page07
SCENE SECTION
01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 /
06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人
武装化した組織ほど被害は甚大で、元々はレインの命を狙って送り込まれた刺客だった彼がSNIPERに潜入したとき、業界屈指の防御システムで護られていたベゼスタ本部は防衛機能を全てクラッシュされ、破壊兵器のコントロール、通信回路までを奪われ、建物半壊という壊滅的なダメージを被った。
「やたら寒いと思ったら…。空調が壊れてやがる」
薄暗い照明が時折切れては点き、冷えきった灰色の空間をチカチカと照らしている。
ロシア人とはつくづく気が合いそうもないと思いつつ、イヴァはふと足を止めると、わざとらしく溜息をつき、肩を落とした。
「あぁ、なんてこった」
額に片手を当て、大袈裟に落胆を表現する。
「俺としたことが。気づかなかったぜ」
背後。
闇と同化していたのは、黒のオーバーオールにボディ・アーマー、軽装備だがライフルを手にした男たち、7人。
イヴァを囲むようにして素早くライフルを構え、数人が一斉にウェポンライトを照らした。
強烈な白光は、ただの照射目的で使用されるものではない。
暗闇に慣れた目は光に敏感になり、大光量のフラッシュはその場に蹲るほどのダメージに変わる。
だが、中央政府直下DEATH SQUAD(デス・スクアッド)の精鋭部隊、FATA MORGANA(ファタ・モルガナ)に所属していたイヴァは、当然ながら光の防衛術を心得ている。
直立不動で男たちに視線を流すと、ビビッド・ピンクの瞳を楽しそうに瞬かせた。
「AK-74にAN-94。サイレンサーつき9ミリ。弾薬にナイフ。…クルイーク…レイドヴィキ出身の連中は、普段からそんな装備ぶら下げて歩いてンのか。肩凝っちまいそうだな」
クルイークは破壊工作と偵察をおもな任務とする、レベルが極めて高いロシアの特殊部隊のことで、従手格闘から無音殺人、破壊工作、爆破、狙撃、偵察など、あらゆる状況に対応できるよう訓練された、戦闘のエキスパートだ。
レイドヴィキは「襲撃隊」の意で、クルイーク部隊のひとつ。
イヴァの腕のエンブレムを見た1人が声を上げた。
「紅龍(ブラッディ・ドラゴン)…! SNIPER(スナイパー)か」
あまり上手とは言えないものの、聞き取れる程度の英語。
「天下のナイプがコソ泥の真似か?…ここに何の用だ」
じっと男を見つめていたイヴァが剽げた仕草で首を傾げた。
「ロシアのエリート兵が、こんな地下でなにやってンのかなって思ってさ。…あ〜…そっか」
イヴァが口角を吊り上げる。
「そうだった、忘れてたぜ…。ここはたしか、死に場所を逃しちまった連中 のハキダマリだったっけな。…安心しろよ、ロシア政府から害虫駆除のご依頼を受けたワケじゃねぇ」
「貴様…」
「ガッカリか?でもな」
向けられた7つの銃口。
それはすでに、彼の所有物(モノ)だ。
「おまえらが今見てンのは――――死神ってヤツだ」
放たれようとした弾丸はイヴァのコントロールを受け銃口に戻り、銃身に高圧がかかる。
鋭い銃声は爆発音に変わった。
コンクリートに響いたそれが消えるより前に、悲鳴と混じり、硝煙の中に鮮血が散る。
「ぐぁああっ!!」
「ぎゃっ……!!」
大音声を上げて倒れたのは3人。
持っていた銃が暴発、あるいは爆発し、指や手を吹き飛ばされ、血飛沫を上げながら転げまわっている。
攻撃態勢を崩さないものの、残された4人は動揺を隠せない。
あらゆるイレギュラーに対応できるよう訓練されてきた彼らだが、イヴァが起こした奇怪な現象に対処する術は見つからない。
恐怖は思考を鈍らせ、混乱は判断を過たせる。
「き、貴様…っ、な、なにをした」
「……」
濃厚な血臭はイヴァを昂ぶらせるが、彼らの反応はイヴァの望むものではなかった。
「愉しくないぜ、こーいう終わり方は。…そうだろ?」
「っ…ひ」
ゆっくりと縮まる距離…4人は凍りついたように動かない。
血の匂い、火薬の匂い。恐怖にひきつった相手の顔。
興奮するはずの条件は揃っている。
が――――。
こんなモンじゃねぇんだ。
――――俺が欲しいのは。
「死にたくねぇ、助けてくれ…とか言ってみるか?…やめとけよ」
そう言って男の顔を掌で覆うと、軽々と掴み上げる。
遁走を試みた他の3人の銃が、爆発音と共に砕け散った。
闇は閃光に照らされ、赤く彩られる。
自若としたイヴァの表情に躊躇は無い。
それが彼らのルールであり、バトル・フィールドに立つ者全てに課せられたリスクだからだ。
一度サインした名前は消せない。
「ひとつ穴の狢…情けが仇ってな。俺たちのセカイじゃ生き残ることが全てだろーが…それが必ずしもシアワセとイコールってワケじゃない。…そうだろ?」
硝煙のなかで畏怖を募らせ、凍りつく男を掴み上げたまま、イヴァが笑んだ。
武装化した組織ほど被害は甚大で、元々はレインの命を狙って送り込まれた刺客だった彼がSNIPERに潜入したとき、業界屈指の防御システムで護られていたベゼスタ本部は防衛機能を全てクラッシュされ、破壊兵器のコントロール、通信回路までを奪われ、建物半壊という壊滅的なダメージを被った。
「やたら寒いと思ったら…。空調が壊れてやがる」
薄暗い照明が時折切れては点き、冷えきった灰色の空間をチカチカと照らしている。
ロシア人とはつくづく気が合いそうもないと思いつつ、イヴァはふと足を止めると、わざとらしく溜息をつき、肩を落とした。
「あぁ、なんてこった」
額に片手を当て、大袈裟に落胆を表現する。
「俺としたことが。気づかなかったぜ」
背後。
闇と同化していたのは、黒のオーバーオールにボディ・アーマー、軽装備だがライフルを手にした男たち、7人。
イヴァを囲むようにして素早くライフルを構え、数人が一斉にウェポンライトを照らした。
強烈な白光は、ただの照射目的で使用されるものではない。
暗闇に慣れた目は光に敏感になり、大光量のフラッシュはその場に蹲るほどのダメージに変わる。
だが、中央政府直下DEATH SQUAD(デス・スクアッド)の精鋭部隊、FATA MORGANA(ファタ・モルガナ)に所属していたイヴァは、当然ながら光の防衛術を心得ている。
直立不動で男たちに視線を流すと、ビビッド・ピンクの瞳を楽しそうに瞬かせた。
「AK-74にAN-94。サイレンサーつき9ミリ。弾薬にナイフ。…クルイーク…レイドヴィキ出身の連中は、普段からそんな装備ぶら下げて歩いてンのか。肩凝っちまいそうだな」
クルイークは破壊工作と偵察をおもな任務とする、レベルが極めて高いロシアの特殊部隊のことで、従手格闘から無音殺人、破壊工作、爆破、狙撃、偵察など、あらゆる状況に対応できるよう訓練された、戦闘のエキスパートだ。
レイドヴィキは「襲撃隊」の意で、クルイーク部隊のひとつ。
イヴァの腕のエンブレムを見た1人が声を上げた。
「紅龍(ブラッディ・ドラゴン)…! SNIPER(スナイパー)か」
あまり上手とは言えないものの、聞き取れる程度の英語。
「天下のナイプがコソ泥の真似か?…ここに何の用だ」
じっと男を見つめていたイヴァが剽げた仕草で首を傾げた。
「ロシアのエリート兵が、こんな地下でなにやってンのかなって思ってさ。…あ〜…そっか」
イヴァが口角を吊り上げる。
「そうだった、忘れてたぜ…。ここはたしか、
「貴様…」
「ガッカリか?でもな」
向けられた7つの銃口。
それはすでに、彼の所有物(モノ)だ。
「おまえらが今見てンのは――――死神ってヤツだ」
放たれようとした弾丸はイヴァのコントロールを受け銃口に戻り、銃身に高圧がかかる。
鋭い銃声は爆発音に変わった。
コンクリートに響いたそれが消えるより前に、悲鳴と混じり、硝煙の中に鮮血が散る。
「ぐぁああっ!!」
「ぎゃっ……!!」
大音声を上げて倒れたのは3人。
持っていた銃が暴発、あるいは爆発し、指や手を吹き飛ばされ、血飛沫を上げながら転げまわっている。
攻撃態勢を崩さないものの、残された4人は動揺を隠せない。
あらゆるイレギュラーに対応できるよう訓練されてきた彼らだが、イヴァが起こした奇怪な現象に対処する術は見つからない。
恐怖は思考を鈍らせ、混乱は判断を過たせる。
「き、貴様…っ、な、なにをした」
「……」
濃厚な血臭はイヴァを昂ぶらせるが、彼らの反応はイヴァの望むものではなかった。
「愉しくないぜ、こーいう終わり方は。…そうだろ?」
「っ…ひ」
ゆっくりと縮まる距離…4人は凍りついたように動かない。
血の匂い、火薬の匂い。恐怖にひきつった相手の顔。
興奮するはずの条件は揃っている。
が――――。
こんなモンじゃねぇんだ。
――――俺が欲しいのは。
「死にたくねぇ、助けてくれ…とか言ってみるか?…やめとけよ」
そう言って男の顔を掌で覆うと、軽々と掴み上げる。
遁走を試みた他の3人の銃が、爆発音と共に砕け散った。
闇は閃光に照らされ、赤く彩られる。
自若としたイヴァの表情に躊躇は無い。
それが彼らのルールであり、バトル・フィールドに立つ者全てに課せられたリスクだからだ。
一度サインした名前は消せない。
「ひとつ穴の狢…情けが仇ってな。俺たちのセカイじゃ生き残ることが全てだろーが…それが必ずしもシアワセとイコールってワケじゃない。…そうだろ?」
硝煙のなかで畏怖を募らせ、凍りつく男を掴み上げたまま、イヴァが笑んだ。
BACK NEXT
Copyright LadyBacker All Rights Reserved./Designed by Rosenmonat