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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


仰ぎ見ても、そこには延々と続く常闇(とこやみ)しかない。

彼等の到着を待っていたかのように一斉に飛びかかってきたのは、歪(いびつ)な形をした遺伝子改変種、人としての形を保てなかったクリーチャー達だった。

四方から我武者羅に襲い来るそれらをブラッドが一刀両断にし、残った数匹は一哉の造り出したコンクリートの刃によって貫かれる。

クリーチャーの動きを抑制したその隙に、三人は先へと走り出す。

冷たい空気の中に張り詰めた緊迫感は、耐熱、耐圧仕様の防護服を突き抜け、肌をピリッと痺れさせる。

点々と設置された照明灯(サーチライト)が漆黒の世界を仄(ほの)明るく照らす中、斃(たお)れたクリーチャーから漂う異様な臭気に顰蹙(ひんしゅく)しながらも、三人はエアポートを走り抜ける。

先頭のブラッドが扉を蹴り開くと、彼等はいよいよ研究所内部へと踏み入った。

「トラップは一々説明していられない。お前達は能力者だ。言わなくても解るな?」

尋ねてはいるものの、ブラッドは二人の返答を待ってはいない。
沙羅と一哉は頷き、それぞれに見解を述べる。

「平気。さっきのマシウスとかいうのじゃなければ、判別できる」

「俺はむしろ、仕掛けるの得意だし」

妙に浮き立った二人の声に振り向かされ、ブラッドが苦笑した。

「遠足じゃないんだぜ。そんなに楽しそうにするなよ」

三人はラウレスから受け取った端末通りに道を進み、培養室、染色室、低温室、暗室など、幾つもの部屋を通り過ぎる。

人気のない施設内には、危険な実験体を保管したり、監視する為の設備が目につく。

バイオハザードの危険を持つ公敵(パブリック・エネミー)が入れられていたであろう巨大な水槽や檻、分厚い壁に仕切られた沢山のゲート。

不気味なのは、そのどれもが空だということだ。

沙羅は、襲い来るクリーチャー達を躱しながら、強烈な悪臭に眩暈を覚え、片手で口元を押さえていた。

細胞が朽ちた臭い、水が腐ったような腐敗臭。
主電源が落ちて空清が止まり、空気が滞った状態の室内は、鼻が曲がるどころか折れてしまいそうな異臭で満ちている。

ふと正面を見据えれば、薬品が散らばる床の上で、何かが蠢いている。

巨大な魚のような、黒いもの。

「うぇ…」

顫動(せんどう)しながら地面をのた打ち回るそれを、沙羅より先に見つけてしまった一哉は青ざめ、「嘘だ…」と呟きつつ、思いっきり首を振った。

巨大な魚の鱗(うろこ)は、なんと、無数の唇で出来ている。
どう見ても人間の唇に思えるそれが、苦しげにパクパクと蠢いていて…。

「激しくキモい…マジ、キツ…」

前方に立ち塞がる強烈な刺客の、絶大なインパクトによろめく一哉の背中に、なぜか両耳を塞いだ状態の沙羅が、ウリ坊の如くぶつかってきた。

その衝撃で前のめりになり、魚に急接近しそうになった一哉が、世にも情けない悲鳴を上げる。

「ちょ、おいっ…! あぁぁっ…い、いや――ッ!!」

しかし、耳を塞いでいる彼女に、一哉の叫びは聞こえない。

猪突猛進、まさにウリ坊と化した彼女は、一哉の背中に頭をつけ、向う見ずに前進しようと、ひたすら足を動かす。

「あー、早く行って、早く早く。見ない見なーいッ」

沙羅の一直線な突進に耐える一哉は、既に涙目だ。

「やめろ、待て…ッて、うわぁああ〜ッ」

一哉が二度目の悲鳴を上げたと同時に、最強の刺客が飛び跳ねた。

魚は沙羅の防護服を掠めて二人の背後へ飛ぶと、今度は後ろから前方へビョーンとダイブし、元の位置に戻ってくる。

「いやーーッ、か、かかか掠った、掠ったッ!…うわ、くっさッ!」

掠った腕の部分に鼻を近づけた沙羅は、目潰しを喰らったかと思う程のツンとした刺激臭に顔を背け、鼻腔を襲った悲劇に耐えられず、地団太を踏む。

二人の行く手を阻み、待ち構える魚。

微動だにもできない緊迫感の中、恐怖に全身を慄(おのの)かせ、一哉は硬直していた。

「ど、どうしよう…」

「一哉ーっこわいよーっ」

「うう…お、俺だってこわい…」

いつの間にか戻って来ていたらしいブラッドは、目を疑うような彼等の失態ぶりを見兼ね、やおら鉤爪を伸ばすと、魚をスパンと三枚に卸(おろ)した。

料理人もびっくりの早業に、二人は拍手喝采を送る。

「なに遊んでんだ。行くぞ」

二人はもつれ合う様にして魚を避けながら、駆け出したブラッドの後を追う。


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