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SCENE SECTION
01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 /
06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人
至近距離から放たれた強靭な氷の刃は、レインの身体をのみ込み、壁に突き刺さり、その衝撃によって地下空間が鳴動する。
ひび割れた天井の一部が崩落し、レインの頭上に降り落ちた。
イナズマ状の亀裂が入った壁は凍りつき、うず高く積もった氷の破片は驍氷の身長をはるかに超え、崩壊した天井から地上へと突き出さんばかりに堆積している。
「はぁ、……、っは」
肩で息をしながら、驍氷は両手の型をゆっくりと解き、そして下ろした。
立て続けに大技を放った為に、スピリッツを大量に消費した彼の身体は酸欠にも似た状態に陥り、激しい頭痛と眩暈、吐き気に襲われていた。
周辺は冷気塊による白い霧に包まれ、体感温度はマイナス数十度にまで下がっている。
これだけでも、対峙する能力者は体温を奪われ、血管が収縮し、急激なヒートショックを与えられることになる。
「はっ……。ハハ」
両手を膝につき、すこし前に屈んだ格好で息を整えながらも、驍氷は笑みを零していた。
レイン・エルの回復力はデータ上、驍氷をも上回る。
だが、全身を氷で覆ってしまえば話は別だ――温度降下ショックで即死、それを免れたとしても全身の細胞は破壊される。
「速攻でキめてやったぜ。…ザマぁみろ」
まだふらつく足で踵を返し、地下空間を見渡しながら、未だ姿を見せない「もう一人」に声をかける。
「護衛(ガード)の幹部、出てこいよ。…おまえのボスは死んだぜ。この通り――」
背後。
驍氷の背中に突き刺さり、心臓を鷲掴みにしたのは――
氷の中から尖鋭に放たれた、殺気。
「……っ!?」
ピシ、と硬い音が鳴った。
轟音と共に分厚い氷の壁を食い破り、躍り出た焔の龍が、氷柱を蹴散らしながら上空に昇って行く。
「っ…な…」
砕けた氷が雨となり降り注ぐ中から、龍に護られるようにして現れたレインが、いつものように嬌笑を浮かべた。
その白肌には傷一つなく、軍服にも乱れは無い。
それでも襟元を正しながら、数歩前に進み出ると、小さく首を傾いで驍氷を眇め見る。
「悪くない。…及第点だな」
「っ……なん、で…」
冷気の霧に包まれたレインが、ふと身震いした。
唇から白い吐息を漏らしながら、片手を上げ、パチンと指を鳴らす。
「Purgatory…裁きの檻を」
レインの身体から放出されたスピリッツが、熱風と共に地下空間を突き抜けた。
咆哮した龍が驍氷とレインの周囲に焔を吐き出すと、二人は円形の焔に囲まれ、火の檻の中に閉じ込められる。
灼熱の業火は驍氷の氷を瞬く間に溶かし、水さえも一瞬で気化させ、霧をも覆い尽くしていく。
「さて…今度は俺の番だな」
その圧倒的なスピリッツに愕然とし、声を出す事すら出来ずに佇立している驍氷を見遣ったレインは、不思議そうに瞳を瞬かせると、まるで子供のように純真に問いかける。
「なにをそんなに驚いている?…同じ能力だろう」
「……っ……ちがう」
レインが何気なく放った焔のエネルギー量は、驍氷が先程放ったスピリッツを明らかに上回っている。
焔を「龍」というかたちにまで具現化させ、且つ、それがまるで意思をもっているかのように主であるレインを護り、それでもまだ、レインの周囲には焔とスピリッツが滾々と湧き出している――枯れることのない泉のように。
なんなんだ、コイツは…!?
あまりにも自然にスピリッツを使いこなす彼を前にした驍氷の身体は硬直し、未知の生物に遭遇したかのような混乱に陥っていた。
「そんなに焔(これ)が恐いか?…仕方ないな」
驍氷の恐怖を嗅ぎ取ったレインは嘆息し、洒脱に肩を竦めて見せると、スピリッツの放出を止め、同時に焔を全て消し去った。
龍と火柱は熱風と共にうねりながら消失し、急激に温められた地下空間が軋んだ音を立てたが、後にはただ、対峙する二人だけが残される。
「っ……どういう、つもりだ」
未だ潤いの戻らぬ喉から漸く掠れた声を出し、驍氷はレインを睨めつける。
風に乱された黒髪を片手で丁寧に直しつつ、平然とした様子で首を傾げるレインの態度に苛立ち、驍氷は更に声を荒げて糺す。
「なんのつもりだ…!!手加減でもしてやろうってコトか!?」
「……」
沈黙を挟み、驍氷を賞玩していたレインが、ふと口角を上げた。
始めて見せた彼の「侮蔑」に、驍氷は我知らず息を呑む。
「―― そうだ」
はっきりと肯定し、レインは瞳を細める。
「俺は焔を使わない。それに…そうだな…」
左手を顔の辺りまで持ち上げて握り拳をつくると、確認するように驍氷を見遣り、言い放つ。
「防御にも攻撃にも…コレしか使わない。おまえは俺の左手にだけ神経を集中させればいい。簡単だろう?」
「…なん、だと?」
「早くしろ。…来いと言ってるんだ」
艶っぽく囁き、レインは左手を驍氷に差し出すと、人差し指と中指を二度折り曲げ、挑発をかける。
「焦らすなよ。…もうシたくて堪らない …俺を捩じ伏せてみろ」
「っ…ナメやがって…!!」
眦を決し、恐怖を吹き飛ばすようにスピリッツを発した驍氷が踏み込んだ。
レインに向かって疾駆するその両手に召喚された氷は直線に伸び、やがて剣となる。
「なら、こいつをブチ込んでやるよ…!」
振り翳された剣を見上げたレインが、陰惨な笑みをつくった。
二つの刃を躱しながら、刀身のぶん生じた僅かな隙に、後方に退くのではなく、自ら剣の攻撃範囲内、危険領域に踏み込む。
「な…っ」
予想外のレインの動きに声を漏らした驍氷の耳元に唇を寄せ、レインはぽつりと声を漏らす。
「2センチ、だ」
「……!?」
そう言い置いてから宙に舞い、くるりと身を反転させ、驍氷の正面に降り立つ。
「2センチ?どういう意味だ」
「…鈍いんだな」
驍氷の問いかけにレインは片眉を上げ、鼻でせせら笑う。
「俺は初めからそうしてた のに」
「黙れ…!!」
片方の剣をレインに向かって投げつけた驍氷が、その後を追うように身を躍らせ、連撃を仕掛ける。
攻撃に転じた時には既にもう一つの剣を召喚し、二つの剣によって巻き起こった剣圧で壁は抉れ、上空から降り落ちた氷柱によって地下空間が揺れ動く。
轟足で一気に距離を詰めた驍氷だったが、しかし妙な違和感を覚え、すぐに距離を離そうと後方に退く。
剣を構え直し、再び疾駆するも、違和感はますます強くなる。
おかしい。
さっきから、攻撃が流されている 。
自分の意思で放っているはずの攻撃は、レインの動きによって徐々に流れをつけられ、逆に彼を追うかたちになり、ついには、まるで思う侭に動かされているかのような錯覚に陥ってしまう。
「っ…くそ…!!」
驍氷の放った一撃を、レインが躱す。
彼の次なる動きを読もうと目を凝らしている内に、驍氷は漸く、彼の言う「2センチ」の意味を理解し、瞠目した――驚愕に震える驍氷の様子に気付いたレインが、その瞬間、一度も使っていなかった左手を伸ばした。
胸元を掴まれ、乱暴に引き寄せられた驍氷は恐怖に身を固める。
それは生物として、抗いようのない「畏怖」だった。
眼前に立つ男との絶対的な能力差を知ってしまった驍氷の脳は、彼の意志とは関係なく、もはや全神経に「ストップ」をかけた状態だろう。
逆に、射竦められた獲物を見据えるレインの瞳には、狂気にも似た剣呑さが滲んでいる。
「どうした…震えてるのか…?」
クッ、と、レインが喉を鳴らした。
失笑はやがて巧笑に変わり、しっとりとした声音で驍氷に囁きかける。
「そうだ。…俺はお前の攻撃を等間隔で 躱してた。…だってつまらないから。…ルールをつくったんだ…少しでも楽しくなるように」
唇と唇が触れ合う直前まで顔を寄せて、鼻先が擦れ合うところで舌を伸ばす。
驍氷の唇のかたちをなぞるように舌を滑らせ、そのままゆっくりと――唇を塞ぐ。
「っ…、…っ」
ちゅ、と音を立てて唇を啄み、また塞ぐ。
戦慄し、指先まで硬直させている驍氷の頬に右手を当て、それを下肢まで滑らせると、レインは彼の際どい部分を優しく愛撫し、首筋に舌を滑らせ、そのまま驍氷を壁に押しつける。
「言っただろう…?」
紅い瞳。
蠱惑的なそれが熱に潤み、熱い吐息が驍氷の耳元にかかった。
声を出すことすら出来ず、ただ為されるがままに翻弄されていた驍氷が茫然とレインを見つめた、刹那。
その眼前に、左手が差し出された。
「コレに気をつけろと」
レインの拳が驍氷の鳩尾に深く食い込み、鈍い音が響いた。
衝撃で壁がへこみ、くの字になった驍氷の顎を掌で突き上げると、宙に浮いたその身体めがけて跳躍する。
驍氷の腕を掴み、そのまま一気に地面に投げつけた。
「がぁぁああっ!!」
血飛沫が散り、そして轟音と共に地下空間が震動した。
ドーム型に沈んだ地面の中央に斃れている驍氷は、左肩に手を当て、激痛にもがいている――その肩から下にあったはずの腕はもがれ、鮮血が噴出している。
遅れて地面に下り立ったレインは、左手に握った驍氷の腕に目を向けると、彼に向かって平然とそれを投げ渡し、いつも通りの口調で語りかける。
「悪いな。力が入りすぎたようだ」
至近距離から放たれた強靭な氷の刃は、レインの身体をのみ込み、壁に突き刺さり、その衝撃によって地下空間が鳴動する。
ひび割れた天井の一部が崩落し、レインの頭上に降り落ちた。
イナズマ状の亀裂が入った壁は凍りつき、うず高く積もった氷の破片は驍氷の身長をはるかに超え、崩壊した天井から地上へと突き出さんばかりに堆積している。
「はぁ、……、っは」
肩で息をしながら、驍氷は両手の型をゆっくりと解き、そして下ろした。
立て続けに大技を放った為に、スピリッツを大量に消費した彼の身体は酸欠にも似た状態に陥り、激しい頭痛と眩暈、吐き気に襲われていた。
周辺は冷気塊による白い霧に包まれ、体感温度はマイナス数十度にまで下がっている。
これだけでも、対峙する能力者は体温を奪われ、血管が収縮し、急激なヒートショックを与えられることになる。
「はっ……。ハハ」
両手を膝につき、すこし前に屈んだ格好で息を整えながらも、驍氷は笑みを零していた。
レイン・エルの回復力はデータ上、驍氷をも上回る。
だが、全身を氷で覆ってしまえば話は別だ――温度降下ショックで即死、それを免れたとしても全身の細胞は破壊される。
「速攻でキめてやったぜ。…ザマぁみろ」
まだふらつく足で踵を返し、地下空間を見渡しながら、未だ姿を見せない「もう一人」に声をかける。
「護衛(ガード)の幹部、出てこいよ。…おまえのボスは死んだぜ。この通り――」
背後。
驍氷の背中に突き刺さり、心臓を鷲掴みにしたのは――
氷の中から尖鋭に放たれた、殺気。
「……っ!?」
ピシ、と硬い音が鳴った。
轟音と共に分厚い氷の壁を食い破り、躍り出た焔の龍が、氷柱を蹴散らしながら上空に昇って行く。
「っ…な…」
砕けた氷が雨となり降り注ぐ中から、龍に護られるようにして現れたレインが、いつものように嬌笑を浮かべた。
その白肌には傷一つなく、軍服にも乱れは無い。
それでも襟元を正しながら、数歩前に進み出ると、小さく首を傾いで驍氷を眇め見る。
「悪くない。…及第点だな」
「っ……なん、で…」
冷気の霧に包まれたレインが、ふと身震いした。
唇から白い吐息を漏らしながら、片手を上げ、パチンと指を鳴らす。
「Purgatory…裁きの檻を」
レインの身体から放出されたスピリッツが、熱風と共に地下空間を突き抜けた。
咆哮した龍が驍氷とレインの周囲に焔を吐き出すと、二人は円形の焔に囲まれ、火の檻の中に閉じ込められる。
灼熱の業火は驍氷の氷を瞬く間に溶かし、水さえも一瞬で気化させ、霧をも覆い尽くしていく。
「さて…今度は俺の番だな」
その圧倒的なスピリッツに愕然とし、声を出す事すら出来ずに佇立している驍氷を見遣ったレインは、不思議そうに瞳を瞬かせると、まるで子供のように純真に問いかける。
「なにをそんなに驚いている?…同じ能力だろう」
「……っ……ちがう」
レインが何気なく放った焔のエネルギー量は、驍氷が先程放ったスピリッツを明らかに上回っている。
焔を「龍」というかたちにまで具現化させ、且つ、それがまるで意思をもっているかのように主であるレインを護り、それでもまだ、レインの周囲には焔とスピリッツが滾々と湧き出している――枯れることのない泉のように。
なんなんだ、コイツは…!?
あまりにも自然にスピリッツを使いこなす彼を前にした驍氷の身体は硬直し、未知の生物に遭遇したかのような混乱に陥っていた。
「そんなに焔(これ)が恐いか?…仕方ないな」
驍氷の恐怖を嗅ぎ取ったレインは嘆息し、洒脱に肩を竦めて見せると、スピリッツの放出を止め、同時に焔を全て消し去った。
龍と火柱は熱風と共にうねりながら消失し、急激に温められた地下空間が軋んだ音を立てたが、後にはただ、対峙する二人だけが残される。
「っ……どういう、つもりだ」
未だ潤いの戻らぬ喉から漸く掠れた声を出し、驍氷はレインを睨めつける。
風に乱された黒髪を片手で丁寧に直しつつ、平然とした様子で首を傾げるレインの態度に苛立ち、驍氷は更に声を荒げて糺す。
「なんのつもりだ…!!手加減でもしてやろうってコトか!?」
「……」
沈黙を挟み、驍氷を賞玩していたレインが、ふと口角を上げた。
始めて見せた彼の「侮蔑」に、驍氷は我知らず息を呑む。
「―― そうだ」
はっきりと肯定し、レインは瞳を細める。
「俺は焔を使わない。それに…そうだな…」
左手を顔の辺りまで持ち上げて握り拳をつくると、確認するように驍氷を見遣り、言い放つ。
「防御にも攻撃にも…コレしか使わない。おまえは俺の左手にだけ神経を集中させればいい。簡単だろう?」
「…なん、だと?」
「早くしろ。…来いと言ってるんだ」
艶っぽく囁き、レインは左手を驍氷に差し出すと、人差し指と中指を二度折り曲げ、挑発をかける。
「焦らすなよ。…もう
「っ…ナメやがって…!!」
眦を決し、恐怖を吹き飛ばすようにスピリッツを発した驍氷が踏み込んだ。
レインに向かって疾駆するその両手に召喚された氷は直線に伸び、やがて剣となる。
「なら、こいつをブチ込んでやるよ…!」
振り翳された剣を見上げたレインが、陰惨な笑みをつくった。
二つの刃を躱しながら、刀身のぶん生じた僅かな隙に、後方に退くのではなく、自ら剣の攻撃範囲内、危険領域に踏み込む。
「な…っ」
予想外のレインの動きに声を漏らした驍氷の耳元に唇を寄せ、レインはぽつりと声を漏らす。
「2センチ、だ」
「……!?」
そう言い置いてから宙に舞い、くるりと身を反転させ、驍氷の正面に降り立つ。
「2センチ?どういう意味だ」
「…鈍いんだな」
驍氷の問いかけにレインは片眉を上げ、鼻でせせら笑う。
「俺は
「黙れ…!!」
片方の剣をレインに向かって投げつけた驍氷が、その後を追うように身を躍らせ、連撃を仕掛ける。
攻撃に転じた時には既にもう一つの剣を召喚し、二つの剣によって巻き起こった剣圧で壁は抉れ、上空から降り落ちた氷柱によって地下空間が揺れ動く。
轟足で一気に距離を詰めた驍氷だったが、しかし妙な違和感を覚え、すぐに距離を離そうと後方に退く。
剣を構え直し、再び疾駆するも、違和感はますます強くなる。
おかしい。
さっきから、攻撃が
自分の意思で放っているはずの攻撃は、レインの動きによって徐々に流れをつけられ、逆に彼を追うかたちになり、ついには、まるで思う侭に動かされているかのような錯覚に陥ってしまう。
「っ…くそ…!!」
驍氷の放った一撃を、レインが躱す。
彼の次なる動きを読もうと目を凝らしている内に、驍氷は漸く、彼の言う「2センチ」の意味を理解し、瞠目した――驚愕に震える驍氷の様子に気付いたレインが、その瞬間、一度も使っていなかった左手を伸ばした。
胸元を掴まれ、乱暴に引き寄せられた驍氷は恐怖に身を固める。
それは生物として、抗いようのない「畏怖」だった。
眼前に立つ男との絶対的な能力差を知ってしまった驍氷の脳は、彼の意志とは関係なく、もはや全神経に「ストップ」をかけた状態だろう。
逆に、射竦められた獲物を見据えるレインの瞳には、狂気にも似た剣呑さが滲んでいる。
「どうした…震えてるのか…?」
クッ、と、レインが喉を鳴らした。
失笑はやがて巧笑に変わり、しっとりとした声音で驍氷に囁きかける。
「そうだ。…俺はお前の攻撃を
唇と唇が触れ合う直前まで顔を寄せて、鼻先が擦れ合うところで舌を伸ばす。
驍氷の唇のかたちをなぞるように舌を滑らせ、そのままゆっくりと――唇を塞ぐ。
「っ…、…っ」
ちゅ、と音を立てて唇を啄み、また塞ぐ。
戦慄し、指先まで硬直させている驍氷の頬に右手を当て、それを下肢まで滑らせると、レインは彼の際どい部分を優しく愛撫し、首筋に舌を滑らせ、そのまま驍氷を壁に押しつける。
「言っただろう…?」
紅い瞳。
蠱惑的なそれが熱に潤み、熱い吐息が驍氷の耳元にかかった。
声を出すことすら出来ず、ただ為されるがままに翻弄されていた驍氷が茫然とレインを見つめた、刹那。
その眼前に、左手が差し出された。
「コレに気をつけろと」
レインの拳が驍氷の鳩尾に深く食い込み、鈍い音が響いた。
衝撃で壁がへこみ、くの字になった驍氷の顎を掌で突き上げると、宙に浮いたその身体めがけて跳躍する。
驍氷の腕を掴み、そのまま一気に地面に投げつけた。
「がぁぁああっ!!」
血飛沫が散り、そして轟音と共に地下空間が震動した。
ドーム型に沈んだ地面の中央に斃れている驍氷は、左肩に手を当て、激痛にもがいている――その肩から下にあったはずの腕はもがれ、鮮血が噴出している。
遅れて地面に下り立ったレインは、左手に握った驍氷の腕に目を向けると、彼に向かって平然とそれを投げ渡し、いつも通りの口調で語りかける。
「悪いな。力が入りすぎたようだ」
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