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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
ブラッドと出逢えたあの日の記憶は、レインにとって最も大切で、幸せなもの。
あの時彼と出逢っていなかったら…首を振る。
そんな事、考えたくもない。
あれから6年。
ブラッドはどんな時でも、いつも傍に居てくれた。
幼い自分とブラッドの姿が、徐々に遠ざかって行く。
目覚めたら忘れてしまう。
きっと…研究所での、あの忌まわしい記憶は。
いつだってそうだ。
目覚めるまでは覚えているのに。
レインはゆっくりと目を閉じた。
行かなくては。
――彼が待っている。
たとえ、凄惨な過去の記憶が消えてしまっても…
ブラッドやSNIPERの仲間達、沢山の人間と出逢った記憶は…自分が築いた大切なものは、何も消えない。
未来は、そうして出来ていくものだと。
いつか、気がつく時がくるから。
「樹さん。ちょっといいかしら」
担任の早川裕子(はやかわ・ゆうこ)に背後から呼び止められ、沙羅は小さく肩を震わせた。
移動教室前の休み時間。
妙子達と一緒に音楽室へ向かおうとしていた沙羅は、ぎこちなく裕子の方へ顔を向ける。
今日の間のどこかで裕子に呼び掛けられるであろう事を予期し、そして、その後告げられるだろう忠告さえ見越していたが、沙羅はずっと、彼女の言葉に対する答えを用意出来ずにいた。
結局何も思い浮かばないまま、小さく頷く。
「はい、先生」
突然の呼び掛けに僅かな懸念を抱き、困惑気味に視線を交わす妙子達に、沙羅は笑顔を見せる。
「先に行ってて。すぐ追いかけるね」
「う、うん…」
思案げに振り返りながらも妙子達は遠ざかって行き、彼女達が突き当たりを曲がったのを確認してから、裕子は改めて沙羅を正視した。
「樹さん…身体は大丈夫なの」
今日まで一週間欠席していた沙羅は、先月も2週間学校を休んだ。
私立の中学校である成和女学園は、基本的には欠席を認めない方針を執っている。
クラスの出席率は全学年ほぼ100%で、そのパーセンテージこそが、社会に適合できる教育を行っているという、学園のステータスでもある。
――つまり、そう。
――あたしって、問題児…なんだよね。
新学期以来、裕子が担当している1―Bのクラスで、欠席という瑕瑾(かきん)を残したのは沙羅だけだった。
しかも、見事な長期欠席。
「お家に電話しても、誰もいらっしゃらないから。…心配したのよ」
優しい声音でそう言いつつも、裕子は内心、この小さな少女に、ほとほと困り果てていた。
特に、素行が悪いわけでもない。
友達もいるようだし、成績は抜群にいい。
体育が苦手で苛められる、もしくは劣等感を抱いて登校拒否になる子供は稀にいるが、彼女の場合は身体が弱いとかで、殆どは見学。
たまに授業に参加している姿を目にしても、他の少女達と並ぶような運動神経で、特にこれといった印象は残らなかった。
沙羅は、他の少女達と交ざって大人しく行動するタイプの生徒だ。
日常の態度は模範的で、裕子は彼女を好感の持てる少女だと認識している。
しかし、他の生徒には出席に関して厳しく指導している手前、彼女にもやはり規則というものを再確認させ、念を押しておかなくてはならない。
「すみません。義父は…忙しくて」
意気消沈し、項垂れる沙羅の顔には、ありありと反省の色が浮かんでいる。
強く詰責(きっせき)するのも可哀想に思え、裕子は嘆息した。
「…ええ。樹さんのお家の事情は解ってるの。…辛いわね。だけどね、その…。やっぱり、これだけ長いお休みが毎月ってなっちゃうと。校長先生からも、御心配いただいているのよ」
「…すみません」
それっきり、沙羅はじっと俯いたままだった。
ブラッドと出逢えたあの日の記憶は、レインにとって最も大切で、幸せなもの。
あの時彼と出逢っていなかったら…首を振る。
そんな事、考えたくもない。
あれから6年。
ブラッドはどんな時でも、いつも傍に居てくれた。
幼い自分とブラッドの姿が、徐々に遠ざかって行く。
目覚めたら忘れてしまう。
きっと…研究所での、あの忌まわしい記憶は。
いつだってそうだ。
目覚めるまでは覚えているのに。
レインはゆっくりと目を閉じた。
行かなくては。
――彼が待っている。
たとえ、凄惨な過去の記憶が消えてしまっても…
ブラッドやSNIPERの仲間達、沢山の人間と出逢った記憶は…自分が築いた大切なものは、何も消えない。
未来は、そうして出来ていくものだと。
いつか、気がつく時がくるから。
「樹さん。ちょっといいかしら」
担任の早川裕子(はやかわ・ゆうこ)に背後から呼び止められ、沙羅は小さく肩を震わせた。
移動教室前の休み時間。
妙子達と一緒に音楽室へ向かおうとしていた沙羅は、ぎこちなく裕子の方へ顔を向ける。
今日の間のどこかで裕子に呼び掛けられるであろう事を予期し、そして、その後告げられるだろう忠告さえ見越していたが、沙羅はずっと、彼女の言葉に対する答えを用意出来ずにいた。
結局何も思い浮かばないまま、小さく頷く。
「はい、先生」
突然の呼び掛けに僅かな懸念を抱き、困惑気味に視線を交わす妙子達に、沙羅は笑顔を見せる。
「先に行ってて。すぐ追いかけるね」
「う、うん…」
思案げに振り返りながらも妙子達は遠ざかって行き、彼女達が突き当たりを曲がったのを確認してから、裕子は改めて沙羅を正視した。
「樹さん…身体は大丈夫なの」
今日まで一週間欠席していた沙羅は、先月も2週間学校を休んだ。
私立の中学校である成和女学園は、基本的には欠席を認めない方針を執っている。
クラスの出席率は全学年ほぼ100%で、そのパーセンテージこそが、社会に適合できる教育を行っているという、学園のステータスでもある。
――つまり、そう。
――あたしって、問題児…なんだよね。
新学期以来、裕子が担当している1―Bのクラスで、欠席という瑕瑾(かきん)を残したのは沙羅だけだった。
しかも、見事な長期欠席。
「お家に電話しても、誰もいらっしゃらないから。…心配したのよ」
優しい声音でそう言いつつも、裕子は内心、この小さな少女に、ほとほと困り果てていた。
特に、素行が悪いわけでもない。
友達もいるようだし、成績は抜群にいい。
体育が苦手で苛められる、もしくは劣等感を抱いて登校拒否になる子供は稀にいるが、彼女の場合は身体が弱いとかで、殆どは見学。
たまに授業に参加している姿を目にしても、他の少女達と並ぶような運動神経で、特にこれといった印象は残らなかった。
沙羅は、他の少女達と交ざって大人しく行動するタイプの生徒だ。
日常の態度は模範的で、裕子は彼女を好感の持てる少女だと認識している。
しかし、他の生徒には出席に関して厳しく指導している手前、彼女にもやはり規則というものを再確認させ、念を押しておかなくてはならない。
「すみません。義父は…忙しくて」
意気消沈し、項垂れる沙羅の顔には、ありありと反省の色が浮かんでいる。
強く詰責(きっせき)するのも可哀想に思え、裕子は嘆息した。
「…ええ。樹さんのお家の事情は解ってるの。…辛いわね。だけどね、その…。やっぱり、これだけ長いお休みが毎月ってなっちゃうと。校長先生からも、御心配いただいているのよ」
「…すみません」
それっきり、沙羅はじっと俯いたままだった。
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