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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
生まれた時は確かに、温かい手と祝福があった。
両親と呼べる存在。
顔は…覚えていない。
間違いなく人から生まれ、人間としてこの世界に生を受けた。
それは何よりも、彼を安堵させる事実だった。
無意識下にある記憶と心に刻まれた感情が、彼の知りたい真実を解き明かしていく。
両親が共にREDSHEEPの関係者であったこと。
それが全ての始まりだった。
聖なる焔神を宿し、生後間もなく焔の能力を発生した我が子を、両親は迷わず組織に捧げた。
ブロンドの母親とは異なる黒髪に、人類では類例のない紅(あか)い瞳を持って生まれてきたその子供を、組織の研究者達は、我先にと挙(こぞ)って受け入れた。
驚異的な生命体。
あらゆる実験が繰り返される度に、研究者達は彼の持つ未知の力に驚嘆し、魅入られていった。
彼の細胞は不死であり、最高出力で発せられた焔は数百万度にまで及ぶ。
太陽の表面温度と同レベルの灼熱を操る彼の破壊力は、もはや人間と呼ぶ事すら憚られる。
最高の闇神、破壊の神ルシファーの器としてまさに、彼は相応しい。
組織の重鎮が彼を器として認めるまで、そんなに時間はかからなかった。
組織はルシファーをこの世界に降臨させるプロジェクトを進め、彼をそのための器として育てる事を決めた。
類稀な美貌、能力、頭脳を持ったレイン・エルという個体は、「全き力」を求める組織にとって、これ以上はない逸材だった。
しかし、順調だったプロジェクトは不測の事態により、突如として断念せざるを得なくなった。
レインが12歳になり、降臨の儀式をいよいよ翌年に控えた頃、闇神を宿す王(マスター)、李聯が、組織の意向を無視し、レインに生贄(ベルウェザー)の呪印を焼いてしまったのだ。
闇神に呪印を焼かれた彼は堕ち、肉体と魂は縛られる。
名実共にレイン・エルは――李聯のものとなる。
「…嘘だ…」
呟きが零れる。
「違う。こんな…」
生贄の儀式。
忌まわしい記憶が、実感が、滾々と湧き出る水のようにレインの意識へ流れ込んでくる。
「ッ…嘘だ!」
右肩が焼けつくように熱くなり、肩を抱いて蹲る。
紅い刻印。
痛々しいほど鮮明に刻まれた生贄の証は、過去の記憶がないレインには臆測すら及ばず、皆目見当がつかなかったもの。
「嘘だ…ッ」
凄惨な過去の映像は正面から迫り来て、次々とレインを透過して行く。
見たくない。
もう…何も知りたくない…!
堕ちる事など望まない。
誰かに服従などしたくない。
俺に宿る力が聖なるものだと言うなら、なぜ破壊を司る?
俺の焔が生み出すのは惨禍(さんか)だけだ。
調和や再生とは正反対に位置するこの力が、聖なるものだと?
俺は一度として、そんな風に感じた事は無い。
こんな力、俺は望まない。
要らないのに。
誰かが言っていた。
俺は、遺伝子的に全ての生物を魅了するように出来ていると…人を狂わせると。
欲望を剥き出しにして触れてくる、沢山の手。
ドス黒いあの手。
苛まれた記憶。
これ以上…耐えられない。
こんな身体は要らない。
こんな力は支えきれない。
心を閉ざし、何も受け入れまいと暗闇に逃げ込んだ彼の眼前に、古びた木製の扉が出現した。
それは軋んだ音を立て、ゆっくりと開かれていく。
向こう側から漏れ出す眩い光にレインは瞳を細め、そして瞠目した。
暑い日差し。
崩れそうな建物が列居する、汚い街並み――
スラム。
当時の懐かしい声が、彼を出迎えた。
「勿体ないこと言うなよ。俺は好きだぜ…オマエの顔も――カラダも、さ」
それは、レインが自分の容姿を嫌悪していると知った時に…「彼」が言った言葉だ。
彼に触れようと手を伸ばした、刹那。
テープを巻き戻すかのように景色が高速で切り替わり、次の瞬間、レインはスラムの入口、傾いたゲートの前に立っていた。
生まれた時は確かに、温かい手と祝福があった。
両親と呼べる存在。
顔は…覚えていない。
間違いなく人から生まれ、人間としてこの世界に生を受けた。
それは何よりも、彼を安堵させる事実だった。
無意識下にある記憶と心に刻まれた感情が、彼の知りたい真実を解き明かしていく。
両親が共にREDSHEEPの関係者であったこと。
それが全ての始まりだった。
聖なる焔神を宿し、生後間もなく焔の能力を発生した我が子を、両親は迷わず組織に捧げた。
ブロンドの母親とは異なる黒髪に、人類では類例のない紅(あか)い瞳を持って生まれてきたその子供を、組織の研究者達は、我先にと挙(こぞ)って受け入れた。
驚異的な生命体。
あらゆる実験が繰り返される度に、研究者達は彼の持つ未知の力に驚嘆し、魅入られていった。
彼の細胞は不死であり、最高出力で発せられた焔は数百万度にまで及ぶ。
太陽の表面温度と同レベルの灼熱を操る彼の破壊力は、もはや人間と呼ぶ事すら憚られる。
最高の闇神、破壊の神ルシファーの器としてまさに、彼は相応しい。
組織の重鎮が彼を器として認めるまで、そんなに時間はかからなかった。
組織はルシファーをこの世界に降臨させるプロジェクトを進め、彼をそのための器として育てる事を決めた。
類稀な美貌、能力、頭脳を持ったレイン・エルという個体は、「全き力」を求める組織にとって、これ以上はない逸材だった。
しかし、順調だったプロジェクトは不測の事態により、突如として断念せざるを得なくなった。
レインが12歳になり、降臨の儀式をいよいよ翌年に控えた頃、闇神を宿す王(マスター)、李聯が、組織の意向を無視し、レインに生贄(ベルウェザー)の呪印を焼いてしまったのだ。
闇神に呪印を焼かれた彼は堕ち、肉体と魂は縛られる。
名実共にレイン・エルは――李聯のものとなる。
「…嘘だ…」
呟きが零れる。
「違う。こんな…」
生贄の儀式。
忌まわしい記憶が、実感が、滾々と湧き出る水のようにレインの意識へ流れ込んでくる。
「ッ…嘘だ!」
右肩が焼けつくように熱くなり、肩を抱いて蹲る。
紅い刻印。
痛々しいほど鮮明に刻まれた生贄の証は、過去の記憶がないレインには臆測すら及ばず、皆目見当がつかなかったもの。
「嘘だ…ッ」
凄惨な過去の映像は正面から迫り来て、次々とレインを透過して行く。
見たくない。
もう…何も知りたくない…!
堕ちる事など望まない。
誰かに服従などしたくない。
俺に宿る力が聖なるものだと言うなら、なぜ破壊を司る?
俺の焔が生み出すのは惨禍(さんか)だけだ。
調和や再生とは正反対に位置するこの力が、聖なるものだと?
俺は一度として、そんな風に感じた事は無い。
こんな力、俺は望まない。
要らないのに。
誰かが言っていた。
俺は、遺伝子的に全ての生物を魅了するように出来ていると…人を狂わせると。
欲望を剥き出しにして触れてくる、沢山の手。
ドス黒いあの手。
苛まれた記憶。
これ以上…耐えられない。
こんな身体は要らない。
こんな力は支えきれない。
心を閉ざし、何も受け入れまいと暗闇に逃げ込んだ彼の眼前に、古びた木製の扉が出現した。
それは軋んだ音を立て、ゆっくりと開かれていく。
向こう側から漏れ出す眩い光にレインは瞳を細め、そして瞠目した。
暑い日差し。
崩れそうな建物が列居する、汚い街並み――
スラム。
当時の懐かしい声が、彼を出迎えた。
「勿体ないこと言うなよ。俺は好きだぜ…オマエの顔も――カラダも、さ」
それは、レインが自分の容姿を嫌悪していると知った時に…「彼」が言った言葉だ。
彼に触れようと手を伸ばした、刹那。
テープを巻き戻すかのように景色が高速で切り替わり、次の瞬間、レインはスラムの入口、傾いたゲートの前に立っていた。
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