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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
いつものように建長寺境内の駐車場にバイクを停めた一哉は、走行中に乱れた髪を手櫛で適当に直していた。
通りの向こう側で手を振る沙羅の姿を見つけた途端、彼の顔に、自然と温かい笑みが零れ出る。
――沙羅といる時の俺は、まるで自分じゃないみたいだ…。
そう思い、一哉はふと顔を曇らせた。
彼女と一緒に仕事をするようになってから、一哉の戸惑いは以前にも増して強くなり、最近では、動揺を表出してしまいそうな時すらある。
――仕事に感情なんて要らない。
――なのに、沙羅と一緒にいると…コントロールを失う。
聯を失望させる事。
それだけは絶対にしたくないと、彼は思う。
一哉にとって、聯は大切な「父」であり、「師」であり…否、そんな言葉では足りない。
――「絶対」だ。
「一哉っ」
思考に耽っていた一哉に、沙羅が飛びついた。
ふんわりと漂う女の子らしい香りは香水の類ではなく、石鹸やシャンプーの匂いだ。
「…沙羅」
彼女を抱き返す一哉の腕に力が入る。
――どうしたらいい。
――沙羅はきっと、聯とは真逆の方向に向かう。
――その時、俺は…。
何やら物憂げな様子の一哉を見つめ、沙羅は忌憚なく問いかける。
「一哉? どうしたの」
「……」
ただ強く、沙羅を抱き締めて。
彼女から見えない位置で、一哉は微苦笑した。
「何でもねぇよ」
あれから一週間が経過していた。
短期の休暇を消化した二人が久々にガーディアン東京支部のエントランスを潜(くぐ)ると、そこはいつものように、忙しなく通路を行き交う人々で溢れていた。
軍服、白衣、スーツ、警備服。
目まぐるしく往来する人々は、周囲の人間など気にもかけていないようだ。
「休暇なんて、俺には要らなかったんだけどな」
そう呟きながら、一哉が転送装置に手をかけた。
チラリと沙羅を横目にし、彼女が「この話題」を切り出しやすいよう、彼の名前を口にする。
「ま、レインも珍しく休暇取ってたみたいだけど。会議には幹部が出て来てたらしいぜ」
床に現れる円陣。
日本のアニメに影響を受けたらしい開発者が、アニメに出てきた魔法陣を模倣して造ったという最新の移動装置は、緑と黄の微光を放っている。
直径1メートルの円陣に乗り、中心部にある円柱型パネルで階とフロアを指定すれば、その場所まで一瞬で運んでくれる。
「…一哉」
乗り込んだところで、沙羅がおずおずと口を開いた。
後に続くであろう彼女の言葉を、一哉はもう予測している。
この一週間、何度も同じ質問をされ、その度に「知らねぇ」と、素っ気ない返事しかしなかった。
一哉としては実際知らなかったし興味も無かったのだが、つい数刻前、聯(ルエン)と電話をした時に、「彼」に関する情報を耳にしてしまったのだ。
――あんなヤツ、どうだっていいけど。
――こんな事で沙羅の気を揉ませるのも…可哀想だし。
一哉は一人合点して頷くと、「彼」の容態を彼女に報(しら)せた。
「スナイパーのエル総帥はご無事。めでたく復帰したってよ。すげぇ元気だって、聯が言ってたぜ」
耳の奥がキーンと鳴り、二人は移動の際に起きる一時的な浮遊感に包まれた。
隆盛のオフィスがある最上階に着いた途端、沙羅は一哉にとびっきりの笑顔を向け、そして「ありがとう」と言った。
一哉は怪訝な表情を浮かべたが、きまりが悪そうに髪を掻き上げると、沙羅の肩をポンと叩き、早足で隆盛のオフィスルームへと向かって行った。
いつものように建長寺境内の駐車場にバイクを停めた一哉は、走行中に乱れた髪を手櫛で適当に直していた。
通りの向こう側で手を振る沙羅の姿を見つけた途端、彼の顔に、自然と温かい笑みが零れ出る。
――沙羅といる時の俺は、まるで自分じゃないみたいだ…。
そう思い、一哉はふと顔を曇らせた。
彼女と一緒に仕事をするようになってから、一哉の戸惑いは以前にも増して強くなり、最近では、動揺を表出してしまいそうな時すらある。
――仕事に感情なんて要らない。
――なのに、沙羅と一緒にいると…コントロールを失う。
聯を失望させる事。
それだけは絶対にしたくないと、彼は思う。
一哉にとって、聯は大切な「父」であり、「師」であり…否、そんな言葉では足りない。
――「絶対」だ。
「一哉っ」
思考に耽っていた一哉に、沙羅が飛びついた。
ふんわりと漂う女の子らしい香りは香水の類ではなく、石鹸やシャンプーの匂いだ。
「…沙羅」
彼女を抱き返す一哉の腕に力が入る。
――どうしたらいい。
――沙羅はきっと、聯とは真逆の方向に向かう。
――その時、俺は…。
何やら物憂げな様子の一哉を見つめ、沙羅は忌憚なく問いかける。
「一哉? どうしたの」
「……」
ただ強く、沙羅を抱き締めて。
彼女から見えない位置で、一哉は微苦笑した。
「何でもねぇよ」
あれから一週間が経過していた。
短期の休暇を消化した二人が久々にガーディアン東京支部のエントランスを潜(くぐ)ると、そこはいつものように、忙しなく通路を行き交う人々で溢れていた。
軍服、白衣、スーツ、警備服。
目まぐるしく往来する人々は、周囲の人間など気にもかけていないようだ。
「休暇なんて、俺には要らなかったんだけどな」
そう呟きながら、一哉が転送装置に手をかけた。
チラリと沙羅を横目にし、彼女が「この話題」を切り出しやすいよう、彼の名前を口にする。
「ま、レインも珍しく休暇取ってたみたいだけど。会議には幹部が出て来てたらしいぜ」
床に現れる円陣。
日本のアニメに影響を受けたらしい開発者が、アニメに出てきた魔法陣を模倣して造ったという最新の移動装置は、緑と黄の微光を放っている。
直径1メートルの円陣に乗り、中心部にある円柱型パネルで階とフロアを指定すれば、その場所まで一瞬で運んでくれる。
「…一哉」
乗り込んだところで、沙羅がおずおずと口を開いた。
後に続くであろう彼女の言葉を、一哉はもう予測している。
この一週間、何度も同じ質問をされ、その度に「知らねぇ」と、素っ気ない返事しかしなかった。
一哉としては実際知らなかったし興味も無かったのだが、つい数刻前、聯(ルエン)と電話をした時に、「彼」に関する情報を耳にしてしまったのだ。
――あんなヤツ、どうだっていいけど。
――こんな事で沙羅の気を揉ませるのも…可哀想だし。
一哉は一人合点して頷くと、「彼」の容態を彼女に報(しら)せた。
「スナイパーのエル総帥はご無事。めでたく復帰したってよ。すげぇ元気だって、聯が言ってたぜ」
耳の奥がキーンと鳴り、二人は移動の際に起きる一時的な浮遊感に包まれた。
隆盛のオフィスがある最上階に着いた途端、沙羅は一哉にとびっきりの笑顔を向け、そして「ありがとう」と言った。
一哉は怪訝な表情を浮かべたが、きまりが悪そうに髪を掻き上げると、沙羅の肩をポンと叩き、早足で隆盛のオフィスルームへと向かって行った。
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