page02
SCENE SECTION
01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 /
06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人
「おまえたちの目的はなんだ」
「っ…あ、っ……」
アムシェルがブラッドの背中に腕を回す。
「っ…、だめよ、ブラッド。…なにも…聞かないで」
「…アム」
「あなたを…憎んでなんかいないわ」
アムシェルの瞳から大粒の涙が零れた。
「お願いよブラッド。エル総帥に…あの人にもう関わらないで」
「レイン…?」
ブラッドの表情が変わった。
急に険しくなったその瞳を、アムシェルが見上げる。
「なにも分かってないのよ。あなたを…もう失いたくないの」
「レインが――――なんだって」
「スナイパーは…エル総帥はいずれ組織の手に堕ちるわ…。あなたのものになんて、ならないのよ」
「……!」
そういう――――ことか。
あいつ。
俺とアムが、恋人だったってこと――――。
「………」
アムシェルから身体を離したブラッドが大きく息を吐いた。髪をかき上げる。
「アルフレッド・シフを中央に売ったのは…おまえか、アム」
「……違うわ」
「嘘はもういい。おまえを言いくるめたのはレインだな」
「………」
「今度の事件…アルフレッドに関する件の全ての根源はレインの…」
「エル総帥は賢明だわ!!あなたをこれ以上、巻き込みたくなくて――――」
「ふざけるな」
静かだけれど怒気を含んだ、ブラッドの低音。
「俺を引き合いに出して、レインに情報を。アルフレッドを売る代わりに俺を。――――そういう条件だな」
「………。あなたを手放しても構わない――――エル総帥はそう言ってくれたわ」
「――――あいつ…」
「事実よ、ブラッド」
アムシェルがしっかりと、ブラッドの腕を掴む。
「このままエル総帥の傍にいてはだめ。あの人は――――レイン・エルは…」
「レインに加担したことを…おまえがアルフレッドを罠に嵌めるってシナリオを――――中央は知ってるんだな」
有無を言わさない、ブラッドの瞳。
その迫力に、アムシェルが押し黙る。
「レインに加担したふりをして、アルフレッドを組織から謀反させる。実際の、おまえたちの…REDSHEEPの狙いは」
「だったらなんだって言うの」
アムシェルが語気を荒げる。
「あたしは自由が欲しいの!!組織から抜けるには、こうするしか…あなたを助けるには、これしかないのよ!!」
「レインを売ったんだな」
「――――ええ…そうよ」
ブラッドを見上げる瞳が、涙で潤む。
「組織はそんなに甘くはないもの。抜け出すには命と同じくらいの見返りが求められるわ。でもエル総帥と引き換えなら…。大丈夫よ、彼は強いし…護衛だっているんだから。なにも、あなたが守る必要なんてない。…そうでしょう、ブラッド」
「………」
ちいさく息を吐いて。
ブラッドが立ち上がった。ソファの上に放っておいた軍服をつかむ。
「エル総帥を――――彼を、助けに行く気?」
「スナイパー元帥なんでね。これでも」
「あなたが行ったら…あたしは殺されるわ」
ブラッドが顔を上げた。
アムシェルが、いつの間にか手に持っていた銃を頭に当てる。
「…よせ」
「本当よ。あたしがあなたに話したすべてを、組織が許すわけないもの。…終わりだわ」
「……アム」
「ジョン・エインズワース。…あたしの夫よ。虫唾が走るほどきらいな男」
アムシェルの瞳が、大きく揺れた。
白い頬に涙が伝う。
「組織はあたしから、なにもかもを奪った。…だけどひとつだけ、どうしても――――失いたくないものがあったの」
「………」
「あなたよ――――ブラッド」
「………。俺は」
一歩。
近づくブラッドに、アムシェルが首を振る。
「こないで。…撃つわよ」
「覚えてるか、アム」
震える白い手をそっと握って、引き金にかけた指に触れる。
「俺が「死んだ」あの日、俺が撃たれた理由を」
「っ……忘れるわけないじゃない!!」
自分を庇って倒れた彼の顔を、忘れた日なんてない。
あの日から、誰かを失うことが、愛することがこわくなった。
あの日、自分の腕のなかで冷たくなっていく彼に、ただ泣き叫ぶことしかできなかった自分を…責めなかった日なんて。
「俺は後悔なんかしてない」
はっきりとそう言って…優しい翠の瞳がアムシェルを映す。
「おまえが生きていればそれでよかった。後悔したことは一度もない。…知ってるだろう」
アムシェルの髪を撫でて、ブラッドが笑んだ。
「おまえに惚れてた。――――だから護ったんだ」
「っ……」
「おまえは最高にいい女だ」
「ブラッド…」
――――キス。
ブラッドの唇から、固いものが絡められて――――アムシェルの喉に入る。
「っ……?」
「途中で勘づかれたのか、失敗した。組織にはそう言え。おまえはちゃんと任務をこなしたんだ」
「ブラッ、ド…」
かくんと、アムシェルの身体が崩れ落ちた。
そっとベッドの上に寝かせて、上から毛布をかけてやる。
「ずいぶん強力な睡眠薬だったんだな…どおりで眩暈が。ちょっと飲みすぎたか」
アッシュトレイの上で、まだ白い煙を漂わせていた煙草を潰して。
ブラッドが再び、軍服をつかんだ。
「おまえたちの目的はなんだ」
「っ…あ、っ……」
アムシェルがブラッドの背中に腕を回す。
「っ…、だめよ、ブラッド。…なにも…聞かないで」
「…アム」
「あなたを…憎んでなんかいないわ」
アムシェルの瞳から大粒の涙が零れた。
「お願いよブラッド。エル総帥に…あの人にもう関わらないで」
「レイン…?」
ブラッドの表情が変わった。
急に険しくなったその瞳を、アムシェルが見上げる。
「なにも分かってないのよ。あなたを…もう失いたくないの」
「レインが――――なんだって」
「スナイパーは…エル総帥はいずれ組織の手に堕ちるわ…。あなたのものになんて、ならないのよ」
「……!」
そういう――――ことか。
あいつ。
俺とアムが、恋人だったってこと――――。
「………」
アムシェルから身体を離したブラッドが大きく息を吐いた。髪をかき上げる。
「アルフレッド・シフを中央に売ったのは…おまえか、アム」
「……違うわ」
「嘘はもういい。おまえを言いくるめたのはレインだな」
「………」
「今度の事件…アルフレッドに関する件の全ての根源はレインの…」
「エル総帥は賢明だわ!!あなたをこれ以上、巻き込みたくなくて――――」
「ふざけるな」
静かだけれど怒気を含んだ、ブラッドの低音。
「俺を引き合いに出して、レインに情報を。アルフレッドを売る代わりに俺を。――――そういう条件だな」
「………。あなたを手放しても構わない――――エル総帥はそう言ってくれたわ」
「――――あいつ…」
「事実よ、ブラッド」
アムシェルがしっかりと、ブラッドの腕を掴む。
「このままエル総帥の傍にいてはだめ。あの人は――――レイン・エルは…」
「レインに加担したことを…おまえがアルフレッドを罠に嵌めるってシナリオを――――中央は知ってるんだな」
有無を言わさない、ブラッドの瞳。
その迫力に、アムシェルが押し黙る。
「レインに加担したふりをして、アルフレッドを組織から謀反させる。実際の、おまえたちの…REDSHEEPの狙いは」
「だったらなんだって言うの」
アムシェルが語気を荒げる。
「あたしは自由が欲しいの!!組織から抜けるには、こうするしか…あなたを助けるには、これしかないのよ!!」
「レインを売ったんだな」
「――――ええ…そうよ」
ブラッドを見上げる瞳が、涙で潤む。
「組織はそんなに甘くはないもの。抜け出すには命と同じくらいの見返りが求められるわ。でもエル総帥と引き換えなら…。大丈夫よ、彼は強いし…護衛だっているんだから。なにも、あなたが守る必要なんてない。…そうでしょう、ブラッド」
「………」
ちいさく息を吐いて。
ブラッドが立ち上がった。ソファの上に放っておいた軍服をつかむ。
「エル総帥を――――彼を、助けに行く気?」
「スナイパー元帥なんでね。これでも」
「あなたが行ったら…あたしは殺されるわ」
ブラッドが顔を上げた。
アムシェルが、いつの間にか手に持っていた銃を頭に当てる。
「…よせ」
「本当よ。あたしがあなたに話したすべてを、組織が許すわけないもの。…終わりだわ」
「……アム」
「ジョン・エインズワース。…あたしの夫よ。虫唾が走るほどきらいな男」
アムシェルの瞳が、大きく揺れた。
白い頬に涙が伝う。
「組織はあたしから、なにもかもを奪った。…だけどひとつだけ、どうしても――――失いたくないものがあったの」
「………」
「あなたよ――――ブラッド」
「………。俺は」
一歩。
近づくブラッドに、アムシェルが首を振る。
「こないで。…撃つわよ」
「覚えてるか、アム」
震える白い手をそっと握って、引き金にかけた指に触れる。
「俺が「死んだ」あの日、俺が撃たれた理由を」
「っ……忘れるわけないじゃない!!」
自分を庇って倒れた彼の顔を、忘れた日なんてない。
あの日から、誰かを失うことが、愛することがこわくなった。
あの日、自分の腕のなかで冷たくなっていく彼に、ただ泣き叫ぶことしかできなかった自分を…責めなかった日なんて。
「俺は後悔なんかしてない」
はっきりとそう言って…優しい翠の瞳がアムシェルを映す。
「おまえが生きていればそれでよかった。後悔したことは一度もない。…知ってるだろう」
アムシェルの髪を撫でて、ブラッドが笑んだ。
「おまえに惚れてた。――――だから護ったんだ」
「っ……」
「おまえは最高にいい女だ」
「ブラッド…」
――――キス。
ブラッドの唇から、固いものが絡められて――――アムシェルの喉に入る。
「っ……?」
「途中で勘づかれたのか、失敗した。組織にはそう言え。おまえはちゃんと任務をこなしたんだ」
「ブラッ、ド…」
かくんと、アムシェルの身体が崩れ落ちた。
そっとベッドの上に寝かせて、上から毛布をかけてやる。
「ずいぶん強力な睡眠薬だったんだな…どおりで眩暈が。ちょっと飲みすぎたか」
アッシュトレイの上で、まだ白い煙を漂わせていた煙草を潰して。
ブラッドが再び、軍服をつかんだ。
BACK NEXT
Copyright LadyBacker All Rights Reserved./Designed by Rosenmonat