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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「ッ…、やめて、何なの」
「君はレインを超える存在になり得る者だ。レインが闇の化身(ロード・オブ・ナイト)なら、君は光の化身(ライト・オブ・ホープ)と呼べる。素晴らしい…私が君を、神に近づけてあげよう」
「っ…えぇ?」
二人の方へ歩み寄ってきたブラッドが、ノーマンの手を捩じり上げた。
そのままノーマンを持ち上げたかと思うと、ゴミでも捨てるように壁へ叩きつける。
衝撃音と共に、くぐもった悪声が漏れた。
「お…おいッ」
聖の気にスピリッツを乱され、船酔いに似た吐き気で立てずにいた一哉だったが、危険を察知し、慌てて声を上げる。
「ブラッド。そいつを殺したら、ウィルスが…」
「解ってる」
ブラッドは大股でノーマンに近づくと、この上なく冷淡な眼差しで彼を見下ろした。
ノーマンは床に手を伸ばし、震える手で眼鏡の在処(ありか)を探ろうとしているが、爪がコンクリートを弾くばかりで、少し先にあるそれには届きそうもない。
仁王立ちになったブラッドは、眼鏡の上に片足を乗せると、冷やかに質した。
「…探し物はこれか?」
軽くつま先で小突き、ノーマンの方へ転がす。
ノーマンがそれに気づき、掴もうとした瞬間、その手ごと一気に踏み潰した。
「ぎゃっ…」
鈍い音が鳴り、ノーマンの指が不自然な方向に曲がった。
もう片手でその手を掴み、のたうつノーマンへ、ブラッドが侮蔑を吐く。
「scum sucker . (クズ野郎)」
ノーマンは脅えながらも、ブラッドの神経を更に逆撫でるような一言を発する。
「お、お前達に…。私を殺せるはずがない。あ、あの方もきっと…bQ7735を苦しめ、コントロールするには…私の技術が必要なはずだ。組織はまだ、私を…ひっ」
ブラッドはノーマンの胸倉を力任せに掴むと、荒々しくその身体を引き上げた。
獰猛なブラッドの横顔を目にした一哉はいよいよ危うさを感じ、万が一の「うっかり殺っちゃった」的な展開を未然に防ぐべく、よろめきつつも立ち上がる。
ツォンの居場所とレインの治療法を聞き出すまでは、ノーマンを死なせる訳にはいかない。
――あんなヤツに助け舟なんざ出したくもないが…。
一哉が嘆息する。
――このままって訳にもいかなそうだ。
「ブラッドに噛み殺される前に吐いた方がいいぜ、ノーマン。…ツォンはどうした」
すぐ鼻先で、恐怖の針に胃の腑を突かれるような恫喝(どうかつ)を向けられたノーマンは、恐怖で唇を戦慄かせながら、激しくかぶりを振る。
「わ、わわ、私じゃないんだ…ッほ、本当は、もっと…もっと着実に、お前達を追い詰めるつもりだったのにッ…あ、ああの方がッ…」
意味不明なノーマンの発言に沙羅は首を傾げ、答えを求めるように一哉を見遣る。
「さっきから…この人、一体何のことを言ってるの?生贄(ベルウェザー)だとか何とか…そう言えばレインも、さっき倒れる前に…同じような事を言ってたような…」
「沙羅、こいつが正気に見えるか?」
一哉は片眉を上げ、軽妙に詭弁(きべん)を述べる。
「さっきのレインにしたってそうだ。意識が混濁してた…あいつはノーマンの作ったウィルスを受けたんだ。…コイツに、変な思想でも植えつけられたんだろ」
彼女に疑念が残らぬよう、組織にまつわるキーワードは全て狂人の戯言(ざれごと)と片づけながらも、その一方で一哉は、今までの経緯を冷静に黙考する。
――「あの方が」とノーマンは言った。
――本当はもっと着実に俺達を追い詰めるつもりだったのに、と。
――あの怪物は、沙羅の光にひどく苦しんでいた。
――あれは普通のクリーチャーやフィクサーじゃない。
咀嚼(そしゃく)の末に得心し、一哉が笑む。
――そういう事か。
――自分のもの に手を出されて、聯(ルエン)がただ静観している訳がなかったんだ。
選ばれた生贄以外の人間が王(マスター)クラスの闇神(フォール・ディー)に魂を食われると、その人間は昇華できず、異形のものへと姿を変える。
死しても尚、永久に魂を食われ続け、主から解放されるその時まで、塗炭(とたん)の苦しみに耐え続けなくてはならない。
――あの怪物。
初めて見た時に何故、既視感を覚えたのか。
思考から脱した一哉が、ノーマンを一瞥した。
「あれ がツォンだな」
倒れた怪物を、顎先で指し示す。
示された方向へ顔を向けたブラッドは驚愕し、声を上げる。
「な…あれが!?」
ブラッドは何度か、ツォン・バイ本人と顔を合わせた事があった。
たまたま居合わせた程度で会話をした訳ではなかったが、彼の顔は記憶している。
床に横たわっているのは3メートルを超す怪物の死体であって、そこには人間の面影など微塵も残っていない。
「ッ…、やめて、何なの」
「君はレインを超える存在になり得る者だ。レインが闇の化身(ロード・オブ・ナイト)なら、君は光の化身(ライト・オブ・ホープ)と呼べる。素晴らしい…私が君を、神に近づけてあげよう」
「っ…えぇ?」
二人の方へ歩み寄ってきたブラッドが、ノーマンの手を捩じり上げた。
そのままノーマンを持ち上げたかと思うと、ゴミでも捨てるように壁へ叩きつける。
衝撃音と共に、くぐもった悪声が漏れた。
「お…おいッ」
聖の気にスピリッツを乱され、船酔いに似た吐き気で立てずにいた一哉だったが、危険を察知し、慌てて声を上げる。
「ブラッド。そいつを殺したら、ウィルスが…」
「解ってる」
ブラッドは大股でノーマンに近づくと、この上なく冷淡な眼差しで彼を見下ろした。
ノーマンは床に手を伸ばし、震える手で眼鏡の在処(ありか)を探ろうとしているが、爪がコンクリートを弾くばかりで、少し先にあるそれには届きそうもない。
仁王立ちになったブラッドは、眼鏡の上に片足を乗せると、冷やかに質した。
「…探し物はこれか?」
軽くつま先で小突き、ノーマンの方へ転がす。
ノーマンがそれに気づき、掴もうとした瞬間、その手ごと一気に踏み潰した。
「ぎゃっ…」
鈍い音が鳴り、ノーマンの指が不自然な方向に曲がった。
もう片手でその手を掴み、のたうつノーマンへ、ブラッドが侮蔑を吐く。
「scum sucker . (クズ野郎)」
ノーマンは脅えながらも、ブラッドの神経を更に逆撫でるような一言を発する。
「お、お前達に…。私を殺せるはずがない。あ、あの方もきっと…bQ7735を苦しめ、コントロールするには…私の技術が必要なはずだ。組織はまだ、私を…ひっ」
ブラッドはノーマンの胸倉を力任せに掴むと、荒々しくその身体を引き上げた。
獰猛なブラッドの横顔を目にした一哉はいよいよ危うさを感じ、万が一の「うっかり殺っちゃった」的な展開を未然に防ぐべく、よろめきつつも立ち上がる。
ツォンの居場所とレインの治療法を聞き出すまでは、ノーマンを死なせる訳にはいかない。
――あんなヤツに助け舟なんざ出したくもないが…。
一哉が嘆息する。
――このままって訳にもいかなそうだ。
「ブラッドに噛み殺される前に吐いた方がいいぜ、ノーマン。…ツォンはどうした」
すぐ鼻先で、恐怖の針に胃の腑を突かれるような恫喝(どうかつ)を向けられたノーマンは、恐怖で唇を戦慄かせながら、激しくかぶりを振る。
「わ、わわ、私じゃないんだ…ッほ、本当は、もっと…もっと着実に、お前達を追い詰めるつもりだったのにッ…あ、ああの方がッ…」
意味不明なノーマンの発言に沙羅は首を傾げ、答えを求めるように一哉を見遣る。
「さっきから…この人、一体何のことを言ってるの?生贄(ベルウェザー)だとか何とか…そう言えばレインも、さっき倒れる前に…同じような事を言ってたような…」
「沙羅、こいつが正気に見えるか?」
一哉は片眉を上げ、軽妙に詭弁(きべん)を述べる。
「さっきのレインにしたってそうだ。意識が混濁してた…あいつはノーマンの作ったウィルスを受けたんだ。…コイツに、変な思想でも植えつけられたんだろ」
彼女に疑念が残らぬよう、組織にまつわるキーワードは全て狂人の戯言(ざれごと)と片づけながらも、その一方で一哉は、今までの経緯を冷静に黙考する。
――「あの方が」とノーマンは言った。
――本当はもっと着実に俺達を追い詰めるつもりだったのに、と。
――あの怪物は、沙羅の光にひどく苦しんでいた。
――あれは普通のクリーチャーやフィクサーじゃない。
咀嚼(そしゃく)の末に得心し、一哉が笑む。
――そういう事か。
――
選ばれた生贄以外の人間が王(マスター)クラスの闇神(フォール・ディー)に魂を食われると、その人間は昇華できず、異形のものへと姿を変える。
死しても尚、永久に魂を食われ続け、主から解放されるその時まで、塗炭(とたん)の苦しみに耐え続けなくてはならない。
――あの怪物。
初めて見た時に何故、既視感を覚えたのか。
思考から脱した一哉が、ノーマンを一瞥した。
「
倒れた怪物を、顎先で指し示す。
示された方向へ顔を向けたブラッドは驚愕し、声を上げる。
「な…あれが!?」
ブラッドは何度か、ツォン・バイ本人と顔を合わせた事があった。
たまたま居合わせた程度で会話をした訳ではなかったが、彼の顔は記憶している。
床に横たわっているのは3メートルを超す怪物の死体であって、そこには人間の面影など微塵も残っていない。
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