シフ自身と、彼のもつ情報の引き換えとして
ブラッドと2人で会う機会と、アルフレッドからの、組織からの解放を得る機会をつくる。
俺というカード以外で、組織は動かない。組織から抜けるチャンスはたぶん、この一度しかない。
そう彼女に持ちかけた。
今回の自分勝手な行動が、周囲との関係を、信頼を裏切ることになるとわかっていた。
個人的な理由で、部下を――――仲間を巻き込むことになると。
アムシェルが俺と手を組んだように見せながら、組織に情報を売るだろうということも想定内だった。
レッドシープにすこしでも関与した人間なら、そこから抜け出すということがどれほど難しく、どれほど大きなリスクを伴うかということくらい、嫌というほど理解させられてる筈だ。
強大な恐怖から防衛策をとることは自然で、人間なら誰でもすること。だから彼女を責める気はない。
むしろ――――好都合だ。
俺に喰らいついてくるモノ。
組織が差し向けたものだろうと、反中央組織だろうと、どっちだっていい。
そいつの腹は、組織から得た情報で膨らんでいる。それが重要だ。
携帯が振動する。画面に映し出された文字……ブラッド。
「……」
俺の傍にいることが、あいつの為にはならないなら。
自分の手で、あいつを傷つけてしまうなら――――万が一のことがあってしまったら。
「縛りつけたくないんだ…これ以上」
俺のこの身体のせいで、あいつを縛りたくない。
あいつがいなくては駄目だと解っている。身体も――――心も。
だけど。
直樹の言葉が頭に響く。
「信頼してるから」――――首を振る。
――――大丈夫だ。
イヴァとシオウ。あの2人がJUDGEとぶつかったとしても、直樹が加われば。
JUDGEの第一席。
あいつが出てきていたとしても――――逃げられる。
信頼されていると自覚している。
幹部たちが自分の命令に背くはずがないと解っている。
だからこそ、今度の自分本位な命令に――――行動に、嫌気がさす。
わざわざ部下を危険に晒すトップなんて最低だ。
自分の欲求のために、誰かを犠牲にしていいわけがない。
「――――すまない」
俺にはほかに、方法がない。
あの白い光。
まだ小さな、不思議な少女。沙羅の姿が脳裏をよぎる。
俺の力がもし破壊でなく、希望だったら。
沙羅のように汚れていなかったら…そう思わなかった日はない。
自分の精神の脆さは痛いほど知っている。
だから常に弱いところをみせないように、強く在ろうと虚勢を張ってる。
足掻いているのがたまに、つくづくバカバカしくなることがある。
生なんて苦痛だと思うことがある。
――――だけど。
「莫迦だな…」
時間がないんだ。
――――俺には、もう。
保てない。
俺という人格が、意識が、いつ消えてしまうのかが…恐くてしかたない。
目覚めるたび毎朝、これが自分であるかどうかを確認してしまう。
眠るのがこわい。意識を手放すのが――――こわい。
闇が自分を蝕んでいくのがわかる。
殺戮に、血に、快楽に――――呑まれてしまう。
そうなったら、俺は。
力量に欠ける人間の場合、運命(フォルトゥーナ)はよりつよく、その力を発揮する。
なぜなら、運命は変転する。
国家といえども、運命の気まぐれから自由であることはむずかしい。
つまり、頼れるのは自力のみということに目覚め
運命が自分勝手にふるまうのを牽制する必要があるのだ。
でなければ、われわれ人間は、
いつまでも運命の命ずるままに流されてしまうことになるだろう。
――――マキアヴェッリ
――――雨。
雨粒が頬にあたって、レインが顔を上げた。
見上げた空が灰色だったことにようやく気がつく。自分の余裕のなさに嘲笑(わらっ)てしまう。
片手に握った、雨に濡れた携帯。
――――喰いついてきた。
「キマイラ、か」
こいつが、アルフレッドの持つ情報の全てを握っている。
アルフレッドが逃亡し、それを追ってGANZと赤い盾が動いたという時点で、アルフレッドの生存確率はかなり低い。
だが、追えば必ず喰いついてくる。
餌――――「俺」に。
情報が欲しい。なんとしても手に入れたいんだ。どんな手を使っても。
レッドシープ。外界から遮断されたあの組織から、真実を引き出すには…。
「どうしても…欲しいんだ」
「白軍(イノセンス)」の大尉、ジェシカ・エインズワース…アムシェル・ビギンズが、ブラッドの旧友――――恋人だったことを知ったのは、ソールズベリーでのあの一件があったすこしあと、体調が整うまで幹部たちに任せていた、会合への出席をし始めた頃だった。
彼女が中央政府、レッドシープという組織から抜けたがっていること。
ブラッドのことを未だに想っていること。
ほんとうはアルフレッド・シフを――――組織を憎んでいるということ。
彼女は組織から抜け出すチャンスを待っていた。
彼女ならきっと、俺の提案に心を傾けるだろうという確信があった。
アルフレッド・シフ自身と、彼のもつ情報の引き換えとして
ブラッドと2人で会う機会と、アルフレッドからの、組織からの解放を得る機会をつくる。
俺というカード以外で、組織は動かない。組織から抜けるチャンスはたぶん、この一度しかない。
そう彼女に持ちかけた。
今回の自分勝手な行動が、周囲との関係を、信頼を裏切ることになるとわかっていた。
個人的な理由で、部下を――――仲間を巻き込むことになると。
アムシェルが俺と手を組んだように見せながら、組織に情報を売るだろうということも想定内だった。
レッドシープにすこしでも関与した人間なら、そこから抜け出すということがどれほど難しく、どれほど大きなリスクを伴うかということくらい、嫌というほど理解させられてる筈だ。
強大な恐怖から防衛策をとることは自然で、人間なら誰でもすること。だから彼女を責める気はない。
むしろ――――好都合だ。
俺に喰らいついてくるモノ。
組織が差し向けたものだろうと、反中央組織だろうと、どっちだっていい。
そいつの腹は、組織から得た情報で膨らんでいる。それが重要だ。
携帯が振動する。画面に映し出された文字……ブラッド。
「……」
俺の傍にいることが、あいつの為にはならないなら。
自分の手で、あいつを傷つけてしまうなら――――万が一のことがあってしまったら。
「縛りつけたくないんだ…これ以上」
俺のこの身体のせいで、あいつを縛りたくない。
あいつがいなくては駄目だと解っている。身体も――――心も。
だけど。
直樹の言葉が頭に響く。
「信頼してるから」――――首を振る。
――――大丈夫だ。
イヴァとシオウ。あの2人がJUDGEとぶつかったとしても、直樹が加われば。
JUDGEの第一席。
あいつが出てきていたとしても――――逃げられる。
信頼されていると自覚している。
幹部たちが自分の命令に背くはずがないと解っている。
だからこそ、今度の自分本位な命令に――――行動に、嫌気がさす。
わざわざ部下を危険に晒すトップなんて最低だ。
自分の欲求のために、誰かを犠牲にしていいわけがない。
「――――すまない」
俺にはほかに、方法がない。
あの白い光。
まだ小さな、不思議な少女。沙羅の姿が脳裏をよぎる。
俺の力がもし破壊でなく、希望だったら。
沙羅のように汚れていなかったら…そう思わなかった日はない。
自分の精神の脆さは痛いほど知っている。
だから常に弱いところをみせないように、強く在ろうと虚勢を張ってる。
足掻いているのがたまに、つくづくバカバカしくなることがある。
生なんて苦痛だと思うことがある。
――――だけど。
「莫迦だな…」
時間がないんだ。
――――俺には、もう。
保てない。
俺という人格が、意識が、いつ消えてしまうのかが…恐くてしかたない。
目覚めるたび毎朝、これが自分であるかどうかを確認してしまう。
眠るのがこわい。意識を手放すのが――――こわい。
闇が自分を蝕んでいくのがわかる。
殺戮に、血に、快楽に――――呑まれてしまう。
そうなったら、俺は。
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