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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
入口は見当たらず、壁に取り付けられた端末からアクセスする以外には、核の直撃でも無い限り、開けようがなさそうに思える。
「あ、風…。ちょっとスッキリかも」
上空から漂う冷たい空気を胸一杯に吸い込み、沙羅が深呼吸をした。
「ぶっ壊す?」
先程までの醜態は何処へやら、一哉は別人のように強気な態度でブラッドを見遣る。
沙羅も両手を広げ、気持ち良さそうに深呼吸を繰り返している。
そんな彼らを横目にしながら、ブラッドは一人、どうでもいい雑感に耽っていた。
――こういうとこも…似てるんだよな…。
公衆の面前で如何な恥を晒そうとも、翌日には通常の気高さを取り戻し、ケロッとしている傾向のある、我らがボス、レイン・エル。
――やっぱ新人類(ニュー・ヒューマン)って…共通してるとこあるのかな。
ブラッドは、今日一日彼等と行動を共にしただけで、新人類と呼ばれる三人の共通点が、だいぶ理解出来たような気がしていた。
高さ50メートルにも及ぶ巨大シェルターを見上げ、ブラッドは思索をめぐらせる。
――地の能力者(アース・マスター)である藤間にかかれば、この防壁も簡単に崩せるだろう。
――だがそれは、ノーマンにも解っているはずだ。
厭な予感が喚起され、ブラッドはシェルターを見つめながら前髪をかき上げ、煮え切らない様子で呟く。
「…。ひっかかるな」
――施設内に侵入してから、R-J以外は大した敵と出くわしてない。
ここに辿り着くまでの間ずっと拭えなかったのは、見えざる手に導かれ、何者かが敷いたレールの上を走らされているような違和感だった。
端末にはシェルター内部の構造が記されている。
この先には何もない…情報が正しければ、ここが最終地点という事になる。
――何かが仕掛けられている可能性は高い。
――もしくは…。
『お疲れ様。ブラッド・ジラ君…いや。bS2935、と呼んだ方がいいかな?』
嗄(しゃが)れた寂声(さびごえ)が辺り一帯に響き渡った。
音の出所を探るように目を配りながら沙羅はナイフを握り、一哉は不動に徹したまま五感を研ぎ澄ませている。
シェルターから最も近い位置に立つブラッドは、その向こう側にいるであろう声の主――ノーマンへと殺意を滾らせ、宿怨を込めた瞳を鋭くしていた。
――bS2935。忌々しい呼び名だ。
消える事のない過去、ブラッドの右腕に焼きつけられた、バーコードが疼く。
彼の人生が一変したのは、16歳の時だった。
自身の凄絶な過去を、ブラッドは心ならず回顧する。
8年前――
冷戦以後、他国からの援助を失い弱体化した東アフリカの小国は、度重なる内戦で荒廃し、冷戦時代に他国が残していった大量の武器を手にした民兵達が暴虐の限りを尽くす、無法地帯と化していた。
そんな中、首都を制圧していた民族の間で勢力争いが起き、内戦はやがて国中の民族を巻き込んで、遂に小国は無政府状態に突入した。
泥沼化した内戦を終結させるべく、国際連合は軍事介入の断行を決定し、平和維持軍が小国に進軍する事になった。
前時代的な銃器で武装する小国に対し、圧倒的な軍事力を振り翳す格好となった国連軍は、30分以内に作戦を終了させると公言した。
数週間後、某民族の幹部が会合を開くという情報を得た国連軍は、小国の首都にある彼等の本拠地に、強襲部隊を送り込んだ。
米特殊部隊、第11部隊と第7連隊は、小国の民兵将軍の副官であるメスフィン外務大臣と最高政治顧問を捕らえるべく、作戦コード「クラリス」を決行した。
ジョージア州フォート・ベニングに本部を置く軽歩兵部隊、第七連隊に所属していた俺は、この戦いに参戦した最年少の兵士だった。
入口は見当たらず、壁に取り付けられた端末からアクセスする以外には、核の直撃でも無い限り、開けようがなさそうに思える。
「あ、風…。ちょっとスッキリかも」
上空から漂う冷たい空気を胸一杯に吸い込み、沙羅が深呼吸をした。
「ぶっ壊す?」
先程までの醜態は何処へやら、一哉は別人のように強気な態度でブラッドを見遣る。
沙羅も両手を広げ、気持ち良さそうに深呼吸を繰り返している。
そんな彼らを横目にしながら、ブラッドは一人、どうでもいい雑感に耽っていた。
――こういうとこも…似てるんだよな…。
公衆の面前で如何な恥を晒そうとも、翌日には通常の気高さを取り戻し、ケロッとしている傾向のある、我らがボス、レイン・エル。
――やっぱ新人類(ニュー・ヒューマン)って…共通してるとこあるのかな。
ブラッドは、今日一日彼等と行動を共にしただけで、新人類と呼ばれる三人の共通点が、だいぶ理解出来たような気がしていた。
高さ50メートルにも及ぶ巨大シェルターを見上げ、ブラッドは思索をめぐらせる。
――地の能力者(アース・マスター)である藤間にかかれば、この防壁も簡単に崩せるだろう。
――だがそれは、ノーマンにも解っているはずだ。
厭な予感が喚起され、ブラッドはシェルターを見つめながら前髪をかき上げ、煮え切らない様子で呟く。
「…。ひっかかるな」
――施設内に侵入してから、R-J以外は大した敵と出くわしてない。
ここに辿り着くまでの間ずっと拭えなかったのは、見えざる手に導かれ、何者かが敷いたレールの上を走らされているような違和感だった。
端末にはシェルター内部の構造が記されている。
この先には何もない…情報が正しければ、ここが最終地点という事になる。
――何かが仕掛けられている可能性は高い。
――もしくは…。
『お疲れ様。ブラッド・ジラ君…いや。bS2935、と呼んだ方がいいかな?』
嗄(しゃが)れた寂声(さびごえ)が辺り一帯に響き渡った。
音の出所を探るように目を配りながら沙羅はナイフを握り、一哉は不動に徹したまま五感を研ぎ澄ませている。
シェルターから最も近い位置に立つブラッドは、その向こう側にいるであろう声の主――ノーマンへと殺意を滾らせ、宿怨を込めた瞳を鋭くしていた。
――bS2935。忌々しい呼び名だ。
消える事のない過去、ブラッドの右腕に焼きつけられた、バーコードが疼く。
彼の人生が一変したのは、16歳の時だった。
自身の凄絶な過去を、ブラッドは心ならず回顧する。
8年前――
冷戦以後、他国からの援助を失い弱体化した東アフリカの小国は、度重なる内戦で荒廃し、冷戦時代に他国が残していった大量の武器を手にした民兵達が暴虐の限りを尽くす、無法地帯と化していた。
そんな中、首都を制圧していた民族の間で勢力争いが起き、内戦はやがて国中の民族を巻き込んで、遂に小国は無政府状態に突入した。
泥沼化した内戦を終結させるべく、国際連合は軍事介入の断行を決定し、平和維持軍が小国に進軍する事になった。
前時代的な銃器で武装する小国に対し、圧倒的な軍事力を振り翳す格好となった国連軍は、30分以内に作戦を終了させると公言した。
数週間後、某民族の幹部が会合を開くという情報を得た国連軍は、小国の首都にある彼等の本拠地に、強襲部隊を送り込んだ。
米特殊部隊、第11部隊と第7連隊は、小国の民兵将軍の副官であるメスフィン外務大臣と最高政治顧問を捕らえるべく、作戦コード「クラリス」を決行した。
ジョージア州フォート・ベニングに本部を置く軽歩兵部隊、第七連隊に所属していた俺は、この戦いに参戦した最年少の兵士だった。
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