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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
彼と出逢ったあの時の陽光が、レインを照らしている。
あの日。
研究所で覚醒し、自分の名前や境遇さえも解らぬまま、ただ恐怖に駆られ、夢中で逃げ出した…あの日。
レインはこの門の前に立ち、そして…。
真夏の太陽。
輝くようなプラチナ・ブロンド。
燦々(さんさん)と輝く太陽を背負い、ワイルドに口角を吊り上げた彼は、門前に立ち尽くしていたレインにこう言った。
「お前すごいな。一人で全員殺ったのか」
大勢の男達に囲まれ、襲われて…
自発的に出現した焔がレインの全身を覆い、そして、いつの間にか彼等の命を奪っていた。
野党達の返り血を浴びたレインは、全身血塗(ちまみ)れの状態だった。
しかし、そんなレインの方へ大股で歩み寄ってきた彼は、別段臆することもなく、ただ磊落(らいらく)に破顔一笑する。
「そんな下着みたいなカッコでスラムを歩いてちゃ、襲われて当然だ。…まぁ、レイプされる心配はなさそうだけどな」
レインは俯き、焔を放った自分の両手をしげしげと見つめた。
「…火が出た」
初めて聞いた自分の声だった。
急な頭痛と眩暈に襲われ、その場にペタンと膝をついた。
――Reign.…L
レイン…俺の…名前…?
彼は悠々と焼死体の間を通り抜け、レインの肩に触れた。
その手は大きくて、心地よくて…とても温かかった。
レインは及び腰になりながらも顔を上げ、じっと彼を見つめる。
そうして、思った。
――やっと逢えたと。
どうしてそんな風に思ったのか。
それは、今現在のレインにも解らない。
「ここにいるのは、みんな訳ありの連中ばっかりだ。言及する気はないから安心しろ」
「……」
何故だか強い郷愁(きょうしゅう)に駆られ、胸が熱くなった。
泣きそうにさえなって、どうしていいか解らずに、気付けばレインは立ち上がり、彼の服をギュッと掴んでいた。
そして、彼の鳩尾(みぞおち)あたりにボフッと顔を埋める。
それは何とも不器用な、彼なりの、勇気を振り絞った愛情表現だったが、第三者が見れば恐らく、ブラッドに頭から突撃したようにしか見えなかっただろう。
「ッ…! おい…?」
ブラッドは困惑しつつも、膨らみの無いそびやかな身体に、そっと手を伸ばす。
レインの外見は中性的で、どちらとも判断しかねていたところだったが、密接した感触で、この小さな子供が男であることを確認する。
レインの柔らかい黒髪に優しく触れる。
すると彼は紅い瞳で、恐る恐るブラッドを見上げた。
そのまま暫時、見つめ合い…
彼の可憐な容貌に魅入られてしまっていた事に気付いたブラッドは、ぎこちなく視線を逸らすと、微かに頬を紅潮させる。
――この子は、人間じゃないのかもしれない。
そんな愚考が脳裏を過ぎったが、ブラッドは自嘲混じりにそれを払拭し、とりあえず、彼に何かを言おうと口を開いた。
そこでようやく、彼の名前を知らない事に思い至る。
照れ臭さ故のぶっきらぼうな口調で、ブラッドはごく短く、彼に名を尋ねる。
「……。名前は?」
髪を乱し上げ、付言する。
「俺はブラッドだ。…ブラッド・ジラ」
この頃のブラッドの英語は、今現在よりもスペイン訛りが顕著だった。
Rの発音がやや強い彼流の自己紹介を聞いたレインは、面映ゆそうに瞳を細め、顔を赤らめた。
それは浮き立つような、不思議な高揚感によるものだったのだが、この時のレインには、その感情をどう表現し、どのように彼に伝えればいいのかが解らなかった。
何度も口を開きかけるが上手く言葉を発せられず、数分間に及び悪戦苦闘を繰り返した末、ようやく絞り出したハスキーな声で、途切れ途切れに自分の名前を告げる。
「…レイン…エル。…だと…思う」
彼の答えを辛抱強く待っていたブラッドは、クシャクシャとレインの髪を撫でると、口元を少し緩めて言った。
「レインか。…いい名だな」
それ以降、ブラッドはレインの事を詮索しなかった。
その何でもない風な気遣いが本当に嬉しかった事を、レインは今でも覚えている。
彼と出逢ったあの時の陽光が、レインを照らしている。
あの日。
研究所で覚醒し、自分の名前や境遇さえも解らぬまま、ただ恐怖に駆られ、夢中で逃げ出した…あの日。
レインはこの門の前に立ち、そして…。
真夏の太陽。
輝くようなプラチナ・ブロンド。
燦々(さんさん)と輝く太陽を背負い、ワイルドに口角を吊り上げた彼は、門前に立ち尽くしていたレインにこう言った。
「お前すごいな。一人で全員殺ったのか」
大勢の男達に囲まれ、襲われて…
自発的に出現した焔がレインの全身を覆い、そして、いつの間にか彼等の命を奪っていた。
野党達の返り血を浴びたレインは、全身血塗(ちまみ)れの状態だった。
しかし、そんなレインの方へ大股で歩み寄ってきた彼は、別段臆することもなく、ただ磊落(らいらく)に破顔一笑する。
「そんな下着みたいなカッコでスラムを歩いてちゃ、襲われて当然だ。…まぁ、レイプされる心配はなさそうだけどな」
レインは俯き、焔を放った自分の両手をしげしげと見つめた。
「…火が出た」
初めて聞いた自分の声だった。
急な頭痛と眩暈に襲われ、その場にペタンと膝をついた。
――Reign.…L
レイン…俺の…名前…?
彼は悠々と焼死体の間を通り抜け、レインの肩に触れた。
その手は大きくて、心地よくて…とても温かかった。
レインは及び腰になりながらも顔を上げ、じっと彼を見つめる。
そうして、思った。
――やっと逢えたと。
どうしてそんな風に思ったのか。
それは、今現在のレインにも解らない。
「ここにいるのは、みんな訳ありの連中ばっかりだ。言及する気はないから安心しろ」
「……」
何故だか強い郷愁(きょうしゅう)に駆られ、胸が熱くなった。
泣きそうにさえなって、どうしていいか解らずに、気付けばレインは立ち上がり、彼の服をギュッと掴んでいた。
そして、彼の鳩尾(みぞおち)あたりにボフッと顔を埋める。
それは何とも不器用な、彼なりの、勇気を振り絞った愛情表現だったが、第三者が見れば恐らく、ブラッドに頭から突撃したようにしか見えなかっただろう。
「ッ…! おい…?」
ブラッドは困惑しつつも、膨らみの無いそびやかな身体に、そっと手を伸ばす。
レインの外見は中性的で、どちらとも判断しかねていたところだったが、密接した感触で、この小さな子供が男であることを確認する。
レインの柔らかい黒髪に優しく触れる。
すると彼は紅い瞳で、恐る恐るブラッドを見上げた。
そのまま暫時、見つめ合い…
彼の可憐な容貌に魅入られてしまっていた事に気付いたブラッドは、ぎこちなく視線を逸らすと、微かに頬を紅潮させる。
――この子は、人間じゃないのかもしれない。
そんな愚考が脳裏を過ぎったが、ブラッドは自嘲混じりにそれを払拭し、とりあえず、彼に何かを言おうと口を開いた。
そこでようやく、彼の名前を知らない事に思い至る。
照れ臭さ故のぶっきらぼうな口調で、ブラッドはごく短く、彼に名を尋ねる。
「……。名前は?」
髪を乱し上げ、付言する。
「俺はブラッドだ。…ブラッド・ジラ」
この頃のブラッドの英語は、今現在よりもスペイン訛りが顕著だった。
Rの発音がやや強い彼流の自己紹介を聞いたレインは、面映ゆそうに瞳を細め、顔を赤らめた。
それは浮き立つような、不思議な高揚感によるものだったのだが、この時のレインには、その感情をどう表現し、どのように彼に伝えればいいのかが解らなかった。
何度も口を開きかけるが上手く言葉を発せられず、数分間に及び悪戦苦闘を繰り返した末、ようやく絞り出したハスキーな声で、途切れ途切れに自分の名前を告げる。
「…レイン…エル。…だと…思う」
彼の答えを辛抱強く待っていたブラッドは、クシャクシャとレインの髪を撫でると、口元を少し緩めて言った。
「レインか。…いい名だな」
それ以降、ブラッドはレインの事を詮索しなかった。
その何でもない風な気遣いが本当に嬉しかった事を、レインは今でも覚えている。
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